第13話ひとまず友達にはなれたあの人は~清水綾視点~

 私は勇気を出して、なんとか吉野君に話しかけることができました。


 そして、吉野君がいつも食べている部屋まで案内されました。


 そして、念願の電話番号とアドレスを教えてもらえました!


 物凄く嬉しかった……!


 人のを聞いて、こんなに嬉しいのは初めてだった……。


 ところで……吉野君は、いつもここで食べてるんだよね?


 これって……食べにきたら、迷惑だよね……?


 学校では、話しかけるなって言われちゃったし……。


 うーん、我慢!これで嫌われたら嫌だもんね……。


 そのあと友達に言い訳をして、なんとかことなきを得ました。




 そんな私は、学校の帰りに思い出した。


 そういえば、そんな噂もあった。


 学校1のイケメンでモテ男の神崎君と、吉野君が友達だという……。


 皆は釣り合わない!と不思議がっていたけど、私はそうは思わない。


 むしろ……吉野君の方が、カッコいいし……。


 それにしても、吉野君……全然笑わないな……。


 困った顔してた……やっぱり迷惑だったかな?


 でも、メールはして良いって言ってたから、嫌われてはいないと思いたい……。


 流石に、今日メールしたらウザい女の子だと思われちゃうかな?


 でも、逆にいつならいいんだろ?


 こういうこと初めてだし……相談相手もいないし。


 そんなことを考えていたら、いつの間にか駅に着いていた。


 危ない、危ない……最近は盗撮も多いっていうし気をつけなきゃ……。


 エスカレーターで盗撮されたり、電車内も痴漢がたまにでるみたい。


 もちろん、都内ほどの被害はないみたいだけど……それでも、気をつけなきゃね。


 私は気をつけつつ、家路を急いだ。


 家に帰ると、弟の誠也が出迎えてくれた。


 私の、生意気だけど可愛い弟。


 お父さんがいなくて、寂しいはずなのに泣き言も言わない強い子。


 もちろん私も寂しいけど、もう高校生だしね。


 だから、私がしっかりしなきゃね!


「お姉ちゃん、お帰りー!」


「ただいま、誠也」


「あのねー、お母さんがね、仕事で遅くなるって!」


「え?そうかぁ……うーん、困ったわね……」


「お姉ちゃん、ご飯作れないもんねー?」


「そ、そんなこと!……あります。ごめんね……」


 ……あ!でも、料理作れない女の子とか、吉野君嫌かな!?


 ……よーし!苦手だけど、頑張ってみよ!


「お姉ちゃんー??」


「誠也!お姉ちゃんがご飯作ります!」


「えー!?大丈夫かなー?火事とかならない?お母さんが後でお金出すから、どっかに食べに行きなさいって……」


「……いや、挑戦します!誠也、待っててね!」


「時間の無駄だと思うけど……」


 私は時計を見た。

 今は、7時になっていた。

 学校帰りに引き止められちゃったからなぁ……。

 断る勇気がない……。

 それにいかない場合、悪口言われる気がして……。

 もちろん、聞いたわけじゃなくて、私の被害妄想なんたけど……。


「いや!今からなら大丈夫!お姉ちゃん、頑張るね!」


 だ、だって付き合ったりしたら……お弁当とか……キャー!


「お姉ちゃん、大丈夫?悶えてるけど……」


 私はその言葉に返事をして、すぐに作業に取り掛かる!





 ……はい、ごめんなさい。

 偉そうなこと言いました……。

 物の見事に失敗しました……。

 というか、それ以前の問題でした……。


「もうー、だから言ったのにー」


「ごめんね、誠也……」


 私は、包丁で指を切ってしまいました。

 情けない……料理を作る以前の問題でした。

 なんで上手く出来ないんだろう……?

 泣きそう……こんなんじゃ、嫌われちゃう。


「これで、よし!お姉ちゃん!僕、ラーメン食べたい!」


 絆創膏を貼ってくれた誠也が、そんなことを言い出した。

 優しい子……私に気を遣ったのかな。


「そうね、まだこの辺よく知らないしね。駅の方に歩いてみようか」


 そうして私の血が止まるのを待って、10分かけて駅前までやってきた。

 ただ、色々お店があって迷っていた。

 それに、いつも通り視線も感じるし……。

 とりあえず、適当なお店に入ってみた。


 するとビックリ!

 なんと、吉野君がいました!

 あっちもびっくりした顔。

 もしかして、ストーカーとか思われてないかな?

 本当に、ただの嬉しい偶然なんだけど……。


 吉野君はすぐに真面目な顔になり、慣れた感じで接客をしてくれました。

 席に案内された私は、吉野君をじっと見つめてしまいます……。

 ……どうしよう、カッコイイ。

 私を助けてくれた時みたいな感じに近い……。

 それに腕の筋肉が凄い……血管が浮いてる……あれ、好き。


「……ちゃん!お姉ちゃん!」


「え?騒いじゃダメよ、誠也。他の人もいるんだから」


「もういないよー?お姉ちゃん、ずっとあの人見てるから。もう僕、お腹空いたよー」


 誠也の言う通りで、20分も経っていた。

 え!?嘘!?どんだけ見つめてたんだろ……。

 バレてないかな?

 あ!私は急いで絆創膏を剥がす。

 ……良かった、血は止まってる。

 バレたら、恥ずかしいもん。


「ごめんね、何食べようか?」


「僕、味噌ラーメン!あと、餃子と炒飯!」


 餃子……!大好物です!

 でも、ニンニクが……家なら良いんだけど……。

 吉野君いるし……ラーメンだけにしよう……。

 私は怪我した右腕を隠し、左腕を上げた。

 声をかけようとしたんたけど、恥ずかしくて出来なかったから……。



 注文を受けて、吉野君はなんと料理を作り始めました!

 フライパンを振る姿、カッコいい……。

 凄いなぁ……私なんか、それ以前の問題なのに……。

 でも、吉野君は言ってくれた……それぐらい気にするなと。

 凄く嬉しかった……そんなこと言ってくれる人いなかったから。

 完璧じゃなくてもいいだなんて……ますます好きになってしまう……。


「お姉ちゃん!美味しいね!それに、あの人カッコいいね!」


「そうね!美味しいね!か、カッコいいよね」


 その後、友野さんと名乗る男性がラーメンを置きにきた。


「これ、冬馬のラーメンです。冬馬の彼女かな?良かった、良い子そうで。あいつ気難しいけど、悪い奴じゃないからよろしくね」


 そう言い残し、去っていった。

 ……彼女!?そ、そう見えたのかな!?

 私は両手で顔を押さえる……熱い……。

 吉野君が来たけど、バレてないかな?


 そのあと、嬉しいことに一緒食事をする流れになった。

 あの店員さんに感謝しなきゃ。

 誠也は、すっかり懐いてしまったみたい。

 吉野君も、とても温かい目で誠也を見てる。


 食べ終わると、店長さんまで挨拶に来てくれた。

 そして、なんと送ってもらえることになった……。

 ……嬉しいけど、迷惑じゃないかな?と思って聞いてみた。

 迷惑だって言われてへこんだけど、心配だって言われて嬉しかった。


 帰り道では、パーカーまで貸してくれた……優しい……キュンとしました。

 それに、初めて笑ってくれた……。

 少しは、距離が縮まったかな?

 それに、誠也のおかげ?でうちに来てくれることになった……。

 ど、どうしよう!?部屋片付けないと!

 ……落ち着こう、私のために来るんじゃないし。

 でも、嬉しい……少なくとも、嫌われてはいなさそうで……。


 お風呂に入って、私は自分の部屋に戻った。

 そして、パーカーを抱きしめてニヤニヤしてしまう。


「ふふ、今日は楽しかったなぁ……。電話番号も聞けたし、バイト先も知れたし、一緒に帰れたし……お礼のメールなら、しても良いかな?それなら、自然だよね?」


 私は散々迷ったあと、勇気を振り絞ってメールを送った。


「へ、変じゃなかったかな?やっぱり挨拶はダメだったかな?……もしかして、寝てたりしないかな?うー……」



 私は落ち着かず、部屋の中で歩きまわる。

 すると、そっけないけれど、ちゃんと返信がきた!

 朝の挨拶もしていいって!


「えへへ、これは保存しなきゃ。初めてのメールだもん」


 私は、そのメールを何度も見てニヤニヤしながら、幸せな気分で眠りについた……。

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