第119話文化祭1日目~その2~

その後も、客を撃退しつつ、接客を続ける。


そして、お昼の前に少し休憩を取ることになった。


「綾はどうする?」


「わ、私は……裏で休憩してるね……」


綾は人気がえげつなかったので、その疲労度は他の人とは桁が違う。

なので、疲れてしまったようだな。


「そうか……俺は確認と、妹達を迎えに行ってくる。俺が戻るまでに、表に出るんじゃないぞ?」


「うん、わかった……」


あらら……相当疲れてるな。

何か、飲み物でも買ってくるとするか。

皆にその場を任せて、俺は教室から出る。




……なんか、めちゃくちゃ見られてるな……。


「ねえねえ!あれって!?」


「そうだよねっ!私あの人に入れたよ!」


「最近いないタイプの男前だよね!」


「うんうん!ガタイも良いし!」


「でも、やっぱり……」


「「「「「彼女一筋の硬派な男って素敵!!!!!」」」」」


……居心地が悪いな。

いや、しかし……これも綾のためだ。

俺がコンテストでそこそこの結果が出せれば、周囲も認めてくれるだろう。



一階の入り口に着くと……。


「おいおい……恥ずいな……」


俺の執事服姿の写真がデカデカと張り出されていた。

確か選考委員会っていうのがあって……残った10名から選ばれるんだっけ?

周りのざわつきを無視して、それらを眺めてみる……。


「おっ……以前、俺に絡んできた奴もいるな」


確か、綾に何度もしつこく告白した奴だ。

名前は……澤田拓海といったか?

しかも……あいつ——俺の悪口を書き込んだ張本人らしい。

証拠はないけど、小百合が調べた感じではそうだったらしい。


「もしや……あいつがストーカーなのか?」


最近は、近寄らなくなったとは聞いていたが……。

悪口も書き込めず、綾には近づけないから……とか?

いやしかし……それだけでは……まあ、用心はしておくとするか。


「さて……おかしいな。さっき着いたって連絡があったんたが……」


「やめてください!」


ん?なんだ?後ろを振り返ると……。

ガラの悪そうな連中に、女子が絡まれているが……あれは……。


「いいじゃんよー。こんなところに一人で来てるんだからさー」


「そうだぜ?ナンパしてくれって言ってるようなものじゃん?」


「はぁ!?私は弟に会いに……」


瞬時に判断した俺は、そいつらに近づき……。


「おい」


「あぁ!?イッ——!?」


肩に手を置き……力を込める!


「ここはナンパする場所じゃねえぞ?他の客に迷惑だ」


「な、なんだ!?てめーは!?」


「俺と待ち合わせしてる女性だが?」


「え?え?」


「悪かった!なっ!?」


「何ビビってんだよ?」


「バカ!こいつ力が……イテテ!?」


そいつは耐えきれずにしゃがみ込んだ。


「さあ?どうする?」


「わ、わかった!謝るから!」


「す、すみませんでした!」


「ほら、さっさと——消えろ」


「ヒィ!?」


「こいつなんか毛色が違うぞ!?」


そう言い残して、そいつらは帰って行った。


「か、カッコいい——!!」


「にいちゃんすげー!!」


「あれって写真の人だよね!?入れちゃおう!」


……どうやら目立ちすぎたな。


「あ、あのぅ……?」


「啓介に会いに来たんですよね?」


「え?弟のこと知ってるの……?いや、その前に……助けてくれてありがとうございました」


「いえいえ、同じバイトの人間ですからね」


「え?…………吉野君!?」


「ええ、そうです。どうも、恵美さん」


「へぇ〜……男前さんなんだね……あれ?あの写真の人……」


「恥ずかしながら、ミスターコンテストに出るもので……」


「じゃあ、私も入れちゃおうっと」


「ど、どうもです……内緒にしてくださいね?」


「友野さんとか店長さんに?」


「ええ、からかわれるので……」


「うーん……無駄だと思うけど……」


「はい?」


「ううん、わかったわ。私は言わない」


………何か含みのある言い方だなぁ……。

ん?メールがきたな……。

お父さんがトイレに行ってるから、私も行ってきます。

お父さんはアレなそうなので、少し時間がかかるそうです。


「なるほど……じゃあ、クラスに案内しますよ」


「え?いいの?」


「ええ、またナンパされたら大変ですからね。大事な友達のお姉さんですし」


「ふふ……啓介も言ってたし、店長さんや友野さんも言ってたけど……本当に良い男ね?」


「何を言っているんだか……まあ……可愛い彼女のために、そうでありたいとは思っていますけどね」


「あっ、聞いてるわよ。啓介から……とっても可愛くて。いつもラブラブだって」


「ハハ……あんにゃろうめ……」


そんな会話をしつつ、教室へ戻っていると……。


「あっ——!!冬馬!!」


「けげっ!?飛鳥!?」


「知らない女……浮気だっ!」


「違うわ!ボケェ!」


「綾ちゃんに言わなきゃ……!綾ちゃーん!!」


「待て待てい!!」


だが、陸上部エースのスピードは凄まじく……。

あっという間に消えて行った……。


「えっと……ごめんなさいね?」


「いえ、お構いなく。ああいう奴なんで」


恵美さんを置いていくわけにはいかないし……。

まあ、綾も信じたりしないだろうよ。




と、思っていましたが。


「と、と、冬馬君!?その可愛い人は誰なの!?」


俺は襟を掴まれ……締められています。


「お、落ち着けって!なっ!?」


「なんかヒーローみたいに守ったって!名前で呼んで歩いてたって!」


「飛鳥——!!てめー!」


「へへー、バイバーイ!」


「どうなの!?」


これは疑ってるとかではないな……。

興奮して、よくわかってない感じだ。

ならば……これしかあるまい。


「どうもしねぇ——俺が好きなのはお前だけだ」


「ふえっ?……あっ——」


耳元で囁くと……綾が崩れ落ちた。


「さて……落ち着いたか?」


「う、うん……あぅぅ……ごめんなさい!あ、あのね、別に」


「わかってる。綾が疑ってないことは。俺としては——可愛い綾が見れて大満足だ」


「はぅ……ずるいです」


「はわぁ〜……すごいわね」


「ほら、この方が新しいバイトの人だ。そんでもって啓介のお姉さんでもある」


「そ、そうだったんだ……ごめんなさい!えっと……初めまして、清水綾っていいます」


「こちらこそごめんねー。田中恵美です」


「で、肝心のあいつは?」


「えっと……確か、材料が足りなくて……」


「なるほど……恵美さん、ここで待っていると良いですよ」


「そうですよ!こんな可愛い方ですもんね!」


「本気で言ってそうね……そうさせてもらうわ。ありがとうございます」


「では、俺は妹達を迎えに行ってきます」


俺は再び、待ち合わせ場所に向かうのだった……。

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