第91話冬馬君は文化祭の行事に参加する

 翌日の放課後は、文化祭の準備をすることになった。


 部活連中は忙しいだろうから、こういう時は帰宅部が頑張らないとな。


 去年はそんなことも思わなかったのに、変われば変わるもんだな……。


 今は教室にて、田中君……敬介と看板作りをしている。


「敬介、釘を打つからそっち押さえてくれ」


「う、うん!わかったよ!と、冬馬君……」


「乙女か!何故照れる!?」


 名前呼びをすると、田中君は照れるのだ。

 しかも、俺の名前を呼ぶ時も吃るし……。


「だ、だって……友達を名前で呼んだことないから……呼ばれることも……」


「だから乙女か!!」


「ウンウン……守ってあげたい系田中君と、男前系の冬馬……悪くないわね」


「うおっ!?いつの間に!?」


「あ、あれ?生徒会長さん……?」


「失礼ね、冬馬。まるでバケモノに会ったかのような顔して」


「いや、ある意味あって……ないデスねー。はい、ごめんなさい」


 こいつは百合もいけるくせに、BLもいけるクチだからなぁ……。

 なんという恐ろしい女だぜ……!


「と、冬馬君が押されてる……凄いや……」


「ハァ、全く……田中君ね?一応名乗っておきましょう。生徒会長で、冬馬の腐れ縁の中条小百合よ。いつも悶えさせてもらってるわ、ありがとう」


「え?あ、はい、どうも……?」


「敬介、無視していいから。ていうか……お前か!諸悪の根源は!!中学の時だってアキと俺を変な風にしやがって……!」


 何やら最近俺と敬介が話していると、一部の女子がヒソヒソと話し出すのだ。

 てっきりタイプが違うとか、似合わないとか言われてると思っていたが……。


「あら?気づいた?創作意欲が湧いて……」


「ヤメロォォ——!!いや、ヤメテください!!」


「仕方ないわね、自重するわ」


「ハァ……で、何しに来たんだ?昨日会ったろうに……」


「何って可愛い子を見に来たのよ。このクラスは色々な意味で好きだわ」


「おい」


「冗談よ、冗談」


「全くそうには聞こえなかったのだが?ハァ——で、なんだ?」


「お金を管理してるのは誰かしら?材料費や当日の料金などについて聞きたいのよ」


「あっ!僕、呼んできますね!」


 敬介はそう言い、教室から出て行った。

 アイツは良いやつだよな。


「……生徒会長は、そういうのもするのか?」


「少し人手が足りなくて。だから、私が全体をフォローしている感じね」


「ご苦労さん。あぁ——あれだ……俺に出来ることがあれば言ってくれ。なんでもとは言えないが、少しは手伝うからよ」


「あら?どういう風の吹きまわしかしら?」


「いや、まあ……お前にも心配かけたからな。それに、今回の文化祭は楽しみにしてるんだよ。だから、俺に出来ることならしようかなと思ってな」


「そう……良い心がけね。では、早速頼み事があるのよ」


「……その顔……初めからそのつもりで来たな……?」


「いえ、気のせいよ」


「……全く、相変わらずだな。で、俺に何をしろと?」


「ミスターコンテストに出場してほしいわ」


「はぁ!?俺が!?」


「ええ、貴方が。去年の優勝者のアキも出るけど、対抗馬がいないと盛り上がらないし。かと言って、一年生には期待の新星はいなかったし。貴方なら、アキとはタイプが違うから良いと思うのよね。アキは優男イケメン、冬馬は正統派男前って感じで」


「……いや、それは……うーん……」


「これは貴方の為でもあるのよ?」


「ん?どういう意味だ?」


「まだ、清水さんとのことを認めてない……よく思ってない人はたくさんいるわ。告白だってされているでしょうね。きっと心優しい彼女は、色々な意味で辛いでしょうね。断るのもそうだし、冬馬にも悪いなと思っているでしょうね」


「……それは……そうだな。俺が出れば少しはマシになるということか……」


「ええ、貴方が本気を出せばね。見せつけてあげなさい、貴方の本気を」


「どこまでやれるかわからないが……やってみるか……!綾のために……!」


「まあ、一応彼女には許可を得なさいね。場合によってはイヤだろうし。あら……タイミング良いわね」


 廊下から綾の声が聞こえてくる……。

 確か衣装の確認をするとか言っていたな。

 だから家庭科教室に行ってくると……。


「は、恥ずかしいよぉ〜!」


「何言ってんの!見てもらわないと!さっき自分で言ってたじゃん!」


「で、でもぉ〜……」


 ……なんだ?メイド服でも来てきたのか?

 いや、まだ完成はしてないはず……。

 すると、教室の扉が開き……。


「綾、今すぐに写真を撮ろう」


「あ、あの……ふぇ?と、冬馬君……?」


「冬馬、良いこと言ったわね。綾さん、撮るわよ」


「あ、あのぅ……小百合さん……?2人とも目が……」


「「さあ!早く!!」」


「は、はぃ……」


 綾は……ワイシャツにセーターを着ていた。

 つまり、セーラー服ではないということだ。

 しかも、萌え袖だし。

 靴下はダボダボだし。

 終いには……超絶ミニスカートだ!!


「むむむ……!ギャル系ファションはどうかと思っていたが……可愛いな。ていうか、脚が長くて綺麗だ」


「あ、ありがとぅ……似合わないかなって思ったんだけど、愛子が着なさいって……」


「ふふ〜ん!どうよ!」


「森川!ナイスだ!」


「森川さん!良い仕事したわね!」


 俺と小百合はシャッターを連打する。


「あ、あぅぅ……!」


「よし、これで勘弁してやろう……ていうか、何故お前まで?」


「いいじゃない。可愛い子を独り占めはズルいわよ」


「……まあ、お前なら良いけど。言っておくが……」


「悪用はしないわよ。約束するわ」


「なら良い。綾、ありがとな。俺のために着てくれたんだろ?」


「う、うん……そうです」


「ギャップ萌えというやつだな。ウンウン、可愛い」


「はぅ……で、でも……頑張って良かったぁ〜」




 その後、綾達は着替えに戻って行った。

 こっちも敬介が戻って来て、作業を再開する。


「ヘェ〜!ミスターコンテストかぁ……僕、応援するよ!」


「ありがとよ。まあ、綾の許可を得てからだけどな」


「あっ、そうだよね。冬馬君がモテちゃうのもあれだよね……」


「まあ、そんな心配はないんだかな。俺は、綾が好きということを全開でアピールしているからな」


「うわぁ〜、カッコいいなぁ。僕も見習いたいな」


「ん?気になる子でもいるのか?」


「ううん、そういうわけじゃないよ。ただ、僕も変わっていかなきゃなぁと思って」


「いや、もう変わってるよ」


「え?」


「堂々と目を見て話すようになったし、運動部の奴らとも普通に会話してるだろ?」


「う、うん……まだ、少し緊張するけど……」


「何より……


「それって……あっ……そういうことかぁ」


「意識の変化ってやつだな」


「これも冬馬君のおかげだね!ありがとう!」


「いやいや、本人が頑張ったからだよ」


 ……でも、そうだよな。


 人は変われるし、変えられるんだな。


 ……よし!今度は皆の意識を変えてやる!


 ミスターコンテスト……正直言って、どこまでやれるかわからないが……。


 俺なりの全力を尽くして頑張るしかあるまい……!

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