第92話冬馬君は時間の流れを感じる

 あれから数日が過ぎ、文化祭の準備も着々と進んでいる。


 メイド服だったり、執事服だったり。

 俺も放課後に残って、装飾品の作成などをしていた。

 もちろん、クラスの連中と交流しながら……。

 ……ごくたまに、羽目を外して遊んだりもしたけど……。

 まあ、いかにもな青春って感じだな。


 あとは自分の時間も取りつつ、綾と過ごしたり……。

 友達付き合いなどをしていたら、あっという間に過ぎていた。

 ちなみに何やら皆が恋愛モードなので、今は少し案を練っているところだ。



「さて……麻里奈、準備はいいか?」


「うん!妹は準備完了なのです!」


「はいはい、元気なことで。じゃあ、行くとするか」


「ふふ〜ん!仕方ないので、お兄とデートしてあげます!」


「そうだな。悪かったな、最近遊んでやれなくて」


「ち、違うもん!お兄が寂しいから遊んであげるんだもん!」


「そういえばそうだったな。ほら、靴履いていくぞ」


「えへへー、ハイなのです!」


 今日は土曜日、妹とお出掛けをする日だ。

 この間の約束を果たすために。

 というわけで、昼飯を食べた後出発という流れになった。



「んで、どこ行きたいんだ?」


「まずは……駅中のデパートです!冬服を見るのです!」


「そうか……もう、そんなになるか。あの時は、夏だったもんな」


「ふふ〜、私が綾ちゃんとお兄のキューピットなのです!」


「はい?……いや、強ち間違いではないか」


 あの時麻里奈とお出掛けをしたから、俺は綾に見つかったんだ。

 そして生徒手帳を落とし、そっから始まったんだ。


「お兄、感謝しても良いんだよ?」


「だな、ありがとな」


 頭をわしゃわしゃしてやる。


「わわっ!?ら、乱暴なのです!」


「その割には嬉しそうだな?」


「べ、別に!」





 二人で自転車乗って、駅前に到着する。


「て、おい。何してんだ?」


「腕を組んでいるのです!」


「いや、お前なぁ……もう、中学生だろうに」


「だって彼氏いないもん!お兄で我慢します!」


「はいはい、それなら仕方ないか」


「ふふ〜ん!お兄のシスコンにも困ったものです」


「まあな、もし出来たなら……俺が見定めてやらねばな……!」


「むむぅ〜、どうしよう?」


「言っておくが、親父よりはマシだと思うぞ?親父は多分、冗談抜きで殺しそうだ」


「……どうしよう!?想像ができちゃったよ!?」


「奇遇だな、俺もだ。まあ、というわけだ。まずは、俺が認めるかどうか。そして、認めたなら親父を説得してやろう」


「お兄ちゃん……あっ——」


「ククク……久々にに聞いたな?中学生に上がる前は、お兄ちゃんって呼んでたのにな……」


「むぅ……仕方ないのです。中学生を機にしっかりしなきゃ!と思って……」


「ありがとな、麻里奈。いつも笑顔で、元気でいてくれて。おかげで、俺と親父も笑顔でいられる。きっとお前がいなければ、暗くなっていただろうな……」


「お兄ちゃん……だって……お母さんに言われたもん……いつでも明るく元気な子でいてねって……そして二人を明るくしてあげてって……でも、辛くなったらお兄ちゃんに言いなさいって……」


 ……きっと最期の会話だろうな。


「そうか……ありがとな。あんまり兄らしいことはできてないが、いつでも頼ってくれ」


「ううん!お兄ちゃんには感謝してる……だって私が泣いてる時、お兄ちゃんがいつも飛んできたもん。お兄ちゃんだって泣きたいはずなのに……」


「それこそ同じだよ。母さんに言われたしな」


「もう2年も経つんだね……」


「……そうだな。ほら、切り替えるぞ。母さんが心配するぞ?」


「そうだよね……うん!行こ!」


 その後は、笑顔で楽しく買い物をしていく。

 もちろん、洋服は買ってあげたぞ。

 頑張っている妹のためなら、一万円くらい安いものだ。




 ある程度時間が経ち、休日出勤している親父のために、麻里奈はデパ地下に行った。

 俺にはその間に、ケーキを買ってきてと言われた。

 ただ、あいつの買い物は長いのだ。

 なので俺は、買い物を済ませてベンチに座りながら、うつらうつらしていた……。





 おっといかん……眠ってしまったか。


「あっ——起きた……?」


「ん?……なんだ、まだ夢か。可愛い綾がいるな。俺の大好きな子だ。全く、俺はどんだけお前が好きなんだか……夢の中まで膝枕とか……幸せだな……」


「あ、あのね……ゆ、夢じゃないの……はぅぅ……」


 目の前の綾が、両手で顔を押さえている……つまり。


「……はい?」


 俺は起き上がり、あたりを見回す。


「起きる前と同じ場所……ということは……現実か……?」


「お、おはよぉ……もぅ、冬馬君ったら……でも、嬉しい……」


「お、おう……何がどうなったんだ?」


「麻里奈ちゃんがね、今日の夕ご飯に誘ってくれたの。休日のお兄ちゃんを独占しちゃ悪いからって……あとお兄ちゃんを返すので、自由にしてくださいって。自分は、先に家に帰るって言ってたよ」


 確かに、妹と買い物するから今日は断っていたが……。


「アイツ……自分より俺かよ」


「お兄ちゃんとは家でいられるもんって……それに、きちんと時間を作ってくれたことが嬉しかったって……それで十分だって……」


「あんにゃろう……泣かせること言いやがって……大きくなったなぁ……」


「ふふ、気持ちわかるよ。私も誠也に言われたんだ。僕のことは気にしないで、お姉ちゃんは好きなことしてって。あぁ、大きくなったなぁって思う」


「お互い、出来た兄弟を持ったな」


「ふふ、そうだね。時間が経つのは早いよね……」


「ここで綾に見つかったんだよな……」


「もう〜びっくりしたんだから。声かけたら逃げちゃうんだもん」


「悪い悪い……あん時は思いもしなかった。こんなに好きな女の子ができるとは……当時の俺が、今の俺見たら……なんて言うんだろうな……」


「わ、私も……こんなに好きな人ができるなんて思ってなかった。あの時の私を褒めてあげたいな。よく勇気を出したね!って」


「もうすぐ季節が変わるな……夏から秋になり、冬がやってくる……早いもんだ」


「あ、あのぅ……これから先も一緒にいてくれますか………?」


「ああ、もちろんだ。綾が嫌になるくらいにな」


「……そんな日はこないもん……」


 その後は、二人黙って静かな時を過ごす……。


 多分、考えていることは同じだと思う。


 きっと、これまでの出来事を思い出しているのだろう。


 時の流れを感じながら……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る