第120話文化祭1日目~その3~

 俺が、再び校舎の入り口付近へ行くと……。


 ……おい?誰の妹に声をかけている?


 ナンパ男2人に、麻里奈が絡まれている。


 ハァ、どうしてもこういう輩が増えるな。


「お……」


「やめろ!」


 ……ん?誰かが、麻里奈をかばうように立ちふさがった?

 あれは……啓介?

 あまりの展開に驚き、俺は立ち止まってしまう……。


「あぁ!?なんだ!?てめーは!!」


「おいおい!オタク少年!そういうのは漫画の世界だけにしとけって!」


「そ、その人は僕の友達の妹だ!放っておけない!」


「あっ……お兄の友達?」


「うん、そうだよ。あれ……もしかして、困ってなかった?」


「い、いえ!困ってます!」


「そ、そっか……というわけで、君たち諦めてくれますか?」


「あぁ……?馬鹿か、お前」


「ただの友達の妹だろ?関係ねえし、カッコつけてんじゃねえ!!」


 ……いかん!感動している場合じゃない!


「はいはい、そこまでー」


「今度はなんだよ!?」


「あっ——お兄!」


「冬馬君!」


 2人を守るように、男達の前に立ちはだかる。


「というわけだ、兄貴なんでな。退いてくれると助かる。ちなみに、今すぐ退くなら何もしない。今——俺はすこぶる機嫌が良い……」


 啓介が……あの不良に絡まれていた啓介が……。

 俺の妹を守るために、男気を見せてくれた……!

 こんなに嬉しいことはない……!


「お、おい?兄貴だってよ……行こうぜ?」


「バカ言うなよ!こんな恥かいたまま行けるか!」


「やれやれ……暴力沙汰にはしたくないんだが……」


 距離があるから肩を掴むのも難しい……。

 それに、頭に血がのぼっている……。

 仕方ない……一発殴られてやれば正当防衛が成立するな。


「はいはーい、先生ですよー」


「真兄?」


 ……物凄いご機嫌でニコニコしている。

 気味が悪いほどに……。


「あぁ!?今度はな……な、なんで、アンタが……?」


「お、おい……伝説のヤンキー……真司……」


「おや?俺のこと知ってんのか?なら——消えろ」


「ヒィ!?」


「す、すみませんでしたー!」


 蜘蛛の子を散らすように、そいつらは去っていった……。

 さすがだな……凄みが違う。


「あらー……真司さん」


「あっ——ち、違うんです!あれは昔の話でして……」


 真兄の後ろから、弥生さんがひょこっと顔を出している。

 なるほど……ご機嫌の理由はこれか。


「弥生さん、こんにちは」


「冬馬君、こんにちは。災難だったわね?」


「いえ、頼れる兄貴が来ましたから。ありがとう、真兄。弥生さん、真兄はもう卒業してますから平気ですよ」


「そ、そうだろ!というわけでご安心ください!」


「クス……わかってますよ——素敵でしたよ?」


「ゴハッ!?」


 弥生さんの微笑みに、真兄が崩れ落ちた。

 いや……気持ちはわかる。

 俺ですらドキッとする色気だ……綾には言えないけど。


「お、お兄!」


「おっ、すまんな。まずは、啓介」


「ご、ごめんね……助けようと思ったんだけど……」


「何をしょげている?十分に助けてくれただろう?なっ、麻里奈?」


「うん!あの……ありがとうございます!」


「そ、そっか……よかった、こんな僕でも出来たんだ……」


「俺からもありがとう、啓介。大事な妹なんだ」


「も、もぅ……」


「ハハ……話には聞いてたしね」


「冬馬君、場所を変えないかしら?」


「弥生さん?」


「ほら、周りを見て……」


「あ、あの人!」


「ポスターの人だ!あれって演出かな!?」


「だとしてもカッケーよ!俺、あの人に入れる!」


「私も!あんなお兄ちゃん欲しかったよー!」


 中学生くらいの子達が目を輝かせている……。

 というか……また、騒ぎになってしまった……。


「……そうですね、とりあえず外に出ますか。啓介、お前は教室に戻ってくれ。お姉さんが待ってる」


「え!?……あっ!そういえば……うん、そうするね」




 啓介が去った後、一度校舎を出て、人が少ない場所に行く。


「真兄、ありがとな。おかげで、手を出さずにすんだよ」


「なに、これも先生の仕事のうちだ。俺は、それ担当を任されている。見回りってやつだ」


「適任すぎる……弥生さんは、呼ばれたんですか?」


「ううん、違うの。私が来たいって言ったのよ。どういうところで働いているのかなぁーとか、生徒さんからどういう風に見られてるのかなぁーと思って……」


「なるほど……まあ、人となりを知るには大事なことですよね」


「そういうことね」


「そ、それで……」


「フフ……どうでしょうね?」


「こ、これからですよ!」


 真兄が翻弄されてる……。

 俺から見たら、弥生さんは真兄を気に入ってるように見えるけど。


「ねえねえ、お兄」


「ん?どうした?ああ、知らない人か。悪い悪い……2人とも」


 俺の背中に隠れていた妹を前に出す。


「こんにちは、麻里奈ちゃんね?お兄さんからお話は聞いているわ。とっても出来たお嬢さんって。私は、冬馬君の行きつけの本屋で働いている矢倉弥生といいます」


「そ、そんなことないですよ!あっ……あの本屋さんの……吉野麻里奈と申します、いつも兄がお世話になっております」


「はぁー……冬馬、出来た妹だな」


「ああ、自慢の妹だよ。さて、麻里奈。この人が……俺の恩人であり、兄貴と慕う名倉真司さんだ」


「こ、この人が……あ、あの!」


「うん?どうした?」


「兄を更生してくれてありがとうございます!」


「おい、更生って……まあ、否定はできないけど」


「気にしなくていい。俺は俺のしたいようにやっただけだ——可愛い弟分のためにな」


「あっ……お兄が、たまに言うようになったセリフ……立ち振る舞いも……この人が、お兄の目標なんだね?」


「……まあ……そうだな」


 いかん……照れ臭いぞ。

 バレてしまったな……俺が真兄に憧れていることが……。


「なんだ?なんだ?お前、俺みたいになりたかったのか?」


「そうだよ……真兄みたいに、年下とか関係なく対等に扱ってくれて……しっかりと話を聞いてくれるカッコいい大人……先生に憧れてるよ」


「お、おう……そうか」


「あらあら……2人とも、顔が赤いですね。でも、とってもステキな関係ね?」


「そうですね!二人とも同じ顔して照れてますしね!」


「「照れてないし!!」」


「「……………」」


「「あぁ!?」」


 ……今、言ってみて気づいた。


 俺はもしかしたら……真兄みたいな先生になりたいのかもしれない。

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