第131話冬馬君はようやく約束を果たす

 教室に入って俺達は、早速片付けを開始する。


 ちなみに、優勝者ということで地元の遊園地のチケットをもらった。


 期限があるので、いつ行くか考えておかないとな。




 ある程度教室を片付けたら、今度は校舎の外を掃除する。


 教室には何十人もいらないしな。


「さて、ゴミ出しに行くか」


 全く、ちゃんとゴミはゴミ箱に捨てろっての!

 なんで、わざわざ草むらとかに捨てるかね。


「モラルの低下ってやつだよね。しかもこういうのに限って、大人とかがしてるんだよね」


「おっ、博」


 振り向くと、ゴミ袋を抱えた博がいた。


「一緒に行くかい?」


「おう、そうするか」


 二人でゴミの収集車へと向かう。


「それでさ……」


「まあ慌てるな。黒野のことだな?」


「まあ……ハァ、我ながらうざいな」


「いや、仕方ないことだ。片思い歴が長そうだしな?」


「かれこれ三年になるのかな?」


「だから、モテるのに彼女を作らないんだな」


 スポーツマンで高身長。

 性格は温和で、言葉遣いも柔らかい。

 顔も爽やかだし、頭も悪くない。

 まさしく、モテない要素がない。


「ハハ……まあ、否定はしないよ」


「黒野の件も解決したし、綾の件も解決したし……まあ、良いかもな」


「ほんと良かったよ。何もなくて」


「博もありがとな」


「いや、大したことはしてないよ」


「そんなことはないさ。怪しい奴がいるって教えてくれたし。俺一人では出来ることなんてたかが知れているからな。何かあってからでは遅いし」




 そして、ゴミを収集車に預ける。


「あっ、これ使うか?」


 これ、四人分になってるし。


「えっ? これってリニューアルオープンした西武遊園○? でも、優勝商品だよね? 俺達が行っても良いのかい?」


 埼玉県民なら、ほとんどが知っている遊園地だ。

 まさか豊島○が潰れて、こちらが生き残るとは……。

 誰も予想しなかったであろう。


「ああ、でも四人分あるし。博には悪いことしたし」


「ん? ……何かされたかな?」


「いや、正直言って……少し忘れてたんだよ」


「ああ、そういうこと。それは仕方ないよ、冬馬は色々あったし」


「いや、それでも気が済まん。というわけで、遠慮なく使ってくれ」


「まだ短い付き合いだけど……なんか、冬馬らしいね。では、有り難く」


「じゃあ、ひとまずタブルデートの場所は決まったな」


「あとは、いつにするかと……」


「どう誘うかだな?」


「そこが問題だよね。まだ好きというわけにもいかないし……かといって、意識されないのも困るかな」


「俺が誘うか?」


「良いのかい? そこまでしてもらっても……」


「ああ、良いさ。上手くいくかはわからないが……」


「もし失敗でも、文句は言わないよ」


「おっけー、なら考えておくわ」


「ただ、贅沢を言うなら……」


「おう、なんだ?」


「申し訳ないけど、早めが良いかなと……」


「ん? 何かあるのか?」


「いや、ほら……クリスマスまでとかも近いしさ。それに、年が明ければ受験も考える年になるし」


「あぁーなるほど。もう十一月中旬も過ぎたしな。あと一ヶ月か……それまでに告白したいってところか? それともクリスマスに?」


「告白まで行けたら良いけど……クリスマスはないかな。もし振られたら——立ち直れないよ」


「まあ、ダメージはデカイわな」


 俺もあんだけお膳立てして遊園地いって……。

 綾に振られてたら……うん、考えたくもないわ。


「だから……」


「よし、明日にしよう。なら、出来るだけ早い方が良い」


 振替休日で、明日は休みとなっている。


「はい?」


「ちよっと行ってくる!」


「ちょっ!?」




 俺は急いで教室に戻ると……。


「ゼェ、ゼェ……」


「あれ? 冬馬君? どうしたの?」


「あら、どうしたの?」


「ちょうど良い。黒野、明日は暇か?」


「えっ?……デートの誘いかしら?」


「冬馬君!?」


「おい、ただでさえキャラが似てるんだから勘弁してくれ」


 こいつ、小百合に近いものがあるからな。

 腹黒いというか……こう、一癖ある感じが。


「会長さんね? 確かに、シンパシーは感じるわね。まあ、平気よ」


「綾も平気か?」


「う、うん……どうしたの?」


「いや、チケット四枚もらったろ? あれでいかないかと思ってな」


「西武遊園○かぁ〜いいねっ!」


「懐かしいわね……行きたいわ。でも、吉野は一人になっちゃうわよ?」


「あん?」


「四枚なら、私と愛子、吉野と綾じゃないの?」


 ……しまった。

 そりゃ、そうなるわな。

 善は急げと思ってきたが……早くも失敗か?


「アタシは明日は無理だよ〜剛真君と……デートするし」


「きゃー!? 良いねっ!」


「あら、素敵ね。初デートってことは……邪魔しちゃ悪いわね」


「ま、まあね……剛真君が二人が良いって言うし! だからタブルデートとかも無理かなーって」


 よし! 剛真! よくやった!


「じゃあ、あと一人はどうするのかしら?」


 よし……ここはジャブを打ってみるか。


「俺も女子だけだと気まずいな……黒野は誰だったら良い? 」


「男子で吉野と知り合い……田中君は私を怖がってるし、陸上部の加藤君は私が苦手だし……中野かしら? 何だかんだで付き合いは長いし」


 何気にマサが可愛そうだな。

 まあ、やかましいから黒野とは合わないか。

 しかし、作戦は成功だ。


「博か……うん、それなら俺も良いな。あいつとは、一回遊んでみたかったし」


「中野は良い人よね。紳士的だし、落ち着いてるし」


「綾もいいか?」


「うんっ! 楽しみだねっ!」


 良い人か……いいか悪いかは別として、ひとまず嫌われてはいないようだ。


 あとは、博次第だな。


 俺も、陰ながら応援するとしよう。

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