第17話冬馬君は諭され、変わろうとする
さて、六月の第1週を迎え、無事にテスト返却も終わった。
クラスで35人中7番目の成績と、学年約280中49位という結果だった。
これなら目立ちもせず、それでいて低くない成績だ。
悪くない……これで、親父も文句言うまい。
そしてそんなある日のこと、副担任から担任になった真司さんがこんなことを言い出す。
「えー、テスト返却も終わったし、俺も担任になったということで、席替えをしようかと思う」
周りからは、賛否両論の声が出る。
ちなみに俺の今の席は、窓際の前から三番目だ。
真司さんは、担任だった中島先生が事情があって急遽家業を継ぐことになったので、副担任から担任になったようだ。
「これは、決まりだ。同じ奴とばかりつるんでいたら勿体ないぞ?なかには自分と話があったり、意外な奴がいて面白いこともある。それに、二学期には行事が多い。それまでに、クラスの皆と仲良くしろとは言わん。ただ、どんな奴なのかぐらいは知っておけ」
……真司さんが、めちゃくちゃ真面目なこと言ってる。
ヤベェ……違和感しかない……!
いや、良い人なんだけど……とある界隈では鬼の真司として知られていたからなぁ……。
もちろん、もう五年以上前の話だが……人って変わるんだな。
そして俺みたいなボッチもいるので、公平なくじ引きでやるようだ。
……どうして、こうなる?
「よ、吉野君!よろしくね!」
隣には、花が咲いた様な笑顔の清水がいる。
「……よろしく」
俺は窓際の一番後ろという、ボッチにとっての聖地にいる。
それ自体は嬉しいことだ。
だが、横には清水。
そして前には、田中君がいる。
俺の正体を知る2人が……。
……どうやら、平穏な日々はおくれそうにない。
その後昼休みになり、いつもの空き教室で昼ご飯を食べる。
「よう、色男。良かったな?」
「……複雑だ」
正直に言おう。
嬉しいが半分、困るのが半分といったところか
「お、ちっとは素直になってきたか?うんうん、良いことだ。お前はな、考えすぎなんだよ。もっと気楽に考えてみろ。別に、付き合ったら結婚しなきゃいけないわけじゃないんだぜ?」
「それはわかってるよ……もう、少し考えてみるよ」
「まあ、そうすぐには変われないか」
「それだよなー。あのヤクザすら道を開けると言われた鬼の真司さんが、こんなに良い先生になっちゃうんだもんなー」
「おい、そういうこと言うな。俺は至って真面目な青年だった。補導歴もないし、されるようなこともしていない。ただ、ちょっと血の気が多かっただけだ」
「…….なあ、真司さん。俺もまた変われるかな?」
「変わりたいと思ったなら変われるだろうよ、お前ならな。お前は忙しいよなー、ヤンキーになったり地味になったり。なんだ、恋しちゃったかい?」
「その辺は、ほっといてくれよ。自分でも思っているんだから。ていうか、俺そもそも恋とかしたことないんだよ」
それなんだよな……いや、可愛いとかはわかるし、なんとなくはわかってる。
だが、これが恋かと言われると……うーん、どうなんだ?
「ああー……そうだな、お前の境遇を考えたら無理もないか。一番そういう時期にお袋さん亡くしているからな……恋なんかしてる場合じゃなかったよな……」
それもある。
あの時は、麻里奈と自分のことで一杯一杯だった……。
みんなが幸せそうに、恋愛話とかしているとイラついたものだ。
「まあね……真司さん、あの時はありがとう。俺の世話を見てくれて……」
真司さんがいたから、俺は軌道修正が出来た。
あのままだったら、どうなっていたか……。
「なに、気にするな。俺も通った道だ。で、恋か……ドキドキするか?」
「……すると思う」
「会いたいと思うか?」
「それは……わからないけど、話していると楽しくはある」
「なるほど……まあ、難しいよな。俺ですら、よくわかっていないしな。ただひとつだけ言えるのは、考えるものじゃない、感じるものだ」
「考えるものじゃないか……そうかもな、ありがとう」
「あとはな……お前は怯えすぎだ。大事な人を作るのが怖いんだろう?それもあって、ボッチでいるんだろう?」
「……真司さん……」
「もちろん、お前の境遇を考えたら仕方ないことだ。だがな、失うことを恐れてはいけない。それでは、前に進めないからな」
そうか……俺は、無意識のうちにそう思っているのか?
「まあ、これからは席が隣だ。否応にも、色々気づくだろうよ」
そうしてチャイムが鳴り、昼休みが終わる。
俺は教室に戻り、席に着く。
すると、雨が降り出す……。
さっきまで晴れてたが、やはり梅雨だな。
そして放課後になる。
俺はトイレに行き、校舎を出ようとしたが……。
何やら、清水が困っていように見える……。
……怖がっているか。
そうだな……俺も変わってみるか。
その結果がダメなら、その時に考えるとしよう。
「清水、どうかしたのか?」
周りが騒つくが、もうしったことか。
これを確かめないことには、俺はすっきりできそうにもない。
「え?え!?よ、吉野君!?ど、どうして……」
「いいから。どうかしたのか?」
「う、うん。今日は、早く帰らないといけなくて……でも、傘がなくなってて……」
「なるほど、そういうことか……俺の傘でよければ入っていくか?」
なんだ?顔から火が出そうだ……!
「え……?い、いいの?だって学校では……」
「もう、それはいい。それより、どうする?俺もバイトあるから、そのついでだ。駅が一緒だしな」
「あ、ありがとう……じゃあ、お願いします……」
消え入りそうな声で、清水が応える。
さあ、結果がどうなろうと、これで平穏な日々とはお別れだ。
後は、己の気持ちを確かめるだけだ。
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