第118話文化祭1日目~その1~

学校に着いた俺達は、それぞれ急いで着替えに行く。


女子は別の部屋、男子は教室で着替える。


「うわー!冬馬君、カッコいいね!」


「そうか?啓介も似合ってるぞ?」


……何というか、弱々しい感じが逆に。

小百合辺りが見たら喜びそうだな……材料にされる前に口を塞いておくか。


「そ、そうかな……?」


「ああ、お姉さんが来るんだろう?見せてやるといいさ」


「うぅー……絶対笑われるよ……冬馬君は?」


「妹と親父が来ることになってるよ。あっ——会ったことあったっけ?」


「話したことはないけど、顔はわかるよ。この間の運動会に来てたもんね?」


「そういや、そうだったな。さて……俺達は給仕係か……」


「うん、そうだよ。裏で料理を作ってくれる人……まあ、メインの食べ物はレンジで温めたりするヤツだけど……コーヒーとか紅茶、ジュースなんかを運んだりするね」


「俺はこういう行事に参加したことがないから勝手がわからん。啓介は一年の時は何をしたんだ?」


バイトのラーメン屋とか違うだろうしな……。

これはあくまでもイベントというか……。


「……そうなんだね。僕は外の屋台で飲食店をしてたよ。たこ焼きとか焼きそばとか」


「じゃあ、先輩だな。俺は、綾に群がる男を蹴散らせばいいのか?」


「ダメだよ!いや、ダメじゃないのかな?それくらいしないと……僕、確認してくる!」


そう言って責任者の博に話しかけている。

……すっかり、リア充と呼ばれている奴にも平気で話しかけるようになったな。

……俺も、最近になって気づいたが……。

別に趣味嗜好や性格や見た目が違うからって、仲良くできないわけじゃないんだよ。

リア充と非リア充とか、陰キャとか陽キャとか分けるからおかしくなるんだよな。


「いやはや……啓介も変わっていってるな……人のこと言えないけど……あっ——」


し、しまったぁぁ——!!

綾のストーカーの件ですっかり忘れてたっ!

博と黒野、俺と綾でダブルデートをするって約束をしてた……!

これは後で謝らないとなぁ……。





その後、綾達も教室へ戻ってきて最終確認となる。

もちろん、その際にひとしきり眺めたことは言うまでもない。


「あぅぅ……」


「悪かったよ、綾」


「み、見過ぎだよぉ〜」


「……すまん——やめられそうにない」


「ふえ?」


「はい、アナタ達。もうすぐ始まるからね」


「黒野……俺は何処までなら殺ってもいい?」


「今、絶対に字が違ったわよね?ハァ……まあ、お触りはもちろんつまみ出す。ナンパも嫌がってるならダメ。会話くらいは許しなさい。写真はダメ、色々と問題も多いから。まあ、眺められるのは……我慢しなさい。そんな怖い顔しないでよ……わ、私が決めたわけじゃないし」


「クッ!?会話を許すと……?眺める……我慢できるだろうか?」


「と、冬馬君……」


綾が心配そうな表情をしている……バカか!

綾が楽しければ、俺の感情など二の次だっ!


「綾、平気だ。ただ、少しでも嫌だと思ったら言うといい。生きていることを後悔させてやる」


「え、えっと……ほどほどにね……?」





そして、文化祭が幕を開けた。


すぐさま、戦場となる。


「ご主人様、いらっしゃいませ」


「うわぁー!?めっちゃ可愛いメイドさんだ!ねえねえ!?君、電話番号を」


「お客様——当店はそのような場所ではございません」


「ヒィ!?」


「と、冬馬君……」


「節度を守ってくれますか?」


「はいっ!守らせて頂きます!な、眺めるのは……?」


「……節度を持つならば」


「もちろんです!」


次のは……手強そうだな。

大柄でガラの悪そうな男が入ってきた。


「おい、良い女がいるな」


……はい、失格。


「おい、貴様は帰れ」


「あぁ!?こっちは客だぞ!?」


「あぁ?ハァ……」


肩を掴む……ゆっくりと力を入れて……!


「ガッ!?」


「まあまあ、お客さん」


「ガァァ!?い、いてぇ!?」


「ほらほら、他のお客さんに迷惑ですから」


「イテテッ!?わ、わかったから!」


「はい?何がですか?」


「あ、謝るから!ご、ごめんなさい!」


「はい——平和が一番ですからね」


「ヒィ!?」


最後にドスを効かせると、男は去っていった。

……ちとやり過ぎたか?


「にいちゃん!カッケー!」


「そうだ!そうだ!」


「メイド喫茶舐めんなー!」


……どうやら、概ね好評のようだ。

メイド喫茶というものにも、最低限のマナーはあるようだな。


「あ、あの……」


俺の執事服の端っこを摘みながら、綾が頬を染めている。

……可愛いな、おい……なんだこれ。


「お嬢様、ご無事でなによりです」


「ひゃい!?は、はぅぅ……」


「メイドさんがデレたぞ!?」


「羨ましい!だが、ナイスだ!」


「けしからん!」


「あぅぅ……恥ずかしぃ……」


……いつもなら蹴散らすところだが、今日は勘弁してやるか。


というか……俺の彼女が可愛すぎしないか?





その後も、綾は大人気で指名がばんばんやってくる。


もちろん、迷惑な奴らは排除している。


そして……テロが起きた。


「えっと……おいしくなぁ〜れっ!」


「グハッ!?」


「ゴフッ!?」


「カハッ!?」


綾の萌えに、男達が悶える。

……俺?俺は歯を食いしばって耐えている……!

……俺も、後でやってもらおうっと……。




ただ……その後、何故が予想外の展開になってしまった。


「いらっしゃいませ、お嬢様。お席にご案内いたしますね」


「は、はぃ……」


「か、カッコいい……男前の執事さん……」


「むぅ……ほら、こうなる。冬馬君、カッコいいもん……」


そう、メイド喫茶として出店しているのだが……。

もちろん、それ目当ての客が多いのだが……。

先程から、何故が女性客が増え始めたのだ。


「安心しろ、綾——俺の目にはお前しか映らない」


「ふえ?……あ、ありがとうございます……」


「きゃー!?」


「発言まで男前だわ!?」


「彼女持ちって書いてあったけど……良い!」


「大事にされたいっ!」


「私、あの人に投票する!」


「はい?お嬢様方、どういうことでしょうか?」


「え?あ、あの!ミスターコンテストに出るんですよね!?」


「ええ、そうですね」


「入り口に写真が貼ってあって……それ見てきました!」


……なるほど、小百合のやつか。

そういえば、宣材写真がどうとか言っていたな。

後で、確認しに行くとするか。


休憩時間になったら、親父と麻里奈を迎えに行くしな。





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