第90話冬馬君は友達の相談に乗る

 次の日になり、普通に授業を受ける。


 そして、昼休みになると……。


「じゃあ、冬馬君。部屋貸してもらうね?」


「ああ、良いぞ。今日は、俺も別のところで食うから」


 森川に話す内容は、なるべく聞かれない方がいいからな。

 というわけで、空き教室を貸すことにした。

 もちろん、真兄にも伝えてある。

 なので、今日は来ないと言っていた。

 俺と真兄がいては、話辛いこともあるだろうし。


「吉野、ありがとう」


「吉野……よくわかんないけど、ありがとね〜」


「おう、どういたしまして。と言っても、俺のじゃないけどな」


「ふふ、それもそうだね。じゃあ、行ってくるねー」


 綾は、2人を連れて教室を出て行った。


「さて……待たせたな、博」


「いや、大丈夫だよ。じゃあ、行こうか?」


「おう、体育館近くのベンチにするか。あそこなら、人に聞かれにくいだろうし」


「そうだね。ありがとね、相談に乗ってくれて」


「気にするな、友達だろ?」


「うーん、本当に損した気分だよ。面白い上に良い人とか」





 2人でそんな会話をしながら体育館近くのベンチに座る。


 コンビニのパンと飲み物で食事をしながら、時間も限られてるので本題に入る。


「で、どうした?」


「黒野のことなんだけど……最近何かあったのかなって……なんか、嬉しそうというか……機嫌がいいというか……も、もしかして……彼氏でもできたのかな?」


 ……おそらく、真兄と出掛けられるから機嫌が良いんだろうな。

 しかし、俺がそれを言うわけにはいかない。

 しかも、黒野がどう思っているかも知らないから、協力もし辛いところだ。

 ……ただ、相談された以上、なるべく応えてあげるのが男ってもんだ。


「いや、彼氏はいないそうだ」


「どうしてわかるんだい?」


「綾から聞いている。それと事情は話せないが、機嫌が良い理由も俺は知っている。それは恋愛とかとは関係のないところでだ」


「そっか……ありがとね、冬馬。少し嫉妬するけど、きちんと出来るだけ応えてくれて」


「こっちこそすまんな。というか、告白はしないのか?」


「うーん……断られるのは目に見えてるしね。あいつ、告白されても全部断ってるみたいだし。だからこそ、嬉しそうにしているのを見て疑問に思ったんだ。てっきり冬馬と清水さんに当てられて、彼氏でも作ったのかと……焦ったよ……」


「ふーん……まあ、あいつなりの考えがあるんだろうな。あぁー、そういや何人かカップルできたって言ってたな」


「やっぱり、何か知ってそうだね。でも、今回のことで思ったよ……動かないことには始まりもしないって。俺も、冬馬を見習って動いてみるよ」


「おっ、そうか……協力はできないかもしれないが、提案くらいなら出来るかもな。集団で遊ぶとかな」


「あっ、なるほど。そうだね……俺が言うと意識しそうだし……お願いしてもいいかな?もちろん、あとは自分で頑張るからさ」


「おう、それなら良いぜ。よし、予定……あぁ、今更だが連絡先の交換しとくか」


「……忘れてたね。はい……これでおっけーだね」


 その際に、スマホの時計を見て焦る!


「ヤベッ!!食ってねえ!!急げ!!次、学年主任の授業だから遅れたらエライことになる!」


「立たされるのは勘弁だね!」


 二人で急いで食べて、なんとか事なきを得た。

 ……チャイムギリギリで、少し睨まれたけどな。




 そして、放課後を迎える。


「じゃあ、冬馬君!また明日!」


「おう、気をつけてな。遅くなる前に帰れよ?何かあればすぐに連絡してくれ。どこであろうと飛んでいく」


「う、うん……ありがとぅ……」


「少し彼氏が欲しくなってくるわね……」


「私も〜。その辺の話も聞かせてくれるんでしょー?」


「ええ、もちろん。じゃあ、行きましょう」


 綾たちが出て行った後も、俺は教室に残っていた。

 さっき、いきなり『今日空いているんでしょ?付き合いなさい』と連絡が来たからだ。


「全く……なんで、俺が今日暇な事知ってるんだ?相変わらず怖い奴……」


 今日は綾もいないし、バイトもない。

 小説の新刊も出てないし、好きなゲームもまだ発売していない。

 それを知っているかのように、連絡が来たのである。


 そして……怖い奴が教室に入ってきた。


「あら、暇そうね?冬馬」


「小百合、なんで知ってやがる?」


「フフ、なんでかしらね?聞いてみる?」


「……やめておく」


 こいつは昔からそうだ。

 情報網が半端ない奴なのだ。

 俺がグレた時も、こいつはいち早く気づいた。


「冬馬ー!来たよー!」


「ん?飛鳥もか。2人だけ……?」


「何か忘れてないかしら?」


「そうだよー!!」


 ……ヤバイ。

 女王が怒っている……。

 ゴゴゴっと効果音が聞こえてくる……。

 何を忘れている……あっ——。


「俺の家に来てないな……」


「正解。良かったわね、命拾いして」


「そうだよー!私達だけ行ってないよー!」


「これは俺が悪いな。すまなかった」


「そうだそうだ!もっと謝れー!」


「智も大変そうだな……こんなじゃじゃ馬相手では……」


「なにおー!そんなことないやい!」


「フフ、律儀な男ね」




 その後俺は2人を連れて、家に帰宅する。


「お邪魔します」


「お邪魔しまーす!」


「はいよ、いらっしゃい」


 2人とも和室に行き、母さんに挨拶をする。


「こんにちは!冬馬のお母さん!未来の娘です!……冗談だから!冬馬!えーと……いつもニコニコして私達を迎えてくれてありがとうございました。残念ながら彼女にはなれなかったけど、これさらは友達として付き合っていこうと思っています。また、よろしくお願いします!」


「こんにちは、冬馬のお母さん。早いもので、あれから2年が経ちましたね。無愛想な私にも優しく接してくれたこと、今でも覚えています。ありがとうございました。今後もよろしくお願いしますね」


「2人とも、ありがとな」




 その後はリビングにて、お茶を飲むことにする。


「小百合、気を遣ってくれてありがとな」


「……何のことかしら?」


「女の子1人と、俺っていう状態を避けてくれたんだろ?」


 一応、浮気とか思われないように……。

 帰り道で女子と2人きりとか、怪しすぎるしな。

 だから、飛鳥の空いてる日を選んで連絡したのだろうな。


「……相変わらず鋭い男ね。ええ、そうよ。あんな可愛い子が傷ついたら悲しいじゃない」


「お前こそ、相変わらずだな!」


「あっ——!そういうことなんだ!……ところで冬馬……」


「どうした?珍しく神妙な顔をして」


「綾ちゃんにどんな時手を出したくなる……?」


「はい?……あぁ、そういうことか。あのヘタレめ、まだ何もしてないのか……」


「そうなんだよねー。智ったら、キスもまだなんだよねー。それくらいなら、いつでも良いのに……」


「お前がそんなんだからじゃないか?もっとお淑やかつーか……スカートを履いたり、可愛い格好したりさ。こう、ドキドキさせるようなことだな」


「むむむ……!綾ちゃんなら可愛いけどさー。私には似合わないよ……」


「そんなことないと思うわよ?飛鳥も素材は良いのだから」


「飛鳥……よく聞け」


「え?う、うん……」


「男にとって好きな子の可愛い格好は、似合う似合わないじゃない。ただ可愛い……それだけだ。だから安心して着るといい。誰が似合わないと言っても、智だけはそんなことは言わないはずだ。もし言ったらぶん殴ってやれ。いや、俺がぶん殴ってやる……友達としてな」


「冬馬……よーし!頑張っちゃおうかなー!」


「フフ、私に任せなさい。とびっきり可愛くしてあげるから」


「あ、あの?小百合さんー?目が怖いんですけど〜……」


「そうと決まれば善は急げね。さあ、飛鳥の家に行くわよ」


「と、冬馬〜!」


「すまんな、飛鳥。俺は女王を敵には回したくないんだ」


「冬馬?」


「いえ!小百合さん!何でもありません!」


「は、薄情者〜!さっき友達だって言ったのに〜!」


 その後言葉通りに飛鳥を連れて、小百合は家を出て行った。


 ……うん……ごめんよ、飛鳥。


 俺も、奴だけは敵に回したくないんだ……色々情報握ってて怖いし。



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