最終章~それぞれの未来へ~

第139話試験に向けて

 文化祭も終わり、振替休日も終わると……。


 いよいよ、あの季節がやってくる。


 そう……期末テストである。


 あれから数日が経ち、いよいよ二週間前に迫っていた。


 ここで気合いを入れ直して、綾と共に良い点を取らないといけない。


 じゃないと、先生方に言われてしまうからだ。


 付き合ってなんかいるから成績が下がると。


 そうでないことを証明し続けなくては。


 というわけで……勉強会である。




「ほら、ここが違うわ」


「えっ? あっ、ほんとだね」


「ねえねえ、冬馬君」


「うん?」


「なんだが、あの二人いい感じだね?」


「まあ、そうかもな」


 ただ今、黒野と博と共に教室の隅で勉強会をしている。

 それぞれ上位成績ということもあり、教えあいにも熱が入る。

 といっても、前回の俺は付け焼き刃だったから、ここからが勝負だな。

 ここで成績が下がれば、また言われてしまうだろう。


「私も頑張るから」


「うん?」


「冬馬、見ててね!」


「あ、ああ……」


 何が理由はわからないが、相当気合が入っている……。

 これは、俺も負けてられないな。


「やれやれ、相変わらず仲がいいね」


「ほんとよね、見せつけてくれちゃって」


「いや、お前たち……ブーメランだからな?」


「へっ?」


「はい?」


「あれ? 二人とも気づいてないの?」


「な、何がかしら?」


「な、何のことかな?」


 ……こいつら、まだ付き合ってないらしい。

 いや、まあ、それ自体は本人達次第だからいいんだ。

 ただ、クラスの連中はすぐに気づいた。

 そして憎むように……いや、羨ましがっている。

 なにせ、もうすぐクリスマスだし。


「はぁ……まあ、良いけどな」


「ふふ、二人は似てるよね」


「「似てない」」


「「あっ——」」


「墓穴を掘るとはこのことだな」


 すると、綾が席を立つ。


「冬馬さんや、帰ろうか」


 なるほど、そのパターンか。


「ええ、綾さん。あとは若いモンだけにしましょうか」


「貴方達!?」


「冬馬!?」


 二人を無視して、俺たちは教室を出て行くのだった。





 その帰り道……。


「寒くなってきたね?」


「ああ、そうだな。もう十二月に入ったからな」


「ふふ、冬馬君の手ってあったかいよね?」


「綾よりはな」


「えへへ」


「どうした? さっきから機嫌が良いな?」


「うんとねー、何といいますか……色々な人が幸せになってるなって」


 まあ、真兄と弥生さんが本格的に付き合ったり……。

 剛真と森川も上手くいってるみたいだし……。

 飛鳥と智も上手く言ってると言っていた。

 そして、ここに来て黒野と博がいい感じになっていると。


「いや、それはまだ早いぞ。付き合ってからが本番だ」


「もちろん、それはわかってるよ? でも、その時の気持ちって大事だと思うんだ」


「ふむ……」


「例えばだけど……本当に例えばだよ?」


「うん?」


「私が冬馬君を振ったとしたら……」


「ゴハッ!?」


 あまりの衝撃に膝から崩れ落ちる!

 どうやら、世界は滅んだようだ。


「と、冬馬君! 例えばだから!」


「わ、わかっている……ふぅ、世界が崩壊しかけたぞ」


「そ、そこまで……嬉しい……じゃなくて!」


「すまん、話が進まんな。さあ、どうぞ」


 足腰に気合を入れて、綾の言葉に耳を傾ける。


「えっと……そしたら私のこと嫌いになったり、付き合わなければ良かったと思う?」


「なるほど、そういう意味か。いや………今の気持ちも含めて、それは掛け替えのない財産だと思う。というか、そんなことを思う奴は、そんなに好きじゃないんだよ。本当に好きなら相手の幸せを願ったり、自分の反省をしたりするもんだ。結局、自分本位なだけだ」


「ふふ、そうかもね。だから、ひとまず良かったかなって」


「ああ、それならわかる。後のことは、それぞれに任せるとしよう。他人がでしゃばり過ぎるとろくなことがない」


「うんっ! そ、それに……」


「どうした?」


「わ、私たちの恋人の時間も大切だもんね……?」


 綾は少し照れながら、俺の手を強く握る。


 本当に、どうしてくれようか?


 とりあえず俺は、強く手を握り返すのだった。






 ◇◇◇◇◇



 ~綾視点~



 えへへ、嬉しいな。


 冬馬君が、そんなこと言ってたなんて……。


 もちろん、機嫌が良い理由は嘘じゃないけど……。


 一番は、やっぱりあれかな?





「綾、ちょっと良いかしら?」


「う、うん……」


 何やら真面目な顔をしたお母さんに呼ばれます。

 な、なんだろう? 何かしたかな?


「さて、もうすぐ期末試験ね」


「は、はい」


 お母さんは、成績には少しうるさい。

 勉強が将来に役にたつかはわからないけど、しておくことは無駄にならないと。

 そうした知識や努力した経験は、いずれ何処かで役にたつことがあるかもしれないって。

 役に立たなくても、いざ必要な時に困るからしておきなさいって。


「前回は一位だったけど、それは冬馬君のおかげよね?」


「うん、そうだね。国語が苦手だったから」


「別に一位じゃなくても良いんだけど……あんまり下がらないようにね?」


「うん、そのつもり」


 お母さんはうるさいけど、教育ママというわけではない。

 あくまでも、きちんとしていれば怒ったりはしない。

 だから尚更気になった……普段なら、こんなこと聞かないもん。


「なら良いわ。実はね、冬馬君に……お父さんに挨拶がしたいって頼まれてね」


「ふえっ!?」


 あ、挨拶って!?

 結婚!?……違う違う! まだプロポーズされてないもん!


「まだってなに!?」


「綾、落ち着きなさい。脳内でなに起きたかはわかるけど」


「あぅぅ……」


「そういうところは、お父さんそっくりね。意外とあわてんぼうだし、抜けてるところもあるから」


「す、すみません……」


「まあ、冬馬君がしっかりしてるから平気かしらね」


「そ、そう! どういうこと?」


「前々から言われてはいたんたけど……うちのお父さんは綾を溺愛してるから」


「じ、自覚はあります……」


 お父さんってば、私が共学行くことを最後まで反対してたし。


「でも、彼なら平気かなって思って。きっと直情的にならずに、冷静に対応できると思うわ」


「た、たしかに……」


 冬馬君もたまにおかしくなるけど、基本的には落ち着いてる人だし……。


「まさか、高校生の男の子がそんなこと言うなんてね……綾、あなたは幸せ者ね?」


「う、うんっ!」


 それだけは声を大にして言える。

 冬馬君は、いつだって私のことを考えてくれる。

 押し付けるわけでもなく、さりげなく……。

 きっと亡くなったお母さんのおかげなのかと思う。


「というわけで……正月あたりに帰ってくるので、そこで挨拶をさせようと思います」


「……わ、わかりました!」


「つまり何か言いたいかと言うと……冬馬君と付き合ったからと、あれこれ言われないようにしておきなさい」


「はいっ!」


 そっか、そういうことか。


 よーし! 頑張るぞ! 冬馬君と付き合ったからだなんて言われないように!


 ……でも、冬馬君ったら……そんなこと言ってたんだ。






「冬馬君!」


「うん?」


「大好き!」


「お、おう」


 手を繋いだまま、冬馬君はそっぽを向いてしまいます。


 でも、そんなところも可愛いと思います。


 冬馬君、私は幸せ者です。

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