第44話冬馬君は勉学に励む

 さて……客観的に見て、綾と釣り合うと思われるために、俺が何をすべきか。


 まずは、来週にある中間テストだな。


 そこで順位を上げて、とりあえず勉強ができるということを証明する。


 もう目立ってしまっているので、手を抜く必要もない。


 というわけで、俺は試験勉強に励むことにする。


 今は、放課後の図書館で、綾と一緒に勉強中である。






「……君!冬馬君!」


「ん?綾、どうした?図書館では静かにしないと……」


「もう、閉まる時間だよ?ほら、見て」


 綾のスマホを見る。

 そして、周りを見渡してみる。


「マジか……ホントだ、誰もいない」


 いつの間ににか、夜の6時前になっていた。

 うちの学校の図書館が、もうすぐ閉まる時刻だ。


「最近、凄いよね?猛勉強してるし、集中力も高いし……冬馬君、何かあったの……?」


「いや、綾がいると捗るんだよ。隣にいると落ち着くしな。もちろん、ドキドキもするがな」


「そ、そうなんだ……う、嬉しいです。わ、私も一緒だよ?」


「そうか、それは幸せなことだな。では、帰るか?」


「うん!帰ろ!」


 二人で、当たり前のように手を繋ぎ、学校内を歩いていく。

 部活終わりの連中が、遠巻きに眺めている。


 ……ふむ、何か言われることはなくなったが、視線はまだまだ感じるな。

 この中の誰かが、書き込みをしているのか?

 おそらくだが、一部の人間で大多数の人間に見せかけているとは思うが……。


 狡い手を使うやつらだ……やるなら、正々堂々とやれってんだ。

 そういうのが、人を追い込むと何故わからない?

 何かあってからでは、遅いというのに……。

 最近は、善悪の区別もつかない奴らが増えてきたな……。

 みんなやってるしという言葉の元に、好き勝手しやがる……!



「どうかしたの……?怖い顔してるよ?」


 おっと、いかんいかん……。


「いや、まだ見てくる奴がいるから威嚇をな……俺の女だと……いや、この言い方は良くないか」


 女性はモノではないからな。


「ううん!そ、その……私は嬉しいです……そういうの好き……」


「……そうなのか。うむ……善処しよう」


「……実は、それも夢でした……また、叶っちゃった……!冬馬君は、私の夢をどんどん叶えてくれるね!」


 綾はそう言い、弾けるような笑顔を見せる。

 ……この笑顔が見れるのなら、俺は苦労など厭わない。






「そういえば、バイトはどうしてるんだ?」


「テスト近いけど、やってるよー。回数は少ないけど、リフレッシュにもなるし。冬馬君は?」


「俺も、今回は綾と似たようなものだ。確かに、リフレッシュになるんだよな」


「やっぱり、煮詰まっちゃうもんね。それにバイト始めたばかりだから、休んだら忘れちゃいそうだから」


「あー、それは言えてるな。俺がそうだった。それで、友野さんに叱られたものだ」


「えぇー!?そうなんだ!?今では、仲良しだよね?」


「まあな……最初は怖かったなぁ……いつも、黙ってるし。まあ、それが今では心地いいんだけどな」


「ふふ、また行きたいな。店長さんには、挨拶してないもん」


「あー、そういや言われたな。『冬馬君!!店長だけ仲間外れなの!?悲しいじゃないか!!』って」


「じゃあ、尚更だね。テスト終わったら行こうね!」


「ああ、そうするか」






 その日の夜……俺は遅くまで勉強をしていた。


 例のことを知ったのが、1週間前だから時間は限られている。

 少しでも良い点数をとり、周りから認められなくてはな。

 テストの点数は、ある意味1番わかりやすいからな。


 それと……例の裏掲示板とやらを、実際に見てみた。

 俺に対する罵詈雑言で溢れかえっていた……。

 死ね!などの、キツイ言葉も出てきたようだ。

 さすがの俺も、ノーダメージというわけにはいかない。

 綾の悪口がないことが、唯一の救いだな……。

 だが、このままだと危なそうだ……よし!やるぞ!



「お兄?まだ、起きてるの?」


「麻里奈か……まあな、少し本気を出すことにした」


「それって綾ちゃんのため?」


「まあな……色々あってな」


「そっか……私、コーヒー持ってくるね」


「おい、お前は……もう行ったのか」


 その後、可愛い妹からのエールをもらった俺は、再び勉強に励むのであった……。







「君……冬馬君!!」


「あれ?綾、どうしてここに?」


「寝ぼけてる……可愛い……じゃなくて!お昼を食べながら、寝ちゃうなんて。ほんとうに、大丈夫?何か無理してない?」


「ああ、してないさ。ごめんな、心配かけて。ちょっと、面白い小説見つけてしまってな。つい、遅くまで見ちゃったよ」


「なら、いいんだけど……まだ、眠いかな?」


「うん?……まあ、そうだな」


「では……学ラン借りるね!」


 脱いであった学ランを敷き、その上で正座をする。


「はい!どうぞ!私には……こ、これくらいしかできないけど……」


 ……まあ、さすがに薄々気づいているか……。

 だが、それを言ってはいけない。


「ありがとな、綾。俺は、お前と付き合えて幸せだ。後悔などしていない、それだけは覚えておいてくれ」


「冬馬君……やっぱり……うん!嬉しいよ!私も、冬馬君と付き合えて幸せだよ!」


 綾の膝枕の気持ち良さにいざなわれ、俺は再び眠りにつくのだった……。







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