第19話冬馬君は風邪をひく、そして清水さんは訪問する

 さて、色々と自分の気持ちを確かめようとしたのだが……。


 その矢先に、いきなり出鼻をくじかれた……。


 まあ、端的に言うと風邪をひいてしまったのだ。


 だが、これで休んだら、清水は自分のせいだと思ってしまうだろう……。


 なので、起きて学校へ行こうかと思ったのだが……。


「ダメ!!寝てなきゃダメ!!」


「いや、しかしな……」


「ダメったらダメ!!グスッ……」


「泣くな……わかったよ」


 この通り、麻里奈に止められてしまった。


 麻里奈は、家族が体調悪いと情緒不安定になる。


 おそらく、弱っていく母さんを思い出してしまうのだろう……。


 そして、過度な心配をしてしまう。


 まあ、人のことは言えないか……。


 俺も母さんのこともあり、自覚はないが人を遠ざけていたのかもしれないし。


「ホント?……なら、可愛い妹を泣かせたことを許します!」


「はいはい、俺も親父にどやされたくないんでね」


「よんだか?」


「あ、お父さんおはよー」


「親父、おはよう」


「どうだ、冬馬?俺半休とろうか?」


 親父も心配そうな表情だ。


「いや、大丈夫だよ。ありがとう。そこまでじゃないし」


 多少無理すれば、学校には行ける程度だしな。

 まあ、でも他の人にうつしたら迷惑か……。

 仕方ないが、休むことにしよう。


「……そうか。ただ何かあれば、すぐに連絡しろ。父さんは、お前の方が大事だ」


「親父……」


「……うむ、息子に言うのは照れ臭いな。では、行ってくる!」


「行ってらっしゃーい!」


「行ってらっしゃい」


「じゃあ、お兄。お粥持ってくるね!」


「ああ、ありがとな」


 その後お粥を食べ、薬を飲む。


 清水の奴……気にしてないといいんだが……。


 いや、あいつなら気にするな……それは避けられない。


 メールをしたら、かえって気にするか……。


 よし、ここは黙っておこう。


 で、もし連絡来たら返事をしよう。


 そう決めて、俺は眠りにつく……。




 ▽▽▽▽▽



 ~清水綾視点~


 私は翌朝、ウキウキしながら学校へ向かった。


 だって、今日からは話しかけていいんだもん!


 でも、心配事が……。


 一応、昨日友達からラインきて返事はしたけど……。


 へー、そうなんだ。吉野、男前じゃん!と言われました。


 ……少し、モヤモヤしました。


 私は皆の様子を確認するために、わざとチャイムギリギリに教室の中に入る。


 そして、同時にチャイムが鳴る。


 ……あれ?吉野君、いない……。


 とりあえず席に着くと、すぐに名倉先生がくる。


「えー、おはよう。今日は、吉野と望月が休みだ。皆も気をつけろよ」


 え!?吉野君、休みなの!?


 ……まさか、私に傘かしたから……?


 いや、でもカッパあるって……。


 いつの間か、先生の話は終わっていた。

 すると、愛子が話しかけてくる。


「昨日は災難だっだねー。弟は平気だったの?」」


「うん、平気だった。昨日は誘い断ってごめんね。でも吉野君が……」


「まあ、関係ないんじゃない?望月も休んでいるし、最近多いし」


「うーん、そうなのかな?」


 確かに、特に連絡もないし……。


 その後は授業を受け、昼休みになりました。


 私は授業に全然集中できませんでした……。


 お見舞い行ったら迷惑かな?とか。

 私のせいかな?とか。



 すると、名倉先生に呼び出されました。


「清水、これをやる」


 なんだろ?紙に何か書いてある……住所?


「それ、冬馬……いや、吉野の住所だ」


「え!?……教えていいんですか?」


「お前なら問題ない。学級委員だからな。プリントを渡し、ノートを貸してやれ」


「あっ、そうですね」


「で、頼めるか?」


「はい!もちろん!」


「ククク……良い返事だ。あいつは面倒な奴だが、よろしく頼むな」


「え?それってどういう……?」


「それは、本人に聞いてくれると助かる。ではな」





 そして放課後を迎え、私は皆に断りを入れ、学校を出ました。


 自分でも、よくわからない状態です。


 心配だし、嬉しいし、緊張するし……。


 そういった感情が渦巻いてるみたい……。


 自然と早足になり、電車もまだかな?とか思ってしまう。


 駅に着き、スーパーで買い物を済ませました。


 その後バス停を探したら、丁度来ていたので乗り込みます。


「えっと、このバスに乗って……」


 バスを降り、歩き出します。


「次は、この道を……こっちかな?」


 すると、吉野という表札を見つけました。


「こ、ここかな?合ってるよね?ピンポン押す……いや、起こしちゃ悪いよね……」


 私がどうしようかとウロウロしていると、声をかけられました。


「あのー……我が家に何かご用ですか?」


 いけない!私、完全に不審者!


「ご、ごめんなさい!……我が家?もしかして、吉野君の妹さんですか?」


「え?は、はい。そうですけど……」


「申し遅れました。私、吉野君と同じクラスの清水綾といいます。今日は、学校を休んだ吉野君にプリントを渡しに来ました」


「あ、そうなんですね。わざわざ、ありがとうございます。お兄、呼びましょうか?」


「ううん、具合悪くしちゃ悪いし。それに、寝てたら悪いから……」


 それは……欲をいえば会いたいけど……。


「なるほど……妹審査の結果は合格です!」


「え?え?」


「さあ、行きましょう!」


「えっと……入っていいってことかな?」


 私は彼女についていき、いよいよ家の中に入ります。


 ドキドキ……吉野君の家……!


 そして、玄関のドアを開いた瞬間……。


「キャー!!」


「はい?はあ!?清水!?なんで!?」


「お兄!?なにやってんの!?」


「何ってお前……汗かいたからシャワー浴びたんだよ。具合も良くなったしな」


 ど、ど、ど、どうしよう!?

 よ、吉野君は……お風呂上がりです!!

 下はスウェットを着ていますが、上半身は裸なのです!!

 タオルを首にかけてはいるけど……凄い……!

 腹筋がシックスパックだ……!

 無駄な脂肪もなく、細マッチョとゴリマッチョの中間くらいの体型……!

 髪もオールバックでカッコイイ……!

 なんか、鼻血出そう……!


「こ、こ、こ、こ………」


「なんのこっちゃ……ニワトリか」


「いいから!お兄は着替えて!そして、髪乾かすの!もう!」


「はいはい、なんで俺が叱られているんだ?」






 ……なんとか落ち着きました。


 とりあえず傘を返した私は、リビングでお茶をいただいています。


「ごめんなさい、お兄が失礼しました」


「ううん、いきなり来た私が悪いと思う」


「うーん……美人で性格も良い……あ!申し遅れました。私はお兄の妹で、麻里奈といいます」


「うん、知ってるよ。吉野君、大事な妹がいるって」


「そ、そうですか……お兄が……」


 ふふ、照れてて可愛いなぁ。


「おい、余計なこと言うな」


「あ、吉野君。こんにちは、お邪魔してます」


 良かった……顔色も良いし、具合悪くなさそう。


「おう、いらっしゃい……で、なんでこうなった?」


「まあまあ、お兄。まずは、大事な妹の隣に座るといいと思う!」


「お前なぁ……ハァ、わかったよ」


 私は吉野君に事情を説明しました。


「なるほど……真司さんの仕業か……あんにゃろう……」


「えっと、知り合いなのかな?」


「うーん……まあ、真司さんが話していいって言ったならいいか」


「お兄!私も気になります!それって、お兄がグレた時世話になった人だよね!?」


「グレたってお前……」


「だって家にも帰ってこないし、帰ってきてもイライラしてるし……」


「……あの時は、悪かったな。ごめんな」


「えっと、私は聞いても良いのかな……?」


「ああ、良いよ。まあ、大した話じゃないさ。とあるところに、ただのクソガキがいたってだけの話だ」


 そして吉野君は、遠くを見るような目でポツポツと語り始めました……。

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