第138話アキに提案

 翌日、早速行動に移すことにする。


 期末試験も近いし、早めに動いた方が良さそうだ。



 昼休みにアキを連れて、例の教室で昼飯を食べることにする。


 気を使って、綾は教室で黒野と森川と食べるそうだ。


「なんだ? 珍しいこともあるもんだな?」


「よう、アキ。いや、ちと小耳に挟んでな」


「何かあったっけ?」


「ミスターコンテストの結果で、また告白されたんだろ?」


「一位のやつに言われたくないが……まあ、そうだな」


 ちなみに俺は告白されていない。

 おそらく、そういう扱いではない感じなのだろう。

 綾を大事にしてるというのがポイントだったらしいし。


「全部、断ったんだって?」


「まあな……前も言ったが、少し懲りたし」


「良いことだ。お前は女の子を傷つけないとはいえ、少々やりすぎだったからな」


「うっ……まあ、お前にはいう権利があるわな。助けてもらったし、お前は綾ちゃんに一途だしな」


「今年はどうするんだ? いつもならクリスマスになるとデートのハシゴが大変とか言ってたが?」


「あっ——そうか! 今年はなにもないのか! ……それはそれで楽かもな」


「ほう?」


「いや、実際に一人になったらよ……意外と楽なんだわ。ラインもそんなに見なくて良いし、電話もしなくて良いし。土日は時間ができたから、色々なことに挑戦できるしな」


「なるほど、何に挑戦してるんだ?」


「ひとまず、ジムに通い始めたぜ。冬馬にばっかり頼るのもよくないからな」


「お前はヒョロイからなぁー」


「ヒョロイとかいうな! 細身と言え!」


「へいへい、羨ましいこって。まあ、良いことだな」


「あとは、お前が好きだっていうアルザール戦記?だっけ?」


「おお、それがどうした? 興味あるなら貸そうか?」


「いや、自分で買ってみた。お前が言ってたろ? その一冊が次巻への影響を与えるってよ」


「アキ……! そうだよっ! たかが一冊、されど一冊だっ! 新刊を買うことで、部数が増えて、本の積み具合も変わり、本屋も潤い、また発注をし、重版されるんだっ!」


「お、おう」


「その結果! 作者はモチベーションが上がり、そして続巻も発売され、刊行ペースも上がりかもしれない! 本屋にも活気が出て、少しは潤うかもしれない! 知ってるか!? 二十年前から今日まで、二万二千あった本屋は半分らしいぞ!?」


「わ、わかった! わかったから!」


「さらには! 電子書籍の売り上げは関係ないらしい! 大事なのは紙媒体の売り上げだと!」


「か、紙を買う! 本屋で買う!」


「なら良し! ……あっ——すまん」


 つい熱くなってしまった。

 でも作者のあとがきに書いてあったんだ。

 紙が売れないと続刊が出ないって……。

 すでに好きな作品のいくつかが、それで打ち切りになっている。


「全く、お前も変わったよな。中学はスポーツマンで、カーストトップにいたってのに」


「あん? そうだったのか?」


「まあ……お前は、そんなの気にするタイプじゃなかったもんな。つるんで楽しい奴らと、ただ居ただけだし。というか、当の本人達って意外と気にしてないけどな。周りが勝手に決めつけてるだけだし」


 ふむ……これは使えるかもしれない。


「なあ、アキ」


「ん?」


「つまり、クリスマスとクリスマスイブが空いていると?」


「そうだよ。なんだよ、自慢か? 可愛い彼女と過ごすって」


「綾が可愛いことは間違いないし、イブは過ごすと思うが……中学の連中とクリスマスパーティーでもしないか?」


「それは剛真や智、飛鳥に小百合とかってことか?」


「ああ、そのメンツだな」


「まあ……悪くはねえな」


「原因の俺が言うのも何だが、今年になって仲直りっつーか……まあ、そんな感じだろ?」


「クク、そうだな」


「笑うなよ……でだ、来年になったら受験でそれどころじゃないだろうし。ここらで一回集まってワイワイやらないかと思ってな」


「あぁー、確かに。もうそんな機会はそうそうないか。ましてや六人が集まるとなると」


「まだ聞いてみないことにはわからないが、アキはそれで良いか?」


「おう、俺は全然良いぜ。どうせ暇してるしな」


「よし、決まりだな」


「おっと、早く食べようぜ。時間なくなっちまうよ」


 俺たちは急いで昼飯を食べる。




 そして部屋を出る前に、それぞれに連絡を入れておく。


 教室の席に戻ると……返信が来ていた。


『うむ! 了解したっ! とても良き提案だっ!』


 剛真よしと。


『まあ、良いでしょう。こんな機会もないですからね。楽しみにしてます』


 智も良しと。


『ヤッホー! 良いね良いねー! そういうの待ってたっ! 盛り上がっちゃうぞー!』


 飛鳥も問題なしと。


 そして……。


『冬馬、私のためよね? 早速行動に移してくれるなんて、相変わらず律儀な人ね。惚れちゃいそうよ……とまあ、冗談はさておき、本当にありがとう。まさか、クリスマスにアキに会える日が来るなんて思ってなかったから。それも、こんなに早くに。口実もいい感じだし、嘘はついてないし、素晴らしい提案だと思うわ。もちろん、私もアキだけでなく、みんなとバカをやれるのを楽しみにしているわね」


 ……よし、これで良いだろう。


 俺も、みんなとバカをやれるのを楽しみにしてるよ。

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