第68話冬馬君は古巣を訪ねる

……懐かしいな。


……俺は、とある駅ビルの前で立ち止まる。


「と、冬馬君?」


「ああ、悪い。ここ、昔よく来てたところなんだ」


「へ、へぇ〜……ひ、ひと気のないところだね?裏道通りだし……」


「安心しろ、俺がいる。ただ、1人ではくるなよ?」


「う、うん!」


二階への階段を上っていく……。


確か二階の部屋だったはず……。


二階の通路に出ると……。


「ん?なんだ?見ねえ顔だな?」


「ああ?おっ!めちゃくちゃ可愛い子いるぜ!」


「新人の貢ぎ物かぁ!?フゥ〜!」


中坊くらいか、同じくらいの年齢か?

……品がない……ここまで下がってしまったのか。

この分だと、上の連中もどうなっているか……。

場合によっては、頼るのはやめにしておこう。


「と、冬馬君……こ、怖い……」


俺の服の端を、綾の手が摘む。

……おっと、いけない。

不謹慎にも可愛いと思ってしまった……。


「大丈夫だ、あの程度なら問題ないから」


「あぁ!?テメー!!なんつった!?」


「カッコつけてんじゃねーぞぉ!?」


すると、ドアから誰かが出てきた。

ヒョロとした見た目で、やる気のなさそうな人だ。

だが、とても熱い男なのを知っている……懐かしいな。


「やれやれ、うるさいな。どしたの?」


「あっ!淳さん!」


「こいつがですね!」


「おいおい、只でさえガラ悪いんだからよ。あんましイキるなって言ったろ?」


「す、すみません!」


「すいやせん!」


「まあ、良いけどさ。で、君達……危ないから帰りな。ここは、普通の子がくるところじゃないよ?」


「淳さん……変わってなさそうですね。覚えていませんか?」


「うん?君は……もしかして……冬馬かい?」


「ええ、ご無沙汰してます」


「大きくなったなぁ〜。あれから2年……当然のことだね。ただ顔見せに来たわけじゃなさそうだね。いいよ、部屋に入りなよ」


「ちょっと!?こいつは……?」


「だ、誰っすか!?」


「まあ、無理もないね。君達新人だし。こいつの通り名は……レッドウルフだよ」


……や、やめてえぇーー!?


「淳さん!俺の黒歴史を掘り起こさないでください!」


「え!?あの……!?中坊にして、この界隈ではタイマンで敵なしだった……俺らの憧れの人!?」


「マジっすか!?俺、アンタに憧れてるんす!燃えるような赤い髪!常に赤い上下のジャージを身にまとい、媚びない群れない一匹狼……!マジでカッコいいっす!」


……や、やめろぉぉーー!!


「うるせぇーー!!ぶっ飛ばすぞぉ?あぁ!?」


「おお!すげー気迫だ!」


「間違いないっすね!」


「と、と、冬馬君はレッドウルフなの……?」


「いいから、笑えよ。顔緩んでるぞ?」


「ご、ごめんね?か、カッコいいと思うよ?」


「……勘弁してください、後生ですから……」


穴があったら入りたいとは、まさしくこのことだな……。

まさか、黒歴史を暴露されるとは……。





その後部屋に入り、なんとか落ち着くことができた。


2人の見張りは、目をキラキラさせながら握手を求めてきた。


面倒なのでしてあげたら、大層喜んでいたな。


「で、どしたの?こんな可愛い子連れて」


「俺の彼女で、清水綾っていいます。綾、この人は永井淳さん」


「は、初めまして!」


「へぇ〜、良い子そうだね。そっかそっか……冬馬の傷も癒えたのかな?」


「ええ、この子のおかげです。俺の大事な子です」


「は、はぅぅ……」


「初々しいね〜……で?卒業した冬馬がどうして来たんだ?」


「実はですね……」


俺は一通りの事情を説明した。

何もなければ、すぐに帰ると。


「……永倉慎吾だと?」


「……ハァ、帰れそうにないですね」


「え?と、冬馬君、どういうこと?」


「淳さんが、相当にマズイ顔になってる。ヤバイ奴ですか?」


「ああ……俺が、今のレッドキングのボスなんだけど……そいつはブルーエンペラーの新しいボスだ」


「チッ……厄介だな。あいつらは、昔からロクでもない奴らが集まるし」


「そうだな……リンチはするし、闇討ちをするし、ナンパした女を集団で……」


「ストップ!淳さん……!」


「おっと、悪い……女の子に聞かせる話じゃないね」


「ど、どうしよう!?あ、愛子が!!」


「落ち着け、綾。まだ、そうと決まったわけではない。ふつうに恋人かもしれないし、あくまでも噂の域だ」


「う、うん……でも……」


「わかってる。詳しく調べるとしよう」


「おい、冬馬。それは首を突っ込むということか?」


淳さんの顔つきが変わった。

これは……一筋縄ではいかないか。


「ええ、彼女の大事な友達なんです。つまりは、俺にとっても大事な人ということですから」


「そういうところは相変わらずなこと。だが、俺も今はこの辺のボスなんでね……好き勝手にされると示しがつかないんだよね〜……やるかい?」


「それで淳さんのお許しがでるなら」


「オッケー。じゃあ、呼んでくるから。ここで待ってなさいね〜」


淳さんは部屋を出て、俺と綾の2人きりになる。


「と、冬馬君……?な、何がどうなったの?」


「……これから、淳さん達と勝負をする」


「え!?ど、どうして!?仲いいんじゃないの!?」


「俺は一度、この道を抜けた人間だ。そんな奴がうろついていたら、淳さんの面目が立たない」


「で、でも……わ、私が頼んだから……ご、ごめんなさい!」


「謝ることはない。それよりも、頼ってくれて嬉しかったよ。何より、こんな場所に綾1人で行かせられないしな。綾、俺は君に救われた。綾がいなければ、俺は友達とも疎遠のままだっただろう。その綾の大事な友達が危ないかもしれないんだ。ならば……俺は全力を尽くすまでだ……!」


「と、冬馬君……ありがとう……た、頼っても良いかな……?」


「その言葉を待っていた。ああ、任しておけ……!」


……さて、久々の勝負だ。


あの日から、鍛えておいて良かったぜ……!






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