第43話冬馬君は男と男の真剣勝負をする

 さて、二学期が始まり1週間が過ぎた。


 ひとまず、綾と付き合うことは認知されてきたようだ。


 認める認めないは別としてな……まあ、仕方あるまい。


 あんなに魅力的な女の子は、そうはいないからな。





「エヘヘ、ここで食べるのにも慣れてきたね!」


「そうだな、違和感なくなってきたな」


 今は昼休みの時間で、いつもの空き教室で一緒にお昼ご飯を食べている。


「おい?俺いるからな?おっぱじめるなよ?」


「しねーよ!バカなの!?」


「あう、え、あの、おっぱじめる……」


 頬を赤らめ、モジモジしている。


「ほら!こんな感じになるじゃん!あぁ?殺るぞ?コラ?」


「ほう?この俺を?一度も勝ったことないぜ?彼女の前だからってカッコつけてんのか?やめろやめろ、恥をかくだけだぞ?」


「ハッ!アラサーのオッサンなんかに負けるかよ!こちとら、ピチピチの現役高校生だぜ?恥をかくのは、そっちだろ?」


「あぁ!?冬馬……テメーは今、言ってはならないことを言った……!覚悟しろよ?もう、謝っても許さんからな?」


「そっちこそな!負けても歳のせいにするなよ?」


 俺と真司さんは、徐々に近づいていく。


「先生!?冬馬君!?ここ、学校だよ!?喧嘩しちゃダメだよ!?」


「すまんな、綾。だが、引くわけにはいかない……!」


「すまんな、清水。負けられない戦いが、ここにはある……!」











「えっと……どういうことかな!?」


「さあ!綾!頼む!」


「清水!彼氏の無様な姿を見てるんだな!」


「いや!だからなに!?どういうこと!?」


「「腕相撲だ!!」」


 昔から、何か諍いがあれば、これで解決してきた。

 怪我人も出ないし、強さを誇示できるしな。


「もう!最初からそう言ってよ!……わかりました……よーい、スタート!」


「グォォォ!!!」


「フヌヌヌ!!!」


「や、やるじゃん!オッサンの分際で……!」


「俺は全てのアラサーを代表して、若い奴らに負けるわけにはいかない……!」


「俺だってな……!好きな女の子の前で負けるわけにはいかないんだよ……!」


「ガァァ……!あの頃の力よ!今一度でいい!戻ってくれ!」


「ハァァ……!鈍った身体よ!全盛期の頃を思い出してくれ!」


「……好きな子と言われて嬉しいのだけれど、私は何を見せられているのかな……?」









「ハッ!ザマァねえな!彼女に慰めてもらうんだな!」


 そう言い残し、真司さんは教室から出て行った。


「クッソーー!相変わらず、つえー!」


「す、凄かったね、二人共。汗びっしょりだったよ?」


「まあ、昔はよくやってたんだよ。あー疲れた」


「と、冬馬君!はい!どうぞ!な、慰めます!!」


 いつの間にか、綾は正座をしている。

 これは、あの素晴らしいやつ……!

 ……だが、これではいけない。

 俺は学ランを脱ぐ。


「と、冬馬君……?なんで脱ぐの……?お、おっぱじめるの……?」


「おっぱじめないから!感化されすぎだ!全く……ほら、座るなら学ランの上に座ってくれ。汚れるし、冷たいだろ?」


「あ、ありがとう……やっぱり、優しいなぁ……」


「別に普通だろ。好きな子に優しいのは」


「エヘヘ……さあ、どうぞ?」


「し、失礼します……あぁ、天国……」


「も、もう……大袈裟なんだから……こ、これくらいなら、いつだってしてあげるんだから……」


 ……それはそれでマズイ気が……俺の精神的に……だが、この誘惑には耐えられん……!


 俺は、そんな楽しい日々を過ごしていたのだが……。






 中間テストまであと1週間ほどのある日、アキから呼び出された。


 体育館の裏に来いと。


「おっ、きたな。色男」


「お前にだけは言われたくないんだが?毎日違う女の子連れて」


「俺は真実の愛を探しているんだよ。いいよなー、俺だって本当に好きな子欲しいぜ」


「まあ、お前はモテすぎるからな……ある意味、綾と似ているかもな」


 こいつも、見かけだけで女の子が寄ってくるからな。


「あー、そうかもな。俺も、中身を見てくれる子を探しているのかもな……さて、本題に入るとするか……」


「何かよくないことか?俺でよければ力になるが?」


「冬馬……ありがとよ。だが、今はお前の話だ」


「ん?俺の?どういうことだ?」


「……その顔は、ホントに知らないようだな。まあ、お前噂とか裏掲示板の書き込みなんか興味ないもんな」


「……綾とのことか?」


「そうだ。一部の人間が嫌な書き込みをしている。やれ釣り合わないだの、弱みを握ってるだの、催眠をかけてるだの……まあ、色々だな。幸い、清水さんを貶めるような書き込みは、今のところない。あの子の性格の良さは、誰もが認めるところだからな……だが、これが続くようだと、それもどうだかな……」


「……そうか。綾は知っているのか?」


「多分な……だが、お前に言うような子じゃないだろう?だから、俺が知らせた」


「アキ、感謝する。綾は、俺には言わないだろう。ただでさえ、俺に迷惑をかけていると思っているからな……」


 こればかりは、いくら言っても本人が気にしていたらどうしようもない。


「さて、冬馬……どうする?」


「決まっている。客観的に見て、俺が綾と釣り合う男になればいいだけだ」


「おっ、ついに本気を出すのか?」


「ああ……もう地味な生徒B君は、完全に卒業する」


 さて……久々に本気を出すとしよう。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る