第121話文化祭1日目~その4~

 真兄と弥生さんと別れた俺は、麻里奈を連れて教室に戻ろうしたが……。


 何かを忘れている気がした……。


「麻里奈ー!どこだー!?」


「あっ……親父だ」


「もぅ……大声で恥ずかしいなぁ……」


 親父が俺に気づき、こちらにくる。


「おっ、冬馬と一緒だったか。良かった……なんか、あったのかと」


「いや……」


「お兄」


「ん?……そうだな、何もなかったよ」


「なんだなんだ?」


「いいから!ほら、お兄に投票するよー。お兄、カッコいいね!」


「わかった!わかったから押すんじゃない!ほう……男前だな、俺に似て」


「ハハ……複雑」




 投票を済ませた二人を連れて教室に戻る。


 ちなみに、親父は入り口で真兄に会って話し込んでいる。


 是非ともお礼が言いたいと……俺は照れくさいので逃げてきたが。


「あっ——麻里奈ちゃん!大丈夫だった!?」


「はい、綾さん。心配してくれてありがとうございます」


「啓介が助けてくれたそうだからな。あれ?啓介は?」


「さっき、休憩に入ってお姉さんと出て行ったよー」


「えー!?まだ、きちんとお礼してないのに……」


 ……ん?なにか、今……おかしくなかったか?


「あれ?麻里奈ちゃん……もしかして……」


「ち、違うよ!別に……少し素敵だなって思っただけ……」


「グハッ!?」


 麻里奈が……見たことない顔しとる……!

 膝から崩れ落ちた俺を、綾が支えてくれる。


「だ、大丈夫……?」


「な、なんとか……啓介か……」


 まあ……どこぞの馬の骨よりかはいいか。


「だから、そんなんじゃないって……少し気になっただけで……」


「わかった……まあ、今度うちにも連れてくるさ」


「そ、そう……」


「ふふ……可愛い」


「もう!綾さん!?抱きしめないで——!」


 妹と綾がイチャイチャしてる……尊い……!

 誰得?——俺得だ。


「おっ、仲がいいな。これなら、姉妹でもやっていけそうだ」


「お、おじさん!?はぅぅ……」


「ハハ!お父さんと呼んでもいいぞ?」


「おい、気が速いから。で、真兄は?」


「ん?お礼を言ったら、綺麗な方と歩いて行ったぞ」


「そうか……あのな、俺の憧れの漢なんだ。その……ああいう風になれたらって思う」


「そうだな、とても良い男だった。いいんじゃないか?そろそろ、そういうことも考える時期だろうしな」


「冬馬君、なんの話?」


「後で話すよ。とりあえず、仕事をするか」




 その後1時間ほど仕事し、そろそろ休憩かと思っていると……。

 タイミングよく、森川が戻ってきた。


「あっ——愛子……どうだった?」


「ま、まあ、それなりに楽しかったかな」


「ふふ……顔赤いよ?」


「ほら!いいから!あんたらは休憩に入って!」


「親父、麻里奈、悪いが……」


「ああ、行ってこい」


「うん、私達は他見てくるねー」


 皆の了承を得て、俺と綾は一時間の休憩に入る。




 まずは教室を出て、2人で顔を見合わせる。


「お嬢様、どちらに行かれますか?」


「ご主人様、どこに行かれますか?」


「………かぶったな」


「………そ、そうだね」


「普通に行くか」


「そうしようか」


 とりあえず手を繋ぎ、2人で歩き出すが……。


「ねえねえ!あれって!」


「ポスターの人だ!あれが彼女かぁ……そりゃ一途にもなるよね」


「あれって清水さんだよな!?メイド服……パネエ……!」


「彼氏できたって聞いてだけど……夢じゃなかったのか……」


 目立ちすぎているな……。


「す、すごい見られてるね……?」


「まあ、綾が可愛いからだな」


「ち、違うよ……冬馬君が……かっこいいからだもん」


「何を照れている?」


「く、黒縁眼鏡は反則なのです……」


「はい?」


「め、眼鏡男子……実は好きなの……というか、最初にあった時から……」


「初耳だな……これからは眼鏡にするか?」


「どっちも好きと言いますか……たまにしてくれたら嬉しいです……」


「なんというか……可愛いわがままだな。わかった、今度眼鏡を買いに行くとしよう。もちろん、綾が選んでくれ」


「いいの!?」


「お、おう……」


「えへへ〜、何がいいかなー」


 こんなに喜んでくれるなら安いものだ。


 すると……再び、周りから声が聞こえてくる。


「いいなー、優しくて」


「ポイント高いよね!」


「いやあれだけ可愛い彼女いたらそうなるだろ……」



 俺と綾は顔を見合わせて、お互いに頷く。


 そして飲み物と食べ物を買い、恒例の場所に移動することにした。



 つまりは……いつもの空き教室である。


「はぁ……ゲームとかしたかったのに……」


「なに、明日もあるさ。明日の午前中はお互いに休みだから、その時に回ればいいさ。その時は普通の格好でいけばいい」


「……うん!」


「やっぱり、綾には笑顔が似合うな」


「あ、ありがとぅ……」


 このまま綾の照れ顔を眺めていたいところだが……。


「さて……さっきの話だが……」


「何か、おじさんや麻里奈ちゃんと言ってたね?」


「いや、今更気づいたんだが……俺、教師になろうかと思う」


「えっ!?ど、どういうこと?」


「まずは……俺は、やりたいことがなかった。母さんが死んで、それからは生きることに精一杯だったから……」


「うん……」


「そして綾に出会った……俺はバラバラになったものが、再構築されていくのを感じた。母を失った悲しみ……友達を遠ざけたこと……真兄や兄貴分達との交流……新しい友達……それらによって、少しずつ見えてきたんだ。やりたいことが……」


「それが……どうして先生なの?」


「いや……なんといったらいいか……まずは、真兄に憧れていること」


「うん」


「それと……意外と悪い奴はいないんだって、みんなに教えてあげたいなと思ってな」


「どういうこと?」


「見た目や性格、リア充やら陰キャやら沢山あるけど……話してみないことには、互いのことなんかわからないものだと思ってさ。もちろん、合わない場合もあるが……」


「あっ——わかる気がする。私も、愛子と仲良くなれるとは思ってなかったもん。見た目がギャルで言葉遣いもアレだったから……でも、話してみたら……そうだよね」


「いじめをなくそうなんて大層なことは言えないが……少なくとも、知らないからということもあると思うんだよ。啓介なんかもそうだし……付き合えば、当たり前のことだけど普通に話せるし楽しいからな」


「知らないから……そういうこともあるかもね」


「まあ……さっき思ったばっかで上手く言えないが……そんな感じだな」


 すると……綾が真面目な表情になる。


「冬馬君……私の話も聞いてもらって良い?」


「ああ、もちろんだ」


 これは真剣な話だと判断して、俺は姿勢を正す。


「あ、あのね……私……留学がしたいと


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