第123話文化祭1日目~最終~

 休憩をした俺達は、再び教室に戻る。


 後ろのドアから入り、従業員スペースにいくと……。


「あっ、おかえり」


「こんにちはー」


「おう、啓介に恵美さん」


「むぅ……」


「おい? 何をむすっとしている?」


「下の名前で呼んでる……」


 おい、可愛いのだが?


「いや、しかしな……バイトで決まったからな……」


「冬馬君、今はバイト中ですか?」


 膨れている……なんだこの可愛い子は。


「ふふ……田中でいいわよ。貴方が噂の彼女さんね……うわぁ〜滅多にお目にかかれないレベルの美少女……なるほど、吉野君が夢中になるわけだ。こんなに愛されちゃってるし」


「む、夢中……愛される……」


 今度はモジモジし出した——このまま、どこかひと気のないところに行きたい。


「では、田中さんで。しかし、仲がいいですね? 弟だけに会いに文化祭に来るなんて」


「いや〜本当はお母さんも来る予定だったんだけど……啓介が友達いっぱいできたからってお母さんがはしゃいじゃって……」


「僕がお願いだから来ないでって……全員にプレゼントを用意しようとしてたし……」


「ハハ……それは流石に嫌だな」


「わ、私も……」


「というわけで、私だけが視察というか……本当に上手くやってるのかなーと思って見にきたわけですよ」


「啓介は平気ですよ。さっきも俺の妹を守ってくれましたしね」


「聞いたわ……もう、びっくりよ。あの啓介が……私の後ろに引っ付いて泣き虫だったあの子が」


「お姉ちゃん!?」


「でも、貴方みたいになりたいって……家族揃って泣いちゃったわよ。これからも弟と仲良くしてくれたら嬉しいです」


「クク……啓介は俺のダチですよ。言われなくても仲良くしますよ」


「冬馬君……」


「よかったわ、これで両親にも報告ができるわ。じゃあ、そろそろ帰るわね」


「啓介、送っていけ。また何かあれば大変だ」


「うん、そうするよ」


「じゃあ、またバイトでねー」


「ええ、また」


 二人が出て行った後、俺達は表に出て働く。


 綾をナンパする奴を撃退したり。

 俺に女の子が群がって、綾が膨れたり。

 智が飛鳥を連れてきて謝らせたり。

 剛真が森川に会いきたり。


 そんな中、珍しい組み合わせが来た。


「おっ、どうした?」


「お疲れ様、冬馬」


「よう、似合ってんぜ」


 アキと小百合という珍しいコンビがやってきた。

 この二人は仲が良いが、同族嫌悪というか……。

 二人きりっていうのは、昔からあんまり見ないな。


「なんだなんだ? 二人して」


「ミスターコンテストのお知らせに来たわ。後、綾ちゃんを愛でに来たわ」


「俺もだ」


「アキ——死にたいか?」


「じ、冗談だよ……こぇぇ」


「ふふ……私は女子だから綾ちゃんを愛でられるわ! アキ——ざまぁ!」


「ク、クソォ……この腐った女め……」


「おい、ほどほどにしろよ? ったく、女子同士でも男子同士でもいけるとか……」


「あら? 二人共、褒めてくれるの? ありがとう」


「「褒めてないから」」


「かぶったわ! これは良い題材に……」


「「するなっ!!」」


「あっ、あのっ!」


「あら、綾ちゃん。相変わらず可愛いわね」


「あ、ありがとうございます……じゃなくて! まずは座ってください! みんなが見てますから!」


 いつの間にか視線が集まっていた。

 まあ、この二人は割と有名人だしな。


「あら、ごめんなさい。そうね、アキのせいで怒られたわ」


「俺が悪いの?」


「ああ、全くだ。アキのせいで怒られたぜ」


「あれ?俺のせい?」


「「まあ、怒った顔も可愛いからいいけど」」


「あぅぅ……」



 こうして……あっという間に時間は過ぎ、1日目が終了した。


「ふぅ……疲れたな」


「お疲れ様」


「綾こそな」


「じゃあ、着替えないとだね」


 男子は部屋の外で着替えるで、教室を出る。


「冬馬、少しいいかな?」


「博、わかっている。例の件だな?」


「すまないね、催促して……」


「いや、構わない。黒野の事情はある程度解決した。おそらく、もう誘っても平気だろう」


「やっぱり……家族の件かい?」


「知ってたのか?」


「詳しくは知らない。ただ、どうしても噂にはなるからさ。片親とかそういうのは」


「そうか……文化祭が終わって、来週あたりに予定を入れるとしよう」


「本当かい?助かるよ。ありがとう、冬馬」


「いや、こっちこそ悪かった。実は言うと、少し忘れていた」


 綾のストーカーの件もあるし……。


「何かあったのかい?」


「いや……綾が、最近見られている気がするって言うからさ」


「それは心配だね……ん?いや……」


「どうした?」


「気のせいかもしれないけど……清水さんを見ていた人がいたかも」


「なに? ……詳しく教えてくれ」


「確証はないけど……清水さんを見て、何かメモをしている人がいたんだよ。すぐにどっかに行っちゃったけどね」


「なるほど……貴重な意見だな。博、サンキュー」


「いや、こっちこそごめん。もっと確認しておけばよかったよ」


「いや、この人混みじゃ仕方ないさ」


 でもそうか……この人混みの中に紛れ込むのは容易いだろう。

 明日も、これまで以上に注意しておこう。

 せっかくの楽しい文化祭が、嫌な思い出にならないように……。



 着替えた後は、みんなで片付けをする。


「さて……明日の予定は」


「私と冬馬君は午前中休みで、文化祭を見て回るでしょ?」


「ああ、さっきも言ってたしな。俺はミスターコンテストにも出なきゃだな」


「時間はいつなの?」


「さっき、小百合とアキが来た時に伝えられたよ。三時から開催するって」


「じゃあ、デートの邪魔はされないねっ!」


 綾は、心底嬉しそうな顔を見せる。


「お、おう……」


「な、なんで照れるの!? あ、相変わらず、冬馬君のデレポイントは謎です……」


「自覚がないとは——恐ろしい子や」


「どゆこと?」


「いや、いいんだ。ああ、明日は遊ぶとしよう」


 綾が何も気にしなくていいように、俺がアンテナを張っていればいいし。


「うんっ!」


 この笑顔を守れるなら安いものだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る