第12話冬馬君は墓穴を掘る

 とりあえず、俺はいつの間にか送ることになったらしい。


 さて、そうと決まれば急がなくてはな。


 最近は、条例も厳しいからな。


 夜10時以降に未成年が出歩いてると、補導されかねないからな。


 俺は学校帰りだから制服だし、ましてや小学生もいることだし。


 ちなみに、制服は学ランである。そして、女子はセーラー服である。


「よし。じゃあ、行くか」


「……ホントにいいの?迷惑じゃない?」


「……迷惑かと聞かれれば、迷惑だが……」


「やっぱり、そうだよね……」


「冬馬さん、迷惑なの……?」


 清水は、明らかにシュンとしてしまった。

 さらに捨てられた子犬のような目で、誠也が俺に訴えてくる。

 ……どうやら、懐かれてしまったらしい。

 寂しいのだろうな……仕方ない、気持ちはわかる。


「いや、冗談だ。きちんと送っていくよ」


「わーい!やったー!」


「ふふ、良かったね。ありがとう、吉野君」


「礼はいらない。それに、この間みたいな目にあったら俺も心配だしな」


 これは本心だ。

 何かあってから後悔しても遅いからな。

 いつまでも、当たり前の日常が続くとは限らない。


「あ、ありがとう……」


「お姉ちゃん、顔赤いよー?」


「き、気のせいよ!」


「ほら、行くぞ。ていうか、歩きか?」


「う、うん。10分くらいだから良いかと思って」


「そうか、なら俺も問題なさそうだな」


 そして3人で店を出て、歩き始める。

 俺は、妹にメールをしておく。

 じゃないと、後が怖い……。


「クシュン!」


「お姉ちゃん、大丈夫ー?」


「大丈夫よ、少し寒いけど……。ラーメン食べると思って、薄着で来ちゃったから」


 清水を見てみると、長袖のTシャツにジーンズをはいていた。

 ……どうする?いや、しかし……。

 ……持っているのに渡さないのは、俺の主義に反するな。

 俺はカバンの中から、パーカーを取り出す。


「ほら、これを着ろ」


「え?でも……」


「嫌なら、別にいい」


「嫌じゃないよ!……あ、ありがとう。じゃあ、借りるね」


 どうでもいいが、何故女子がブカブカの洋服を着ると、可愛く見えるのだろうか?

 終いには、自然な形で萌え袖になってやがる……あざとい……!


「冬馬さん!ありがとう!」


「どういたしまして。ところで、誠也はいくつだ?」


「9歳です!小学3年生です!」


「そうか。しっかりしてて、偉いな」


「へへ……褒められた」


「それにしても……随分中途半端な時間に来たな?」


「うっ!そ、それは……」


「お姉ちゃんがねー、作ろうとしたんだけ、ムー!!」


 清水が誠也の口を塞いだ。


「ちょっと!?それ言わなくていいから!」


 ……まあ、なんとなく察した。

 失敗したのだろうな……そういえば、さっき出来ないと言っていたな。


「ククク……いいんじゃないか?清水みたいな完璧女子には、そのくらい隙があったほうがいいだろう」


「吉野君が、初めて笑った……そ、そうかな?吉野君もそう思う?」


「ん?……まあ、そうだな。完璧な奴は嘘臭いしな」


「そっか……えへへ」


「冬馬さんは!お姉ちゃんの彼氏なの!?」


 何をどう思ったのかはわからないが、誠也が急にそんなことを言い出した。


「ちょっと!?誠也!」


 清水は、オロオロしている。

 が、何か期待を込めた目を向けている。

 だが、俺はそんな安い男ではない。


「違うぞ。俺では、清水に釣り合わんしな」


「わ、私はそんなことないと思うけど……」


「違うのかー、残念!お兄ちゃんが出来ると思ったのになー」


 そういうことか……。

 父親があまりいないし、姉と母では色々と相談もしづらいだろうな。

 遊び相手にもならないしな。


「転校して引っ越したばかりだから、まだ友達もあまりいないものね……」


「ん?そうなのか?」


「うん。お父さんがね、夢のマイホームを購入する!って決めて工事が始まったんだけど……出来上がってすぐに、急に転勤が決まったの」


「それは……災難だったな」


「お父さん、泣いてたよー」


「そりゃ、そうだろうな」


「上司の人にも謝られたみたい。でも、昇進には必要らしいから、お父さんは泣く泣く了承したみたい。お給料上がれば、ローンも早く返せるから」


「お父さんとゲームしたいから、テレビも2つ並んでるのになー。海外だから、時間帯も合わないし」


「ん?なんのゲームをしているんだ?」


「モンハ○ワールドだよ!」


「ほう、いい趣味しているな。俺もやっているぞ」


 基本的には、完全なるソロプレイだがな!

 だが、たまに野良で現れたりもする。

 初心者のお助けに向かう感じだな。

 大体止める原因は、先に進めなかったり、上級者のキツイ言葉だ。

 俺は、そんなことはしない。

 きちんと、粉塵も調合分まで持っていく。

 そして、フォローに徹する。

 これも布教活動の一環だ。


「そうなの!?じゃあ、うちに来て一緒にやろうよ!」


 うっ!眩しい!目がキラキラしていやがる!

 だが、俺は自分の時間が……!墓穴を掘った……!

 でも、俺にはこの子の寂しい気持ちは理解できる……!

 うぉぉーー!!どうする!?俺!?

 ……これは、オンラインでとか言える空気じゃないな。


「……わかった。いつかは約束できないが、遊んであげよう……」


 これが、最大限の譲歩だな……。


「ホント!?約束だよ!?わーい!」


 誠也はご機嫌に、前の方でスキップしている。

 こんなに喜ばれてはな……。

 俺も母さんが亡くなった時、真司さんが遊んでくれたっけな……。

 あれで、大分気が紛れたんだよな……。

 そして言われたっけな……いつか寂しそうな奴がいたら、同じようにしてやんなと。


「ありがとう、吉野君。ごめんね、迷惑だよね……」


「いや、そうでもないさ。俺は母親が亡くなっててな。あ、余計な気遣いとかはいらないからな?まあ、そんなわけで寂しい気持ちは理解できるからな。生きていても、海外じゃ年に数回だろう?」


「え!?そ、そうなんだ……うん、わかった。そうなの、二回帰ってこられたら良い方だって……」


「なら、寂しいのは当然だな。うちには妹がいて、母さんが亡くなったのは誠也と同い年の時だったな……」


 あの時は、毎日泣いて大変だったな……。


「そうなんだ。うん、そっか」


 ……清水は、良い奴だな。

 こういう時は、大体同情して何かを言うのだが……。

 そういうのはいいんだよな、ただ聞いてくれれば……。

 ……いかんな、絆されそうになる。

 ……気をしっかり持て!彼女なんかいたら自分の時間が潰れるぞ!


 そのまま2人で、黙って歩く。

 不思議と気不味い感じはしない……何故だ?

 うーん……分からん。

 あと、どうでもいいが……めちゃくちゃ良い匂いがするな。


「冬馬さん!着いたよ!」


「お、そうか」


 見上げると、二階建ての家がある。

 左隣にはアパートがあり、右には駐車場があるな。


「吉野君、ありがとう。送ってくれて……」


「いや、いいさ。あー……誠也が遊びたいって言ったら、一応連絡くれ。出来る限り善処する」


「え?本当にいいの?」


「ああ、仕方ない。俺は、もう二度と約束は反故しないと決めているからな」


 母さんとの約束を破ったあの日からな……。


「そうなんだ……あ!パーカーありがとう!……これ、洗って返しても良い?」


 清水は上目遣いで、袖口を口元にもってきて言った……あざといが、可愛い。

 ……いかんいかーん!落ち着け!俺!


「はい?なんで……」


 いや、待て。

 あれには、今清水の良い匂いがついている。

 下手に持って帰ったら、麻里奈に言われそうだな……。

 俺も変な感じになりそうだし……うん、そうしよう。


「いや、わかった。それでいい」


「え!?本当!?うん!ちゃんと洗って返すね!」


 何故、そんなに嬉しそうなんだ?……女子って分からん。


「それじゃ、帰るよ。じゃあな」


「冬馬さん!またねー!」


「吉野君!ありがとう!気をつけてねー!」


 俺は引き返して、駅に向かう。

 その道中に、冷静に考えてみた。

 ……あれ?パーカー洗うってことは、どこかで会う必要が……。


 ……どうやら、俺は墓穴を掘ったようだ。

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