第116話お互いに萌える

 昨日の帰り道は、特に何事もなく帰ることが出来た。


 意識してみたが、俺の感覚的にも見られているような感じはしなかった。


 とりあえずは、毎日一緒に帰ること。

 バイトの帰りは、人の多い場所を通ること。

 親父さんにも、俺の方から連絡を入れておいた。

 綾のお母さんにも伝えたし……。

 あとは、歯がゆいが様子をみるしかない。


 何処のどいつか知らないが……覚悟しろ。

 俺の大事な女を怖がらせたこと、後悔させてやる……!




 そんなことがあったので、気を張っていたが……。


 放課後にて、そんな俺の気は——緩んだ。


「ど、どうかな……?」


「……………」


「おい、清水さん……パネェな」


「似合いすぎだろ……」


「脚長っ!綺麗……」


「エロ……」


 俺は——そいつらをひと睨みして黙らせる。


「冬馬君……あの、目が怖いよ……?」


「やべぇ」


「え?」


「俺にはこの可愛さを表現できない……!ヤベェという陳腐な言葉しか……!」


「あ、ありがとぅ……褒められてるんだよね……?」


「当たり前だっ!!」


 完成したメイド服に着替えた綾は……可愛い。

 いや、綺麗?天使?女神?

 とにかく、そんな感じだ。


「え、えへへー……は、恥ずかしいけど、頑張って良かったぁ〜」


 カチューシャも良く似合い。

 黒のニーソは言うまでもなく、長い脚に似合い。

 ミニスカートから見える太ももは——もはや、凶器である。

 さらには……学校の規定に従い、あえて胸元は隠してあるタイプのメイド服。

 しかし……それが余計にエロスを醸し出している……。


「あ、綾……お、お帰りなさいませって言ってくれるか?」


「う、うん……ご主人様、お帰りなさいませ」


「グハッ!!」


 言うまでもなく、俺は膝から崩れ落ちる……!


「だ、大丈夫!?」


「あ、ああ……これって……貰えるのか……?」


「え……?う、うん……貰えるって……」


 え?これでアレがアレでアレしてもらえたら……ダメだ!

 そんな変態みたいなことを要求できるかっ!

 俺は吉野冬馬!男の中の男を目指す男だっ!


「チ、チクショョ——!!」


「と、冬馬君!?」


 俺は教室を出て、廊下を駆け抜けるのだった……。



 ぐるっと一周して帰って来た時、綾は上からセーターを着ていた。


「あっ——冬馬君、お帰りなさいませ……間違えちゃった……」


「いや、合っている。何回でも聞きたいくらいだ」


「吉野ー、綾に着せといたからねー。男子の視線が凄かったからー」


「全く……まあ、無理もないことね」


「ナイスだ!森川!良くやってくれた!」


 もう少し見ていたかったが、仕方あるまい。


「でもね……吉野……当日は、もっと見られちゃうよ?」


「……………」


 そ、そうだった——!!

 ど、ど、どうする!?

 今から辞めさせる!?

 いや……綾は楽しみにしているし、意外と楽しんでいる。

 これは……俺の全力を尽くして守るしかあるまい……!


「冬馬君……嫌かな……?冬馬君が嫌なら……」


「綾」


「は、はぃ……」


「俺を見損なうなよ?そんな器の小さい男に成り下がるつもりは——毛頭ない。遠慮なく着て楽しむといい。それを邪魔する奴は——俺が排除する」


「うん!ありがとう!冬馬君!実は、すっごく楽しみなのっ!こういうイベントとか、去年は出れなかったから……」


「うん?どういう意味だ?」


「綾がねー表に出ちゃうと……人が押し寄せて、収拾がつかなくなっちゃうからねー。でも、今回はアンタがいるから平気でしょー」


「そういうことか……ああ、もちろんだ」




 その後、順番ということで俺たちの番となる。


 つまりは、執事服に着替えた。


「はぅぅ……か——カッコいいです……」


「そうか?普通じゃないか?」


「ううん!肩幅あるから、すごく似合ってるよ!姿勢も良いから、凄くそれっぽいし!」


「なら良かったよ」


「そ、それに……眼鏡が……オシャレ眼鏡だから……素敵……」


「綾お嬢様、ありがとうございます」


「はぅ!あぅぅ……」


 耳元で囁くと……今度は、綾が膝から崩れ落ちた。

 ふふ……やったぜ!


「ねえ?アンタら?ここ、教室だからね?」


「無駄よ、愛子。もう諦めましょう」




 その後、お互いに記念写真を撮る。


「うわぁ……!良いっ!」


「綾はサイドテールがよく似合うな」


「そ、そうかな?」


「ポニテも捨てがたいが、サイドテールが1番好きかもしれん……」


「ちょっと!?冬馬!?」


「げげっ!?小百合!?」


「どうやら、間に合ったようね……綾さん……貴方のメイド姿……カハッ!?」


 小百合も綾のメイド服姿に崩れ落ちた。

 無理もないことだ、最早——テロだ。


「さ、小百合さん!?」


「で、どうした?」


「メイド服姿を撮りに来たに決まってるわ……!当日は、私にそんな暇はないもの……!」


 まさしく……鬼気迫る表情だ。


「綾、悪いが撮らせてやっていいか?」


「う、うん……」


「冬馬!感謝するわ!持つべきものは可愛い彼女持ちの友達ね!」


「……ブレない奴……」




 その後、写真を撮ったが……。


「おい?どうした?」


「次は貴方よ。その姿……いいわね——萌えるわ」


「おい?……ネタにするなよ?」


「冗談よ。それを宣材写真にしましょう。ミスターコンテストの」


「あっ——素敵ですね!良いと思う!」


「まあ……別に構わないが」


「では、撮っていきましょう」


「どうても良いが……お前、撮るの慣れ過ぎじゃね?」


「愚問ね……コスプレマニアでもある私は——カメコでもあるわ!」


「そ、そうか……」


 こうして文化祭の準備が整った。


 後は、前日に皆で最期の仕上げをするだけとなる。


 ……さて、文化祭が始まる前には片をつけたいが……。


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