第114話冬馬君はお見舞いにいく

 バイトから翌日のこと……。


 俺は己の迂闊を呪った……。


「あ、綾……そ、そんな……」


 俺のせいだ……!

 俺が気を配っていたら……!

 こんなことには……!


『……冬馬君……?聞こえてる……?』


「……ああ……すまない……!」


『え?』


「昨日送って行くとき、寒そうにしていた……タクシーを呼んで帰らせるべきだった……俺が、綾と歩けることが幸せだったから……」


『あっ——わ、私も幸せだったよ……?それに、私が勝手に行っちゃっただけだから……冬馬君は悪くないもん……』


「いや、しかし……」


『ケホッ……』


「……すまん、まずはゆっくり休んでくれ」


『う、うん……』


 電話を切り、俺の朝の支度をする。


 ……さて、見舞いに行かなくてな。




 久々に、1人で電車に乗っていると……きたか。


「よう、冬馬」


「おう、アキ。悪かったな」


「いや、良いさ……風邪だって?」


「ああ、すまんが……」


「わかってるさ。俺は今日じゃなくて良いしな。見舞い行ってやんな」


 今日は、本来ならアキと約束をしていたからな。


「助かる……ところで、最近は取り巻きの女子達がいないが……どうやって説得したんだ?」


 いるにはいるが……遠くから見守ってる感じなんだよなぁ。


「ん?……まあ、良いじゃん。そんなことより、ミスコンでるんだってな?」


「ああ、小百合から頼まれたしな。お前と一緒に出て、対抗馬にするらしい」


「クク、楽しみが増えたな。じゃあ、俺も油断できないかねー」


「おいおい?お前に勝てるわけがないだろうが……」


「やれやれ……これだから自覚のない奴は……」


「はぁ?」


「いや、良いさ」





 その後、アキと下駄箱で別れて教室に入ると……。


「あっ、冬馬君!おはよう!」


「おう、おはよ。驚いたぜ」


「僕もだよ!まさか、お姉ちゃんのバイト先が冬馬君のところだなんて……」


「まあ、地元が一緒だからそういうこともあるわな」


「そうだねー……あれ……?清水さんは?」


「風邪をひいてしまったようでな……」


「あっ、そうなんだ。早く良くなるといいね」


「ああ、ありがとな」


 その後の授業は、正直言って耳に入ってこなかった……。




 なんとか我慢して、放課後を迎える。

 どんだけ、早退したかったことか……!

 しかし、そんなことすれば綾が気にしてしまう。


 俺は急いで綾の家へと向かう!




「ゼェ、ゼェ……疲れた……さて、まずは確認だ」


 ピンポンでは起こしてしまうかもなので、玲奈さんにメールを送る。

 すると……すぐに玄関のドアが開く。


「冬馬君、いらっしゃい」


「こんばんは、玲奈さん。綾は……?」


「ちょうど良いタイミングね。今さっき起きたところよ。熱も下がってお腹が空いたみたいよ。お粥ができたから、持って行ってあげてちょうだい」


「ほっ……良かった……わかりました、ではお邪魔します」


 リビングに入り、お粥を受け取る。


「じゃあ、お願いね?」


「はい、では行ってきますね」


「冬馬君……もう熱は下がったから、襲っても良いからね?」


「はい?ったく……勘弁してくださいよ……」


「あら、動じないのねー。やっぱり、器が大きいわねー」


 返事をせずに、お粥を持って二階に上がる。

 ……動じてないわけがない……。

 ただ、好きな子の母親の前で狼狽えたくなかったたけだ……。


 心を落ち着かせ、ドアをノックする。


「綾?俺だ、入って良いか?」


「ふえっ……?と、冬馬君!?え?な、なんで!?」


「起きてるのか。じゃあ、入るぞ」


 ドアを開けると……天使がいた。

 ピンクのパジャマを着た状態で、綾がベットにいるからだ……。


「と、冬馬君だぁ……」


「お、おう……具合はどうだ?」


 やばい……動悸がおさまらない……。

 ここんとこは、意識しないようにしてたから……。

 なぜ、こんなにエロく見える……?


「へ、平気だよー。見舞いに来てくれたんだよね?」


「もちろんだ。可愛い彼女が風邪をひいたんだ」


「あ、ありがとぅ……」


「それに、以前は綾が来てくれたしな」


「あっ——懐かしいね……はぅぅ……」


「ど、どうした?具合悪くなったか?」


「ち、違うの……と、と、と、」


「おっとっと?お菓子か?」


「違くて……冬馬君の裸を思い出しちゃって……はぅ……」


「え……?あ、ああ……そういやそんなこともあったな」


「綺麗だったの……」


「そうか?なら、鍛えてる甲斐があったな。綾の身体も……」


 だ、ダメだ……思い出したら、色々おかしくなる……。


「わ、私の身体……変じゃなかった……?」


「……今まで見た全ての中で、1番綺麗だったよ」


「そ、そうなんだ……えへへー、嬉しい……」


 これは……長居はしないほうがいいな……色々な意味で。


「ほら、これ食べなさい」


「わぁー、お粥だー。と、冬馬君が食べさせてください……」


 熱があった所為か、口調が子供っぽくなっているな……。


「……仕方ないか。ほら、あーん」


「あーん……おいひいです……」


「作ったのは玲奈さんだけどな」


「冬馬君の愛が入っています……」


「いや……まあ、そりゃな……」


「ふふ……冬馬君が照れてます……たまには熱も悪くないね……?」


「おい?ったく……じゃあ、帰るわな」


「むぅ〜やです……」


「やですって……やれやれ……どうしたら良いですかね?お姫様?」


 どうやら、童心にかえっているようだ。

 ここは付き合ってあげよう……俺の我慢が効く限り……。


「うむ!優しいキスを要求します!」


「……畏まりました……では、失礼します」


 触れるか触れないかくらいで、優しくキスをする……。


「んっ……」


「……いかがですか?綾お嬢様」


「は、はぃ……よろしいです……はぅ……」


「おい?自分で振っといて、恥ずかしがるなよ……」


「だ、だってぇぇ……カッコいいんだもん……」


「ったく……ほかに何かあるか?」


「……あのね……風邪が治ったら、デートして欲しいの。お話というか、悩み相談というか……」


「うん?歯切れが悪いな?」


「ちょっと……いまいち確信が持てないと言いますか……よくわかんなくて……えっと……」


「おいおい、考えすぎるなよ。まだ、風邪をひいているんだから。いいよ、俺はなんでも聞くから。例え、それがどんなことでもな」


「冬馬君……ありがとぅ……えへへ〜、やっぱり冬馬君は優しいのです……好き」


 今度は不意打ち気味に、熱いキスをする。


「んっ——!あっ——」


「……さて、俺は帰るとする。お大事にな?」


「ね、熱が……出ちゃうよぉ……」


 俺は振り返ることなく部屋を出て、一階に降りていく。


「あら?もう終わったかしら?」


「……してませんよ?」


「ふふ……紳士ね……」


「さあ、どうでしょうね?いつまで保つか……」


「あらあら……」


「それでは、お邪魔しました」


「ええ、ありがとね」


 外の空気を、思いっきり吸い込む……!


 クールダウンしないと、色々おかしくなりそうだったからな……。


 ……しかし、悩みね……。


 まあ、何にせよ……俺のやるべきことは決まっている。


 大切な人のために、全力を尽くすだけだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る