第103話冬馬君はテンションがおかしい

 翌日の朝のリビングにて、俺はニヤニヤしていた。


「お兄?気持ち悪いよ?いや、嬉しいのはわかるけど……」


「麻里奈、放っておけ」


「……そうだね……あっ——、いいこと考えた……」


「いやー、嬉しいなぁ……この財布は宝物だな……俺は、あんなに可愛くて性格の良い彼女がいて世界一の幸せ者だな……」


 今現在、俺は財布を眺めている。

 昨日、綾がくれたものだ。

 どうやら、自分が思うよりも嬉しかったらしい。




「……おっと、いかんな。このままでは遅刻してしまう。あれ?親父は?」


「とっくに家を出たよー」


「お前は何を撮っている?」


「別にー、デレデレのお兄を撮ってただけー」


「なんだ?嫉妬か?可愛いやつ」


「頭をガシガシしないで〜!もう!」


「おっと、可愛い妹よ。すまぬが兄は行かねばならない。寂しいとおもうが、勘弁してくれな!」


「テンションが変……綾ちゃんに責任とってもらわないと……」


「ではな!行ってくる!」


 俺は意気揚々と家を出発し、綾の待つ駅へ向かのだった……。





「あっ——と、冬馬君、おはよぅ……」


「おう、おはよ。どうした?顔赤いぞ?」


「う、ううん!何でもないの!」


「いや、風邪だったら心配だ。どれ……」


 俺は、綺麗なおデコに額をくっつける。


「ひゃあ!?」


「ウンウン、熱はないと……」


「あ、あの……」


「ウンウン、可愛い彼女が風邪でも引いたら心配だからな」


「ほ、ホントだ……麻里奈ちゃんの言う通りだ……テンションが……」


「はい?」


「ううん!きょ、今日の予定はどうしようね?」


「あぁー……文化祭の準備は大体終わったしな……バイトもないし……とりあえずは、綾とイチャイチャしたい……いや、待て……俺、用事あるわ」


「ふえっ?イチャイチャ……そうなの?誰か聞いても良い……?」


「何を遠慮してる?」


「だ、だって……束縛してるみたいでイヤかなって……」


「好きな子に束縛されるなら本望だろうに。まあ、人によるけど俺は気にしないが?」


「えへへ〜……そ、その……私もだよ?」


「良いのかな?そんなこと言って……」


「は、はぃ……お手柔らかに……」


「まあ、お互いにほどほどにだな……ああ、小百合のやつに会いに行こうと思ってな」


「小百合さん?生徒会長さんだよね?」


「ああ、実は……俺のことが書かれた裏サイトのことは知ってるか?」


「……うん、少しだけ……イヤな気分になっちゃったから、すぐに閉じちゃったけど……冬馬君、何も悪いことしてないのに……私の所為で……」


「あぁ——!泣くなよ!なっ!」


「だ、だってぇ……」


「だから、もう泣く必要はない。どうやら解決したっぽいんだよ」


「え?」


「まだ確証はないが、小百合が手を回した可能性が高い。あの手のことには昔から強いやつだからな……あらゆる情報を集めているしな」


「じゃあ、私も……!」


「いや、とりあえずは俺一人で行くさ。まだわからないし……何より、綾がいたらあいつのテンションがおかしくなる。そうすると真面目な話にならないんだよ……」


「はは……確かに。私、すごい触られた……」


「……怒るに怒れないな……あいつは……全く」


 ……少し想像して萌えたのは内緒である。

 え?百合も少しなら良いと思います。




 そして、放課後を迎える。


「綾はどうする?」


「愛子が勉強教えてっていうから、このまま教室にいるね」


「綾〜!お願い!期末赤点とったら……クリスマスまで補習なの〜!」


「普段からやらないからよ。綾、手加減はいらないわ。二人で叩き込みましょう」


「あの〜?加奈?目が怖いんだけど〜……」


「土曜日は遊びに行くのよ?なら、平日に勉強しなきゃ。文化祭だってあるし」


 ……どうやら、真兄と出かけるのが楽しみなようだな。

 なるほど……もう11月も中旬だ。

 文化祭があと10日で、期末試験も一ヶ月をきっている。

 俺も早めにやっておかなきゃな。



 そんなことを考えつつ、生徒会室のドアをノックする。


「あら?誰かしら?」


「俺だ」


「オレオレ詐偽かしら?私には息子はいませんが?」


「いたらびっくりだよ!」


「そのツッコミは冬馬ね、良いわ、入りなさい」


「どういう判断だ……」


「さて、どうしたのかしら?告白なら受け付けないわよ?」


「しねぇよ!」


「あら、残念……およよ、振られちゃったわ……ずっと好きだったのに……」


「いや、めちゃくちゃ棒読みだから」


 ……綾がいなくて正解だ。

 俺一人でも真面目な話にならない……。


「あら、つまらないわね。で、何の用かしら?」


「お前相手に腹の探り合いで勝てる気がしないから、単刀直入に言うぞ……俺の噂を消したのはお前だな?」


「ええ、そうよ」


「俺はわかってる……あれ?なんて言った?」


「そうよと言ったわ」


「意外だな……素直に認めるとは思ってなかった……」


「冬馬なら、その結論に行き着くとは思っていたから」


「そうか……ありがとう、小百合。感謝する!」


「良いのよ、別に……私は貴方が傷ついた時、何もできなかったから……」


「それどころか、罵声を浴びせられたっけな?」


「し、仕方ないじゃない……私にはそんなやり方しかできないもの」


「いや、あれはあれで助かったよ。腫れ物を触るような感じよりもな」


「そう……なに?それだけのために来たの?」


「まあな。俺は傷つかないが、綾は相当傷ついていたからな……本当にありがとう」


「そういうところは相変わらずね。でも、私もあの子好きだから嬉しいわ」


「おい?お前のそれは冗談になってないからな?」


「フフフ……恋のライバルかしら?」


「勘弁してくれ……さて、もう一つある」


「何かしら?」


「借りを作ったままは性分じゃない。俺にできることがあれば言ってくれ」


「そうね……ミスコンは出てもらうし……あっ——うん……そのうち相談して良いかしら?」


「珍しいな……まあ、俺にできることなら」


「ええ、貴方が適任よ」


「わかった。じゃあ、またな。決まったら連絡くれ」


「わかったわ」




 俺は教室に戻りながら考える……。

 小百合の悩み……想像もつかないな。

 一体なんだろうな?


 すると……教室から騒がしい声が聞こえてくる……。


「あっ——!冬馬君!」


「どうした?何かあったのか?」


「教室覗いてみて!」


「お、おう……」


 教室を覗いてみると……。


「冬馬と遊ぶのは俺だな。なにせ、一番の親友だからな」とアキ。


「聞き捨てなりませんね。僕の方が付き合いは長いんですよ?」と智也。


「ガハハ!冬馬は俺の相談に乗ってもらうのだ!」と剛真。


「いやいや、君たちは昔から仲良いから今回は譲ってもらいたいな」と博。


「俺なんてな!まだ遊んでないんだぞ!?」とマサ。


「ぼ、僕も参戦してみようかな〜」と啓介。


 ……はて?何が起きているのだろうか?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る