第69話冬馬君は再び……

 ……さて、全員揃ったか。


 今の俺で、どこまでやれるかだな。


 俺らは部屋を移動して、三階の特殊な部屋に集まっている。


「さて、覚悟はいいな?」


「へへへ、腕がなるぜ!」


「まさか、伝説のレッドウルフと戦えるとは……!」


「久々だな!冬馬!手加減しねえからな?」


「ケッ!良い女連れやがって……殺す!」


「と、冬馬君……だ、大丈夫なの?」


「綾、安心してくれ。俺はお前が側にいれば負けることはない……!」


「と、冬馬君……うん!私も頑張って応援するね!」





 ……そして、負けられない戦いが始まる……!


「おい、殺すつもりでやるから覚悟しろよ?」


「ええ、どうぞ。相変わらずでかいしゴツいですね、小次郎さん」


「やっちまえー!」


「小次郎さーん!」


「静かに!!」


 淳さんの声により、皆が静まる。


「冬馬!ここは音も漏れない!良いか?逃げるなら今のうちだぞ?」


「ハッ!愚問だぜ!淳さん!いいぜ!全員ぶっ潰してやるから……かかってこいやぁー!」


「あれ……?これって……?もしかして……」


 特殊な台座で、腕と腕が組み合う!


「綾!みてろよ!今度こそ負けはしない……!」


「ケッ!可愛い彼女の前で恥かかせてやるぜ!」


「いくぞ……レディーゴー!」


「あれ?なんか、勝負って聞いたから……また腕相撲なの!?」


「ウォォォ!!!」


「ガァァァ!!!」


 身長差、体格差は歴然……!

 だが、負けるわけにはいかない……!


「オラァ!!」


「グァ!?ま、負けただと!?……強くなったな」


「小次郎さん……ありがとうございます!」


 その後、次々と倒していく。


 ……そして、いよいよ……。


「さて、冬馬?やるからには本気で行くけど……いいかな?」


「ハァ……ハァ……ええ、もちろんです」


「では、冬馬の彼女に頼むかな?で、勝利者にはキスをお願いしようかな?」


「なんだと……?淳さん……俺を本気にさせましたね?」


「もう!よくわかんない!えーい!レディーゴー!」


「グォォーー!!」


「ハァァーー!!」


 綾の掛け声で負けるわけにはいかない……!


「クッ!?こ、これは……!強くなったな!?」


「ええ……!この間、真司さんに負けたんでね!それから鍛え直したんですよ……!」


「し、真司さんか……!あの人も元気か……?」


「ええ!というわけで……セィ!!」


「グァ!?」


「し、勝負ありです!冬馬君の勝ちです!」


「パネェーー!!」


「これがレッドウルフですか!」


「ハァ、ハァ……綾、俺に勝利のご褒美を……」


「ふえっ?え?こ、ここで……は、はい!」


 綾の柔らかな唇が、俺の頬に触れる……。

 これはこれで……とても良い……!


「やれやれ……これは負けるわけだね……負けられない理由が出来たんだじゃね」





 その後ギャラリーは解散して、二階の部屋に戻る。


「で、これからどうするんだい?」


「もう時間も時間なので、一度家に帰ることにします」


 もう既に、外は暗くなっていた。


「そうか……俺が強いボスじゃないから、舐められてるんだよな。だから、奴らが幅をきかせているんだよなー」


「淳さんは優しい人ですから。でも、俺は好きですよ?真司さんの真実を教えてくれましたし」


「あっ!冬馬君、この人がそうなの?」


「そうだ。リンチの件を教えてくれた人なんだ。昔から気配りやさんで、周りをよく見てる人なんだ」


「よせやい、照れるから。冬馬、俺は派閥とかどうでも良いんだ。ただ、ここは家庭の事情や学校で馴染めない奴らの逃げ場所なんだ……俺はレッドキングのボスとして、そこだけは譲れない。俺がここで救われたように……」


「ええ、同感です。もちろん、根っから悪い奴もいますが……ほとんどのやつは、元から悪いわけではないですから。どうしようもない感情の捌け口を探しているだけだと……俺がそうだったように……」


「冬馬君……」


「だな……よし!何かあれば力を貸す!いつでも連絡してくれ!むしろ、力を借りるかもしれないが」


「ええ、俺に出来ることなら。それが、この街に対する恩返しにもなります。もちろん、警察沙汰にならない程度にですがね」


「それはお互い様だ。ただ、大した抗争でなければ見逃される筈だ。上の方さえ潰せればいい」


「了解です、その辺りは変わりないようですね。では、失礼します」


「し、失礼します!」


「ああ、気をつけてなー」





 その後俺達は夕飯を食べ、今は公園のベンチに座っている。


「な、なんか……凄い世界だね?」


「んー……俺も最初はビビったけどな。でも、悪い奴らばかりじゃないんだよ。今の学校には生き辛い人が集まる場所でもあるんだ」


「気持ちわかるなぁ……私も、中学の時そうだった……女子達から無視されてたから……」


「俺もだ……母さんが死んだことで、皆が可哀想な目で見てくるんだ……アキ達が庇ってくれたが……当時の俺は、それすらも嫌だった……可哀想な奴と思われるのが……」


「私はね……愛子に救われたの。1年生の時にね、二年生の女子から呼び出されたんだ……その時に、愛子と加奈が助けてくれたの。愛子は物理的に、加奈は相手の弱みを握ってきて……だから、今度は私が……」


「わかるよ……俺もアキがいなければ、再び友達と仲直りできたか……。何より、綾。お前がいてくれて良かった。お陰で俺は、大事な気持ちを思い出した。大切な人がいるという気持ちを……」


「冬馬君……」


「こちらこそ、いつもありがとう。俺は綾に出会えて良かった。出会ってから、世界の色が変わったんだ」


「わ、私も……世界が変わったの……例えばね……前はね、露出のある服が着れなかったの。男の人の視線が嫌だったの……男の子なんて、皆そうだと思ってた……でも、冬馬君が変えてくれた。今はね、冬馬君になら見せたいなとか……冬馬君が守ってくれるから安心して着れるんだよ?」


「そうか……まあ、俺はドキドキして大変だけどな?」


「ふえっ?そ、そうなんだ……えへへ」


「ちなみに……今もドキドキしている」


「え?……わ、私も……」


 誰もいない公園で、2人の唇が重なる……。


「んっ、やっ、舌が……」


「おっと、悪い。つい高まってしまったな」


「もう……で、でも……イヤじゃないよ……?」


 ……おっといけない。


 また、してしまいたくなるところだった。


 ……さて、明日から行動開始だな。


 大事な子の、大事な人を守るために頑張るとしますか。


 俺はこれからのことを考え、気合いを入れるのだった。

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