第96話冬馬君は末っ子になる

 駅前のロータリーに到着すると……。


「おーい!冬馬!」


「あっ、真兄!」


「乗れ乗れ!もう2人ともいるからよ!前に乗ると良い!」


「はいよ!」


 俺は駆け足でワゴン車に乗り込む。


「よっ、冬馬」


「冬馬〜、この間振りの再会だね」


「蓮二さん、淳さん、チワッス」


「さて、いくとするか。まずはカラオケとしけ込むか!」


「フゥ〜!良いぜ!日頃のストレスを発散だー!あのクソハゲ上司が!」


「良いですね〜。俺も今日は羽根を伸ばせそう」


「ハハ……公務員も大変そうだね。淳さんは普段はリーダーだから、あんまり羽目を外せないもんね」


 そんな会話をしつつ、ワゴン車は走り出した。



 ワゴン車が走り出して5分ほど経つと、真兄が俺に話しかけてきた。

 ちなみに、後ろでは淳さんが蓮二さんのおもちゃにされている。

 あの2人は兄弟に近い関係だからなぁ。


「なあ、冬馬。加奈は最近どうだ?」


「はい?なに、そのふわっとした言い方は?」


「いや……あの年頃は難しいんだよ。なんか、最近機嫌がいいから彼氏でも出来たのか?って聞いたら『兄さんのバカ!!』って言われてよ」


「……それは真兄が悪いと思う。相変わらず、なんてデリカシーのない人だ」


「はぁ?俺がなにしたっていうんだ?」


「機嫌が良いのは、俺と綾がいれば真兄と出掛けられるからだろ?早く予定立てちゃってよ。じゃないと機嫌が悪くなるよ?」


「……なるほど、そういうことだったのか」


「わはは!バカめ!お前はそんなんだからモテないんだよ!」


「ああぁ!?うるせえよ!蓮二!!テメーだってモテねえくせに!」


「まあまあ、2人とも落ち着いてくださいよ〜」


「お前は黙ってろ!このイケメンめ!」


「そうだそうだ!こうしてやる!」


「ちょっと!?蓮二さん!?首絞めないでください!」


「良いぞー!やれやれー!」


「真兄!前!前見て!」


 ……なんか、懐かしいなぁ。

 こういう馬鹿な感じ。

 まだまだガキの俺がいうのもアレだけど、若返った気がするな。

 昔に戻った感じで……。




 なんとか?無事に到着し、カラオケで盛り上がる。


「冬馬ー!俺の歌を聞けー!」


「マクロ○か!」


「アハハ!冬馬とのカラオケは楽しいな!お前は俺らの年代について来れるからな!」


「そうだよねー。幽遊白○とかドラゴンボー○とかわかるもんね」


「まあ、真兄によく連れて行かれましたからね。DVDも見せられましたし」


「ふっ、英才教育というやつだ。冬馬を歳上殺しに育てたのは俺だー!」


「なに!?その異名は!?大体レッドウルフだって真兄が……!」


「でも、冬馬はほんと歳上から好かれるからな」


「そうですよね〜。まあ、今時珍しく真の通った男の子ですからね」


「……なんか調子狂うな……」


 ……でも、お兄ちゃん達に囲まれるのも悪くないか……。




 一頻り歌い終わった時、すでに6時を回っていた。

 なので、個室付きの懐石料理店で夕飯を食べる流れになったのだが……。

 店の前で、思わぬ人物に出会う。


「あれ?綾、どうしているんだ?」


「ごめんね、邪魔しちゃって……」


「何を言う?綾が邪魔なことなどあるわけがない」


「そ、そうなんだ……えへへ」


「あの?私もいるのだけど?」


「よう、黒野。いや、すまん。綾しか目に入らなかったようだ」


「はぅぅ……」


「殴っても良いかしら?」


「ほら!お前ら!とりあえずは部屋行くぞ!」



 個室に通された後、事情を聞いてみる。


「で、何がどうなったの?」


「いや、蓮二と淳が加奈に会ってみたいって言うからよ。元々、呼んではいたんだ。ただ、昼間は森川と三人で遊ぶって聞いてたしな。じゃあ、夕飯だけ食べるかという流れになったわけだ」


「えっと……綾はなんで?」


「俺ら三人が、改めてお礼を言いたかったからだ。だから加奈に連れてきてもらった」


「ふえっ?わ、私ですか……?」


「綾ちゃんって言うんだよな?冬馬の傷を癒してくれたこと、感謝する。コイツは、俺にとっては弟のようなものだから」


「蓮二さん……」


「清水さん、俺からも。冬馬を元の冬馬にしてくれてありがとね〜。俺にとっても可愛い後輩だからね」


「淳さん……」


「さて……最後は俺か。清水……教師ではなく、ただの1人の兄貴分として感謝する。コイツの心を解いてくれたこと感謝する」


「真兄……んだよ……三人とも……」


「冬馬君……涙が……いえ、私は何も……」


「いや、コイツが再び人と関わろうとしたのは、間違いなくお前のおかげだ。おかげで何も遠慮することなく、俺達は懐かしいメンツで集まることが出来た」


「全く、コイツは意外と頑固だからな。アンタ、苦労するぜ?」


「でも、それが冬馬のいいところだね〜」


「ったく……うるせえよ……」


「はい、では受け取らせていただきます。でも、私の方が色々助けられています。そして、お三方にも……私の友達を助けるために、手助けしてくれてありがとうございました!」


「へっ、いいってことよ!可愛い弟分のためだ!」


「当然のことだね〜」


「まあ、俺は途中まで知らなかったんだがな?全く、気を遣いやがって……」


「まあまあ、兄さん。教師が暴力沙汰はまずいでしょ?」


「いや、知らせたのお前だからな?」


 俺が部屋の窓際に行くと、綾がついてきた。


「はい、冬馬君」


 綾から、ティッシュが手渡される。


「わりぃ……だせえな」


「ううん、そんなことないよ。嬉しい時は泣いていいんだよ?私にも……そ、その、もっと甘えてくれても良いんだよ……?冬馬君は情けないとか思ってるのかもしれないけど、そんなことないんだから……」


「綾……」


「も、もちろん、頼りないかもしれないし……冬馬君にばかり負担かけてるかもしれないけど……依存はダメだと思うの。だから、私にも何かできることがあればしたいです!なんでも言って欲しいです!だって……こ、恋人ってそうじゃないの?」


「……いや、綾の言う通りだ。俺がカッコ悪いところを見せたくなかっただけだな……。わかった、これからは気をつける」


「うん!えへへ、アレだね!普段はおにいの冬馬君も、ここでは末っ子だね!」


「否定はできないな……皆、頼りになる兄貴分達だ」




 その後は、皆で楽しい食事の時間となる。


「なあ、加奈ちゃんって言ったっけ?俺と付き合う?」


「バカか!大事な加奈をお前なんぞにやれるか!ていうか、お前の発言は問題ありすきるわ!」


「に、兄さん……照れるわね……」


「真司さん、俺は〜?」


「お前はモテるからダメだ!ていうか、お前も淫行になるから!」


「全く……何やってんだか……」


「えへへ、でも……楽しいね?」


「………だな」


 俺は大事な子の隣で、その光景を眺めながら感じていた。


 心が温かなものに包まれるのを……。










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