第115話綾の悩み

 翌日も大事をとって、綾は休みだった。


 熱は下がったが、念のためというやつだ。


 流石に、2日連続で見舞いに行くのは憚られるので、行かないことにした。


 何より……俺の理性君が大変だからな。


 それに、朝早くから電話が来て、元気そうだったから一安心だ。




 そんなわけで、アキと遊ぶことにした。


「というわけよ」


「ハァ——俺の知らない間に色々あったんだな……」


 アキには、真兄などの詳しい内容は言っていないが、ある程度のことは伝えた。

 バイト先に友達のお姉さんが来たことや、綾の可愛さなどを……(ここ大事)


「まあな……なんか、あっという間に過ぎていくな……」


「じじくせーこと言うなよ。まだ、1年半くらいあるぜ?」


「そうなんだけどな……あまりに、変化がありすぎてな」


「まあ、気持ちはわかる。俺も、またお前や彼奴らと遊べるとは思ってなかったし」


「そういや、聞いたか?」


「あれか?剛真のことか?」


「ああ、ついにデートに行ったってよ」


「それなー。誘えはしたけど、よくホントに行けたよなー」


「ギリギリまで、俺と綾についてきてもらうか迷ってたみたいだったけどな」


「なるほど、そういうことかー。ハハ!想像したらウケるな!」


「そういうなよ……まあ、気持ちはわかるけどな」


 きっとガチガチに緊張して、しどろもどろになっていたんだろうな。

 ……俺もそうだった……。

 綾を花火に誘う時……。

 歩いている時……。

 告白した時……。

 あの日ほど、緊張したことはない……。


「あと、智也だよなー。ついに、飛鳥とキスしたってよ」


「おっ?そうなのか……良かったな、智也に飛鳥」


「なんだ?複雑か?実際、振ったけど……どうだったんだ?綾ちゃんには内緒にしといてやるから」


「……正直言って、当時は迷ったな。むしろ、友達じゃなかったら告白をオーケーしてたかもしれないな……俺だって彼女とかは欲しかったし、飛鳥は可愛かったからな。大事な友達だからこそ、断ったという面があることは否定できない」


「はっ……正直な奴。まあ、みんなそんなもんだよ。可愛いから付き合う、かっこいいから付き合う。なんとなく付き合う……ただ、その気持ちは少しわかるかもな。俺も……これはやめとくか……」


「おいおい、人に聞いといて……」


「悪い、これは本人の了承がないとな」


「まあ、飛鳥の件はみんな知ってるからな……何か相談があれば乗るからな?」


「ああ、そん時は頼むわ」


 そうか……あの2人がキスね……。


 ……俺も初めての時は緊張したっけ……。

 いや……未だに緊張してるし——ドキドキしているな。

 いつになったら慣れるのか……慣れなくていいのかもな。



 ……綾に会いたくなってきたな。





 そして翌日、綾に会う。


「おはよう、綾。体調は平気か?」


「う、うん平気だよ……お、おはょ……な、なんで……?」


「何かだ?」


「えっと……なんでもありません……」


「何か変か?」


「えっと……なんで、電車の中で壁ドンをされているのかなぁ……?」


「綾が可愛いからだな」


「り、理由になってないよぉ……」


「それ以上の理由はない」


「あぅぅ……ど、どうなってるの……?」


 うむ……この辺で勘弁しておくか。

 いかんな……昨日、会いたいと思っていたから我慢できなかったな。


「悪いな……これでいいか?」


 そっと離れると……。


「べ、別に嫌じゃないです……あ、あとでしてください……」


 ……うん、今日も俺の彼女は可愛い。

 そして俺は——頭がおかしい。




 放課後を迎え、綾とのデートをする。


「病み上がりだから、激しいのはダメだし……そういや、悩みがあるって言ってたな?」


「う、うん……どこか、静かなところがいいかな」


 お互いの家じゃ……うん、大変だな。

 激しいのはダメだし……かといって我慢できるかと言われると……。


「空き教室に行くか」


「え?」


「あそこなら人も来ないし、寒くもないしな」


「あっ——そうだね」




 空き教室に入って、綾の悩みを聞くと……。


「ほう?死にたい奴がいるようだな?」


「え?」


「ストーカーか……まあ、今までいなかったのが不思議なくらいだ。そういや、これまではどうしていたんだ?」


「それは……意識的に、お母さんが弁護士だって伝えていたから……そうすれば、そういうのも減るからって……」


「あぁ——なるほど。確かに……そういう犯罪は、身内に言えないことが多いが……お母さんが弁護士なら安心だしな」


「そうなの……だから、大体の人はしてこなかったんだけど……最近、少しそんな気がして……もちろん、気のせいかもしれないけど……」


「いや、よく言ってくれた。何かあってからじゃ遅いからな。綾に何かあったら、俺は後悔してもしきれない……」


「冬馬君……ありがとぅ」


「大事な彼女なんだ、それくらい当たり前だ。で、どこで感じる?」


「うーん……バイトの帰り道かなぁ……?あと、学校の帰り道……冬馬君がいない時……」


「なるほど……俺と綾が付き合ってる事を知ってて、尚且つ俺がいると危険だということを知っている奴か」


「……そういうことになるのかな……?」


「わからんけどな……とりあえず、慎重に動かなきゃだな。冤罪とかシャレにならないし」


「うん、お母さんにもそれは言われたの。人の人生を変えちゃうからって……」


「まあ、痴漢のうちの半分は冤罪らしいからな……一部の人間のせいで、真面目に生きてる奴が損するんだよな……」


「……そうだね。私も気をつけないと……自意識過剰だったら申し訳ないし……」


「ただ、さっきも言ったが何かあってからじゃ遅い。しばらくは一緒に帰るとしよう。あと、こっちの方で手を打っておく。綾は出来るだけ普通に過ごしてくれ。その方が、相手も油断するはずだ」


「うん!えへへ……不謹慎だけど嬉しいなぁ……大事にされてて……」


「そりゃ……な」


「おやおやー?照れてますねー?相変わらず、冬馬君の照れポイントは謎です……」


「ほっとけ……」


 気づいてないのか……。


 ああいうセリフを言う時、自分がどんなに可愛い顔しているのか……。


 これ以上ないってくらいに——微笑んでいることを……。



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