第125話文化祭2日目~その2~

 教室に戻り、急いで着替える。


 綾は別室で着替えるので、少々遅れるだろう。


「よし! 行くか!」


 気合いを入れて、店に出た瞬間……固まった。


 テーブルに見知った顔が座っていたからだ。


「よっ、冬馬」


「やあ、冬馬」


「蓮二さんに淳さん!」


「おっ、似合ってるじゃねえか」


「そうだねー。冬馬は肩幅もあるし」


「警察官が日曜日って休めるんですか?」


「まあ、前もって言ってあるからな」


「俺の店は夜からだしねー。ただ、眠いけど」


 淳さんは、確かバーを経営してるんだよな。

 流石に、俺はまだいけないけど。

 卒業したら、綾と行ってみたいな。


「でも、どうして急に? 今までは来なかったのに」


「いや、今までは遠慮してたんだよ。お前が普通の高校生に戻るのに、俺らは邪魔でしかないからな」


「でも、今の成長した冬馬なら平気かなーと思ってね」


「二人とも……ありがとうございます!」


「なに、気にするな。本命は別にあるし」


「ですねー」


「えっと、それは?」


「聞いたぜ、冬馬。お前が紹介したんだって?」


「真司さんに春がきたって聞いたよー」


「ああ、弥生さんのことか。うん、今のところ上手く行ってるみたい」


「ククク……あの真司がねぇ……あははっ! からかうしかねえな!」


「そうですよねー。ここならからかっても、あの人手出しできないでしょうし」


「まあ、いつもみたいに殴るわけにはいかないでしょうね」


「よっしゃー! じゃあ、お代を置いとくぜ。淳、行くぞ」


「ええ、日頃の恨みを晴らしてやりましょうか」


 淳さんは真兄に遊ばれたからなぁ〜俺もだけど。


「ほどほどにお願いしますね? あれでも、この学校では人気者なんですから。暴力沙汰は勘弁してくださいよ?」


「わかってるさ。というか、俺の職業忘れてないか?俺のがやばいわ」


「あっ、そういやそうだった」


 制服を着てないと、ただのヤカラにしか見えない。


「おい? ったく……あっ、お前に投票しといたからな。あははっ!」


「冬馬、かっこよかったよー。ププッ……!」


「ニャロ……最後に言うんかい」


 二人が去った後、綾もきて本格的な仕事に入る。


 しかし……とある異変に気付く。


「君、写真撮って良い!?」


「あれだよね! あの子だよ!」


「ふえっ!? な、何ですか!?」


「お客様、当店はそのような場所ではございません」


「な、何だよ!」


「いいじゃないか! 噂になってるし!」


「おい——詳しく聞かせてもらおうか」


「ヒィ!?ご、ごめんなさいぃーー!」


「おい!?……くそっ、抜け出すわけにもいかん」


 その後もそういった輩が来るので、撃退していると……。


「うぅー……」


「綾、無理しなくていい。裏に下がると良い」


「でも、こんな忙しいのに……でも、私が邪魔しちゃってるね……」


 くそっ! 綾が折角楽しんでいるのに……!


「綾、気にすることないわ」


「そうだよー。ほら、誰も気にしてなんてないから」


 クラスのみんなも頷いている。


「みんな……私、弱くなっちゃったね……昔は、こんなこと日常茶飯事だったのに」


「綾……」


「でも、それって嬉しいことだよね。頼れる人ができたってことだから」


「ああっ! そうだな。よし、俺が付きっ切りで守るとしよう」


「ありがとう冬馬君!」


「なに、お安い御用だ。みんなも頼む!」


「「「オォォォーー!!」」」


 その後、何とか乗り切ると……。


「冬馬!綾ちゃんは無事!?」


「小百合? どういう意味だ?」


「小百合さん?」


「平気そうね……さすがは冬馬ね。私が認める数少ない男だわ。いえ、昨日の綾ちゃんに感動した連中が噂を流してしまったらしいのよ。途轍もなく可愛い女の子がいるって」


「なるほど……メイド服姿の綾の可愛さは異常だからな。それを否定することは俺にはできない」


「と、冬馬君ったら……」


「今まではこういうイベントには出てなかったんでしょ?」


「うん、そうなんです。騒ぎになっちゃったり、他の人の迷惑になっちゃうから……」


「全く! 美少女は愛でるものであっても迷惑はかけちゃいけないのよっ! それが最低限のマナーじゃないのかしらっ!」


「……ブレない奴」


「ハハ……小百合さんらしいね」


「でも、乗り切れたようね?」


「うん! 冬馬君やみんなが守ってくれたから!」


「ふふ、いい笑顔ね。やはり、綾ちゃんには笑顔が似合うわ」


「ふえっ?」


「おい? 人のセリフを取るんじゃねえよ」


「あら、いいじゃない。あっ——もうこんな時間ね。冬馬、ついでだから一緒に行くわよ」


「ん? ……三時か。ああ、良いぜ。ところで司会はお前か?」


「ええ、そうよ」


「なんでも来い。無茶振りでも何でもこなしてやるから」


「あら? どういう風の吹き回しかしら?」


「ここで綾に相応しい男だということを証明する。俺には必要のないことだが、これ以上うるさいのがいると邪魔だ。何より綾が気にしてしまう」


「冬馬君……」


「ふふ……愛ね」


「ああ、愛だ」


「あ、愛なの!?」


「ああ、もちろんだ……が、軽々しく言うつもりはない。いずれは言うから覚悟しておけよ?」


「はぃ……待ってます。あ、後で見にいくからっ!」


「あら、良いわね。私も言われたいわ」


「お前にそんな感情があるのか?」


「失礼ね、私だって乙女なのよ。それなのに、あの男ったら……」


「お、おう……よくわからないが、相談なら乗るぞ?」


「ええ、文化祭が終わったらそうさせてもらうわ」


 さて……恥ずかしいが、これからも綾と付き合うには必要なことだ。


 楽しく、残りの学生生活を送るためにはな。

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