第124話文化祭2日目~その1~

一夜明け、文化祭2日目となる。


 俺たちは、いつものように電車で待ち合わせをしていた。


「そういえばね……視線を感じた気がする……」


「ん? 何がだ?」


「いや、文化祭祭の時に……全身を見られているような感じ……最初はお客さんなのかなって思ってたんだけど……家に帰ってからよーく考えてみると……」


「気のせいじゃないと思ったってことか……」


「うん……ただ、嫌な感じがしなかった気がするの……うーん……観察されてるような?」


 観察か……メモといい、ストーカーではないのか?


「そうか、実はな……」


 言うつもりはなかったが、本人が気にしているようなので伝えることにした。

 どっちしろ不安であることに変わりはないが、俺がしっかりしていれば良いことだ。


「メモを取っていた? うーん……」


「まあ、今は気にしなくて良い。何があろうと——俺が側にいる」


「冬馬君……うんっ! ありがとう! せっかくのデートだもんねっ!」


「そういうことだ」


 気持ちを切り替えて、文化祭2日目の開催だ。



 学校に到着した俺達は荷物を置き、そのままデートとなる。


「何から見ようかな!?」


「何がしたいんだ?」


「憧れてたのは、食べ物をあーんとか……景品があるような出し物とか?」


「まだ食うには早いから、景品系を攻めるとするか」


「うんっ!」


 腕に柔らかなものが押し当てられる……!


「お、おい?」


「えへへ〜」


 まあ、綾が喜ぶならいいか。



 まずは……知らない射的からのようだ。


「よーし! 私からやるねっ!」


「まあ、待て……これでよしと。それを見ていいのは——俺だけだ」


 綾が鉄砲を打つ際に、スカートから脚線美が覗かれてしまうからな。

 なので、俺が真後ろに立つ。


「あ、ありがとぅ……」


「いや、気にするな。俺の独占欲だし」


「はぅ……」


「ほら、やってみ」


「う、うん、狙いは貯金箱! ……えいっ!」


「……おい?」


 明後日の方向に飛んでいったぞ?


「あれ? おかしい……もう一回……えいっ!」


 カスリもしない。


「可愛いか!」


「えぇ!?」


「ほら、貸してみ」


「うぅー……」


「自分でやりたいのか?」


「う、うん……」


「仕方ない……ほれ、よく見ろ」


 背中から抱きしめるように、一緒に銃を持つ。


「ひゃん!?」


「なんだ? 変な声出して」


「だ、だ、だって……」


 いや、わかってるけどね?

 アレが当たっているのは……せっかく、人が意識しないようにしてるっていうのに。


「ほら、集中しろ」


「は、はぃ……」


「行くぞ……そこだ!」


「えいっ!」


 俺が狙いをつけて綾が撃った弾は——貯金箱に命中する。


「やったぁ!」


「おめでとうございます! はい、どうぞ」


「ありがとうございます! えへへー、楽しい」


「良かったな。しかし、なんで貯金箱なんだ?」


「えっと……これ、大きいでしょ?」


 郵便ポストの形をした貯金箱は、確かにそこそこの大きさがある。

 十万円貯金箱って書いてあるくらいだし。


「ああ、500円玉貯金とかもできそうだな」


「そうなのですっ!」


「ん?」


「あのね……これに、二人で貯金しない?」


「それは良いが、何に使うんだ?」


「何に使うかはわからないけど、いつか一杯になったらこれを使って二人で何かしたいなぁって………」


「これ、結構時間かかるぞ?」


「ダメかな……?」


「いや、ダメなことなどない。それに……嬉しいしな」


「え?」


「この先も一緒ってことだろ?」


「う、うん……そういう意味もあります……」


「じゃあ、いつか貯まったら……旅行でもいくか」


「うわぁ……! いいねっ! 楽しみ!」



 その後はお化け屋敷、展示物、占いなどをしていく。

 そして、小腹がすいてきたので、屋台で買ったものをベンチで食べる。


「んっ〜! おいひい!」


「なんだろな? 祭りとか、こういう時に食う焼きそばとかって美味いよな」


「不思議だよねー。使ってるのはいつも通りなんだけど」


「お化け屋敷はしょぼかったな」


「私達は、前に遊園地の行ってるしね」


「確かに……また、行こうな」


「うんっ! 占いは良かったなぁ〜」


「いや、アレは……」


「うん?」


「いや、何でもないです」


 占う人を睨みつけていたからなぁ……。

 あれじゃ、相性が悪いとか言えないだろうに。


 そして、たこ焼きを食べていると……。


「あっ——忘れてた! あ〜ん……」


「あーん……もぐもぐ……うん、さっきより美味い」


「えへへー、わ、私も……あーん……」


「あーん……」


「……もいひい!」


「おい、食べてからにしなさい」


「……美味しい!」


「ああ、そうだな。好きな人とすると、何でも楽しいし美味しいな」


「も、もぅ……ずるいです……いつも、不意にそういうこと言うんだもん」


「軽々しく言うものでもないしな。あっ——もちろん、言われるのは好きだぞ?」


「……す、好きです……改まって言うのは照れますね……」


 その時、ピンポンパンポンという音が鳴る。

 つまり、校内放送だな。


『ご来客の皆様にお知らせします。本日三時より、ミスターコンテストを開催いたします。興味のある方は、是非ご参加ください』


「近づいてきたな……ん? まずい!」


「え? ……一時になっちゃう!」


 俺たちは、急いで教室へ向かうのだった。

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