第134話ダブルデート~後編~

 博はしばらくブツブツ言っていた。


「えっと、名倉先生が兄ってことは? 黒野は会った時には黒野だったから……」


「まあ、色々とややこしいしな」


「そうだよね、私達との関係もあるし」


「そうか、二人は知ってだということだよね? 清水さんはわかるけど、なんで冬馬が?」


「あっ——ごめんなさい、吉野。貴方のことを考えてなかったわ」


「いや、気にすることない。俺も博になら言っても問題ない」


「とりあえず、もう一回座ろうか?」


 綾の提案通りに、ひとまずベンチに座りなおす。


「まあ、詳しい話は後々にして、簡単に説明をするとだな……」


 俺が名倉先生と昔からの知り合いということ。

 そのきっかけが、母親が亡くなったということ。

 黒野は幼い頃に両親が離婚して、母親の姓を名乗っているということ。

 父親は行方知れずということ、兄とは最近になって交流を再開したことなどを話す。


「そっか……謎が解けたよ」


「何かしら?」


「いや、最近雰囲気変わったなって思ってたからさ。柔らかいというか、笑うようになったというか……」


「えっ? ……そ、そうかしら?」


「うん、てっきり彼氏でもできたと思ってたよ」


「い、いないわよ、そんなの」


「そっか……あの人がお兄さんなんだ」


「まあ、そんな感じだ。ほら、行こうぜ。詳しく聞きたかったら、また今度話すとしよう」


「そうそう! また四人で遊んでもいいし!」


「綾の言う通りね、それも悪くないわ」


「俺も賛成かな。冬馬、俺は何も言わないのが正解でいいのかな?」


「ああ、そうしてくれると助かる。可哀想なんて思ったらぶっ飛ばすからな?」


「わかった、何も言わない」


 やはり、博もいい奴だな。

 友達になれて良かったと思える。

 これもそれも……綾のおかげなんだけどな。


「博、サンキュー。綾もありがとな」


 綾の頭を軽くポンポンする。


「ふえっ? ……私、何かしたかな?」


 困惑する綾の手を引いて、アトラクションへ向かう。




 アトラクションの進歩ってすげえ!


「ひゃっ!?」


「うおー!」


「こ、子供騙しね……キャァ!?」


「うわっ!?」


 3Dスクリーンから怪獣たちが飛び出す!

 いや、飛び出すように見えている!

 俺たちは車に乗っている設定で、怪獣達の足元を逃げ回る!



 ……少し疲れた。


「な、なんだあれ?」


「す、凄かったね……」


「舐めてたわ……」


「いや、びっくりしたよ……」


 数年ぶりに馴染みのある遊園地に来たら、いつの間かあんなものまであるとは。


「さて……先に昼飯にするか?」


「そうだね、もうお昼時だし」


「賛成ね」


「俺もお腹空いたかな」



 満場一致ということで、中にあるイタリアンレストランに入る。

 ここは人気の店らしいが、今は空いている。

 ひとまず席に着き、それぞれ注文をすませる。


「でも、あれよね、一番良い時にきたわよね」


「リニューアルしたばかりで綺麗だもんねっ!」


「それもあるけど、今日は平日だしね」


「まあ、普通は学校に行ってる時間帯だな」


「特別感って言ったら良いのかしらね?」


「ウンウン、わかるよー。みんなが授業してる時に遊んでるもんね」


「そういえば、俺達の学校の生徒もいたね。それに、同じクラスの奴もいたし」


「ん? そうなのか?」


「冬馬は交流を深めたのが最近だからね」


「まあ、吉野なら平気でしょ。来年もクラス替えはないし」


「良かったよねー。今のクラス楽しいもんっ!」


「どうせ、綾は吉野がいるからでしょ?」


「違いないね。もはや、恒例の行事だしね」


「も、もぅ……そんなこと……あるもん」


「ふっ……人のことを言えるのか? 二人して息ピッタリだが?」


「へっ?」


「はい?」


「そうだよねっ! 二人ってお似合いだもん!」


「ま、まさか、綾にからかわれるとは……」


「はは、ありがとうと言っておくよ」


「ちょっと? 随分と余裕ね?」


「い、いや、そんなこともないんだけど……」


 黒野が隣の席の博に詰め寄る。

 いや、気持ちはわかる。

 急に近づかれると、それまでの余裕はどっかに飛んでしまう。

 甘い香りとか、その瞳とかに神経を奪われるからな。


 助け舟を出そうかと思ったが……タイミングよくきたようだ。

 商品が来たことで、会話は中断される。


「さて、とりあえず食べちゃおうぜ。頂きます」


「そうだね、頂きます」


「まあ、そうね。頂きます」


「ほっ……頂きます」




 食事が終わって、再びアトラクションに乗る。


 バイキング、コーヒーカップ、オクトパス……。


 その後、ひとまず目星を付けた物は乗ったので、お土産コーナーに入る。


 そこは商店会のようになっていて、多種多様なお土産屋さんがある。


 お土産屋さんを見ながら、ソフトクリームを食べる。


「あっ、ついてるぞ?」


「ふえっ?」


「動くなよ……ほら」


 ほっぺに付いているソフトクリームを取ってやる。


「あ、ありがとぅ……」


「まるで子供みたいだな?」


「うぅー……少し楽しいだけだもん」


「吉野、綾は昔からこういうデートに憧れていたのよ」


「うん?」


「あ、あのね、冬馬君と二人きりも良いんだけど……友達とタブルデートみたいなのをしてみたかったの」


「ああ、なるほど。それで、今日はテンションが高いのか。早く言ってくれりゃいいのに」


「だ、だって……男の人はあんまり好きじゃないって雑誌とかに書いてあったから……」


「まあ、イチャイチャはし辛いものね」


「俺達も気まずいしね」


「綾」


「は、はぃ……」


「雑誌に載ってるのは俺じゃない。今度から、俺に聞くように。それに、別にイチャイチャするだけが恋人のする事ではないだろうし。綾が楽しければ、俺はそれを見れれば楽しい——わかったか?」


「冬馬君……うんっ!」


「あらま、嬉しそうな顔しちゃって……仕方ないわね、中野」


「なんだい?」


「可愛い綾のためにタブルデートをしてあげましょう」


「異論なしだね」


 ひとしきり遊んだ後、遊園地をあとにする。


 さて……あとは、俺が出る幕じゃないな。


 博のタイミングもあるだろうし、暖かく見守るとしよう。

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