第14冬馬君は借りを返し、自覚する

 ピピピと、目覚ましの音が聞こえる。


「朝か……それにしても、昨日は濃い1日だったな……」


 学校で清水に正体がバレて、バイト先までバレてしまった。


 あれ?これって不味くない?詰んでない?


 しかも、よくよく考えたら……家に行く約束してるし……。


 誠也の家ってことは、清水の家ということだ……。


 メールも来たので返したが、返信の返信はなかったな……。


 正直、好感度が高い……よくいないか?


 疑問形でひたすら返す奴……だが、清水はそんなこともない。


 なんか振り回されている気がする……が、不思議と嫌ではない。


 ハァ……調子が狂うな。


「お兄!早く!遅刻するよー!」


「やれやれ、我が妹は朝から元気なことで……」


 朝の支度をすませ、食卓につく。


「いただきます」


「いただきます」


「お兄、昨日は大変だったね」


「うん?ああ、そうだな。まあ、そういう日もあるさ」


 麻里奈には、バイトが長引いたと言ってある。

 その際に急いで帰ったので、パーカーも忘れたとも。

 隠す必要があるわけではないが、面倒くさいことになるからな。


「冬馬、バイトもいいが……」


「わかってるよ、中間テストも近いことは。まあ、しっかりやるよ」


「そうか、まあ平気か。だがな、お父さんはそれなりにお金はあるんだぞ?無理に、バイトしなくても……」


「いや、続けるよ。親父の金を、自分の趣味に使うことは主義に反する。もちろん、バイトできない年齢なら仕方ないけど」


 好きな作品とかには、自分で稼いだお金で貢献したいからな。

 当たり前の話だが、好きな作品は中古品などでは買わないと決めている。


「そうか……嬉しいやら、寂しいやら……複雑だな」


「あのね!私も高校生なったらバイトする!」


「許さん!男が寄ってくるではないか!」


「そうだぞ、麻里奈?ハイエナが群がってくる」


「むー!過保護すぎる!」


 こればかりは、親父と俺の意見は一致する。

 我が家のお姫様だからな。


 そして親父を見送った後、俺も家を出て学校へ向かう。


 電車に乗り、ネット小説を読もうとしたが……。


「よう、冬馬」


 そこには、神崎暁人がいた。

 さすがに、今日は邪険には扱えないな。


「アキか……昨日は悪かったな」


 すると、肩を組んできた。

 そして、何故か女子から歓声が上がっている。


「気にすんなよ、マブダチだろ?」


「………」


 我慢、我慢だ……!

 俺の主義に反する……!

 借りを作ったのなら返す……!


「まあ、そう嫌な顔するなよ。たまには、女子にサービスしないとな」


「は?どういう意味だ?」


「お前は、相変わらずそういうのには鈍感だよなー……さて、では借りを返してもらおうかなー?」


「……出来る限り、善処する」


「いや、大したことじゃないさ。今日、お前の家行っていいか?」


「ん?……何を企んでる?あれか?妹に手を出す気なら……」


「いやいや、俺だってまだ死にたくないから。まあ、ただの友達としてだよ。俺、ただでさえ男友達いないのに、お前がそんなんだしさ……」


「それについては悪いとは思っているが……男友達ができないのは、お前が女子とばかりいるのが原因だからな?」


「あらら、バレたか。でも、しょうがないじゃん。俺モテるし、女の子は可愛いし」


 ……なんで、こいつと友達やっているんだろうと思ったこともある。

 だが、こいつは女の子を理不尽に泣かさない。

 二股とかもしないし、彼女ともきちんと綺麗に別れる。

 それに……こいつだけだったんだ……。

 俺が変わっても、態度が変わらなかった奴は……。


「そうかよ、いいご身分で。わかった、ただし……」


「わかってるよ、一緒には帰らない。後から、行くさ」


「なら、いい。ではな」


 俺は、再び読書に戻る。






 学校に着き教室に入ると、清水と目が合った。


「よ、吉野君!おはよ!」


 清水は、弾けるような笑顔で言う。

 俺は、何故か胸の辺りが痛くなる。


「清水さん、おはよう」


 そのまま、席に向かい座る。

 ……これは、仕方ない。

 昨日メールで、朝の挨拶はして良いのかな?と聞かれた。

 まあ、それくらいならと了承した。

 ガチガチに禁止して、どっかで弾けたら困るからな……。


 そして、その日は何事もなく平穏に過ごしことが出来た。

 これだよ、これ……やっぱり、平穏が一番だ……その筈だ。


 その後家に帰ると、約束通りにアキがやってきた。


「おー久々だ。いつぶりだ?」


「少なくとも、高校にな入ってからはないな」


「あ!暁人さん!お久しぶりです!」


「お!麻里奈ちゃんかい!?ますます可愛くなって……おい、止めろ。俺は、一般論を言っただけ……」


「もう!お兄!ダメだよ、そんな人殺しそうな目しちゃ!せっかく、暁人さんきてくれたのに!」


「……俺が呼んだわけじゃない」


「もう!ごめんなさい、暁人さん。こんな兄ですが、よろしくお願いします」


「ああ、任せてよ。冬馬とはマブダチだからさ」


「おい、いいから部屋に行くぞ」


「はいはい、わかったよ。麻里奈ちゃん、じゃあねー」


「はいはーい、ごゆっくりどうぞー」




 俺の部屋に入るなり、アキが話を始める。


「なあ、清水さんと付き合うのか?」


「いや、付き合わない……つもりだ」


 なんだ?何故、今即答出来なかった?


「自覚なしか……清水さんも可哀想に」


「何がだ?俺のが可哀想だ。平穏な日々が……」


「それな!いや、びっくりしたよなー。ヤンキーになったと思ったら、急にオタク……いや、言い方が悪かったな。急に漫画やゲーム、ラノベに手を出すんだもなー」


 こいつの、こういうところは良いと思う。


「まあ、正直なところ……俺も思ってなかったよ。母さんが死んで荒れてた頃に、一冊の本に出会ってからだな」


「まあ、確かに最近のラノベは泣けるのもあるしなー。そうか……おばさんが死んで、もう五年経つのか……後で、挨拶していいか?」


「そうなんだよなー。ラノベってだけで見ない人もいるけど、結構良い話あるんだけどな。ああ、母さんも喜ぶよ……アキ、ありがとな」


「よせよ、俺のお前の仲だろ?……でだ、清水さんを可愛いとは思わないのか?」


「……可愛いとは思う」


 これは、認めないわけにはいかない。


「良いじゃん、付き合えば。みんな羨ましがるぜ?」


「俺は、そんな簡単には付き合えない。付き合うなら、大事にしたいと思う。だが、俺では大事に出来ない。俺は、自分の時間が何より大切だからだ」


「まあ、今時珍しい奴。とりあえず彼女欲しい、やりたいって奴が多いのに。まあ、そう言う俺も……実は、お前のそういう考えは嫌いじゃない。どうしたいかは、人それぞれだもんな」


「アキ……そうなんだよな。別に、彼女欲しいとかやりたいと言っている奴らを、俺は否定しているわけじゃない。そりゃ、俺だってそう思うことはあるよ。ただ、そっちも俺を否定しないでくれとは思う」


「まあ、難しいわなー。明らかに、お前が少数派だからなー」


「それは否定できないな……」


「まあ……あの子なら、お前のそういうところを尊重しつつ、付き合ってくれると思うけどな?」


「それは……そうかもしれない。でも、俺は……」


「わかってるよ、お前の気がすまないんだろ?付き合うなら、イベント事とかしてあげたいんだろ?」


「まあ、そういうのもある」


「さて、清水さんは鉄壁のガードを崩せるかね?」


 ……言えない、既に危ないことは……。


 その後雑談をし、母さんに線香をあげて、アキは帰っていった。


 俺は自分の部屋で考えていた。


 アキに言われたことを……。


 その時、メールがくる。


 清水からだった。


 嫌じゃない自分に気づいた。


 内容は、誠也についてだった。


 土日のどっちが、都合がいいかと。


 俺は、土曜日なら平気と返信をする。


 そのまま、ベッドにダイブする。


「ハァ……俺は、一体どうしたいんだ……?」


 俺はその日、ゲームもせずに眠りについた。


 これがどういう意味をもつのか……。


 ……もしかしたら俺は、清水に惹かれているのかもしれない……。






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