第135話小百合の気持ち

次の日の放課後、俺は呼び出された場所に行く。


「小百合? 入るぞ」


「え、ええ、どうぞ」


珍しくおちょくっても来ないし、何やら慌てている。

これは覚悟して入った方が良さそうだ。


「失礼します」


一応生徒会室なので、一礼をして入る。


「あら、相変わらず律儀ね。さあ、座ってちょうだい」


「おう、ていうか……私物化しすぎじゃね?」


この広い部屋を貸し切りとか……。

しかも、紅茶やコーヒーまでも飲み放題。


「良いのよ、仕事はきちんとしてるから。信用されてるってことね」


「その辺は昔から用意周到だったもんなぁ」


中学時代から大人顔負けのやつだった。

喋りで勝てる者はなく、成績もトップクラス。

それでいて、きちんとするべきところはきちんとして。

手を抜くときは、しっかりと手を抜く。

見た目も良く、スタイルも良く、性格も……まあ、良いと言われていた。

欠点かわからないが、BL好きくらいか?

それも一部の信者には人気あったけど……やめよ、思い出したくない。


「別に普通よ。言われたことを一段上の状態で行えば良いのよ」


「それができれば苦労はしないんだよ」


こいつなら、きっとどの職種についても上手くやるだろうな。


「そうらしいわね。正直言ってよくわからないけど」


「で、相談ってなんだ?」


「そ、そうよね…… 例の頼みたい件なんだけど」


「ああ、お前には借りがある。俺にできることなら手伝うさ」


「そ、そうよねっ! いっぱい借りがあるものねっ!」


「お、おい? 落ち着けって」


急に、部屋の中をウロウロし始める。


「わ、わかってるわよっ! ……こ、こ、こ」


「……ニワトリか?」


「違うわよっ! ……恋人っているのかしら?」


「あん? 俺には綾という、それはそれは可愛い彼女が……」


「そ、そうじゃなくて……」


「冗談だよ、全く……もしかして、アキのことか?」


「っ——!? し、知ってたの?」


こいつのこんな姿は初めて見るな……。

顔が真っ赤になって、モジモジしてるとか。


「いや、最近そうなんじゃないかと思ってな」


「やっぱり、冬馬にはバレるわよね……今までは素振りを見せて来なかったし」


「その言い方だと、随分前からか?」


「そうね……中学二年の時かしら?」


「俺たちが同じクラスになった時か……」


そして母さんが亡くなる年でもある。


「ふふ、冬馬にアキ。智に飛鳥、剛真もいて楽しかったわね」


「ああ、楽しかったな。馬鹿ばかりやってたが……どうして今なんだ?」


「だって……冬馬に、あの頃を思い出させてしまうじゃない」


「小百合……そっか、ありがとな」


今まで言わなかったのは、俺に気を使っていたのか。

母が死んだ年のことを……。


「べ、別に普通よ、それくらい。あとは、アキがモテ始めたじゃない?」


「ん? ……ああ、そうだったな。丁度、思春期の真っ只中だったし」


中1の終わり頃から、アキはモテ始めた。

そしてアキもそれを受け入れ、チャラ男と化したわけだ。


「随分と調子に乗ってたわね」


「まあ、仕方ないさ。あの頃ってそういうものだろう」


正直言って、俺も母さんのことがなければ……。

飛鳥と付き合っていたという可能性もあったかもしれない。

本当に、ああいうのは巡り合わせがあるんだろうな。


「否定はできないわね。まあ……つまりは告白しても、他の女子と同じように扱われると思ったのよ。だから、告白はしなかったわ」


「なるほど、そういうことか」


「あと、アキがそれを求めていたから。モテることに満足している自分と、それに辟易してる自分との狭間にいたから。だから私達のグループに安心を求めてたと思うのよ。飛鳥は冬馬が好きだったし、私は興味ないフリをしてBL好きとか言ってたし」


「……ん? まてよ……BL好きとか言い出したのは、あの頃からだったな。それもフリだったとか?」


「ええ、そうよ。そう言えば、アキが安心するかと思ってね。そうすれば、少なくとも側にはいれる……なによ?」


「いや、良い女だと思って」


アキも、こんなに思ってくれる人がいることに気づかないなんてな。


「ふっ、当たり前じゃない。あっ——いっておくけど、BL好きは嘘から出たまことよ」


「……はっ?」


「いや、そのね……自分でもびっくりしたのよ。嘘ついたからには、色々知っておかなきゃって思って……そしたらハマっちゃって。終いには、可愛い女の子まで……」


「そ、そうか」


こういう時、なんと言っていいかわからない。


「今ではライフワークの一部だわ! ある意味、アキに感謝しても良いわねっ!」


「そこはブレないのな」


「今更戻れないわね……あと、最近あいつに事件があったじゃない?」


「……知っていたのか?」


「そりゃ、私ですもの。付き合いも長いし、好きな人であれば気づくわよ」


「どうするつもりだった?」


「どうもしないわ。冬馬とほぼ同時だったから。私がやったことといえば、先生方に伝えただけよ。最近、この辺りにタチの悪い奴らが出るって」


「そうか! そういうことか!」


道理で迅速な対応をするわけだ。

真兄だからと思っていたが、先生から絶大な信頼を得ている小百合だから動いたんだ。


「まあ、大したことはしてないわよ」


「そんなことはない。あれのおかげで、俺も助かった。アキには?」


「言うわけないじゃない。多分、私達には知られたくないと思ってたでしょうし」


「間違いないな。俺も多少強引な手を使ったし」


「それで……アレが良かったなんて言わないけど……女遊びはなくなったじゃない?」


「まあ、そうだな」


「今なら少しは見てくれるかなぁーとか、貴方と綾ちゃんを見てたら良いなぁとか……なに笑ってるのよ?」


「す、すまん」


「良いわよ、私だって柄じゃないことはわかってるから」


「なるほどねぇ……俺は、それを手伝えばいいのか?」


「難しい注文なのはわかってるわ。まず告白したところで、あいつが本気にしないし」


……目に見えるようだ。

ハァ!? 隠しカメラは!? 俺をどうしようってんだ!?とか言いそう。


「意識するように仕向けろと?」


「それがベストね。別に今すぐどうこうなりたいわけじゃないから。四年も待ってたもの、あと二、三年は待つつもりよ」


「わかった。じゃあ、俺の方でも考えておく」


「ええ、お願いね。ごめんなさいね、貴方も忙しいのに……こんなこと、貴方にしか頼れないし」


「良いさ、恩を借りたら返す」


そこで話は終わり、生徒会室を出る。


……そうかなぁと思っていたが。実際に聞くと驚くものだな。


しかし、また俺と綾か……。


そうか……全て、綾が起点になっているんだ。


改めて感謝しないとな……何か、して欲しいことでも聞いてみるか。

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