第18話冬馬君は確かめる、そして清水さんは戸惑う

 さて、下駄箱の前なので、もの凄い注目されているな……。


 吹っ切ったとはいえ、居心地が悪い……。


 さっさと行くとしよう。


 俺は校舎を出て傘を広げ、清水に呼びかける。


「おい、行くぞ」


 ダメだな……どうにも照れ臭く、ぶっきらぼうな言い方になってしまう。


「は、はい……」


 清水は頬を染めながらも、俺の側に寄る。


 そのまま、2人で歩き出す……。


 今日は大きめの傘で良かった……折り畳みとかだったら、どうにもならんかったな。


 もちろん、傘は清水に寄せてある。


 ……それにしても、めちゃくちゃ見られているな。


 無理もないか……マドンナと空気的存在の組み合わせだもんな。


 あまりに信じられないのか、誰も話しかけてこない。


 皆、呆然と眺めている様子だ。


 そのまま学校を出て、駅へ向かう。


 清水は下を向き、俯いたままだ。


「おい、濡れるぞ?もっとこっちに寄ってくれ」


 俺は清水を丁寧に引き寄せる。


「ひゃい!……あぅぅ……」


 ……どうやら、いきなりすぎたようだな。

 状況がよくわかっていないのかもな。

 ……ていうか、俺のせいだな。


「……すまんな、嫌だったか?」


「え?……そんなことない!う、嬉しいです……」


 一度顔を上げたが、再び俯いてしまう。

 ただ、耳まで真っ赤になっている……。

 ……とりあえず、嫌ではないようなので一安心だな。


 ……沈黙が続くが、不思議と気まずくはない。

 むしろ、落ち着いている自分に驚いている……。


 結局2人黙ったままで、駅まで到着する。

 俺は傘の水気を切り、一度たたむ。


「大丈夫か?濡れなかったか?」


「う、うん。でも、吉野君の肩が……」


「なに、気にするな。学ランならバイト中に乾くだろ。ほら、行くぞ」


「は、はい……」


 俺と清水はエスカレーターに乗り、改札を通る。

 電車がくるまでは、あと五分か……。


「あ、あの……吉野君、どうして……?」


「よくわからない……が、心境の変化というやつかな」


「そ、そうなんだ……」


「まあ、あまり気にしないでくれ。ちょっと、自分でもよくわかっていないからな」


「う、うん、わかった」


 まあ、無理があるわな。


「まあ、もういいかなと思ってな。隣の席は清水だし、前の席にはバレてる田中君だし」


「あ、そうだよね。そういうことなんだ」


「といっても、大して変わらないかもしれないけどな。このスタイルのまま行くつもりだし。ただ……」


「ただ………?」


「あー……清水はそのままでいい。俺のことは気にせずに自由にしてくれ」


「えっと……つまり……」


「……学校でも、好きな時に話しかけて大丈夫という意味だ」


 我ながら、なんとも偉そうな言い方だな……。

 だが、上手く言えん……!


「え!?ホント!?……エヘヘ、そっかー、そうなんだ……」


 清水は、実に嬉しそうな様子だ。

 俺のために、この一ヶ月我慢をしていたのだろうな。


 そして電車に乗るが……今日は混んでいるな。


 俺は自然な形で、清水を入り口の横に誘導し、その前に立つ。

 最近は、痴漢や盗撮が多いというからな……。


「あ、ありがとう……」


 清水は鞄を両腕で抱きしめ、恥ずかしそうにしている。

 ……間違いなく言えるのは、可愛いということ。

 そして、抱きしめたくなるということか……。

 これは、やはりそういうことなのか?

 それとも、ただの男として欲求なのか?

 ……その辺が、よくわからない……。


「あ、明日からどうしようね?」


「うん?……ああ、なんか言われるか……」


「多分……帰ったら友達から聞かれると思う」


「そういう時はな、変に誤魔化さない方がいい。普通でいいと思うぞ。傘がなくなって困っていたところに俺がきたと。で、それだけだよーといえば平気だ」


「そっか……確かに、そうかも」


「ところで、なんで急いでいたんだ?」


「実は、誠也が風邪を引いちゃって……それで、お母さんは半休を取ってて……」


「なるほど、それは心配だな。俺もそうだったな……」


「ふふふ……」


「ん?どうした?」


「誠也がね、言うの。今週冬馬さん来るから、治すんだ!って」


「まあ、無理はしないように伝えてくれ。俺はいつでも相手するからと」


「ふふ、優しいね」


 そして、降りる駅に到着する。


 駅を出て、清水に傘を差し出す。


「これを、使うといい。俺はそこだからな」


「え?あ、ありがとう。でも、吉野君の帰りは……?」


「大丈夫だ。自転車通学だから、カッパがあるからな。それに、清水が風邪をひいては元もこうもないだろう?」


 そんなものないがな……。


「あ、そうなんだ。じゃあ、有り難くお借りします」


「ククク……律儀な奴。何も頭を下げんでも……」


「そうかな?うーん……私にとっては普通のことなんだけど」


「良いことだ。俺は、割とそういうところ良いと思うぞ?」


「え?……ホント……?そ、そっか……」


「じゃあ、俺バイト行くから。気をつけて帰れよ?」


「うん!ありがとう!吉野君も、バイト頑張ってね!」


 俺はバイトに向かいながら思う。


 考えるな、感じろか……。


 これを好きといっていいのかわからないが、間違いなく言えるのは……。


 俺は清水といると楽しく、落ち着けるようだ。



 ▽▽▽▽▽



 ~清水綾視点~


 一体、何が起きているの!?


 私の頭の中は、パニック状態でした。


 ……一度、整理しなきゃ。


 今日は誠也が風邪引いてるから、友達の誘いも断り帰ろうとしました。


 そしたら、傘がなくなっていました。


 誰かがまちかえたのかなぁ……。


 そう思い、困っていた時でした……彼に声をかけられたのは……。


 声が聞こえた時点で、吉野君に似ているなぁと思いました。


 でもそんははずないと思い振り向くと……そこには、吉野君が……。


 そして、なんと傘に入らないか?と誘われました!


 ……整理してみたけど、さっぱりわからんないよー!


 さっきから身体が熱い……。


 全然吉野君の方見れないし……。


 見たとしても、恥ずかしくてすぐにそらしちゃうし……。


 ……でも、不思議と安心する。


 もちろん、ドキドキしたり、恥ずかしかったりするんだけど……。


 なんて言ったらいいんだろ?


 うーん……沈黙が苦にならない感じかな?


 側にいれれば幸せとか……?


 キャー!!何言ってるの!?私は!?


 ……落ち着こう、私。


 でも、落ち着けない……だって、吉野君紳士なんだもん。


 必ず自分が道路側歩くし、傘も私寄りだし……。


 ……何より、もっとこっち来いって……はぅ。


 駅についてからも、ドキドキしっぱなし……。


 普通に話してくれるし、笑ってくれるし……。


 電車では、私が潰されないように守ってくれるし……。


 その後、吉野君はバイトに向かった。


 私は、吉野君の傘をさしながら歩く。


 ……一体何が起きているんだろう?


 心境の変化って言っていたけれど……。


 でも、今はいいや。


 だって、とても嬉しいことがあったから……。


 学校でも、話しかけていいって!


 ずっと我慢してたから、物凄い嬉しい!


 これから隣の席だし、明日から楽しみ!


 もっと仲良くなれるかな?


 ……家に着いたら、誠也は元気になっていました。


 それは良かったんたんだけど、言われてしまいました。


 お姉ちゃん、ニヤニヤしてどうしたの?と。


 どうやら、私は相当嬉しかったようです……。



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