第4話妹とのデート

次の日の朝は、酷いものだった。


昨日はカップラーメンだけなので、お腹は空くし、何故かお腹は下すし。


妹には、昨日から口利いてもらえないし。


親父には、妹が告げ口をして、叱られるし。


「わかった、俺が全面的に悪かった!許してくれ!」


「……んー、しょうがない!可愛い妹を不安にさせたことを許します!その代わり、今日は私の買い物に付き合ってもらうからね?」


「な、なに!?今日はゲームの日と決まっているのに……!」


一昨日から、どの積みゲーから消化するか、楽しみにしてたのに……!


「そんなのは、いつでも出来るでしょ!?可愛い妹は、今しかいないんだよ?」


「なんだ、そんなことか。大丈夫だ!お前はいつまでも、俺の可愛い妹だ」


「お兄……じゃなくて!私だって、いつかはお嫁に行くんだからね?そしたら、今みたいには出掛けたり出来ないんだよ?」


「なぁに!?お嫁だと!?何処のどいつだ!?俺の天使を連れ去る輩は!?冬馬!許可する!討ち滅ぼせ!!」


「もう!お父さんは黙ってて!今のは、例えばの話だよ!」


「そうか、なら良かった。俺は、危うく犯罪者になるところだった」


「お兄は、なにをするつもりだったの!?」


「そんなこと、決まっている。二度と妹に手出しできぬように、締め上げるだけだ。母さんの言いつけでもあるしな」


「お母さんは、そういう意味で言ったわけじゃないと思うけど?」


「まあ、いい。可愛い妹の頼みだ。ゲームは……我慢する……!」


これが所謂、断腸の思いというやつか……!

済まない、ゲーム達よ!だが、妹も同じくらいに大切なんだ……!

こんな俺を許してくれ……!


「いや、そんな辛そうな顔するとこ!?……まあ、いいや。じゃあ、9時出発ね。で、午後には帰るから、ゲームも出来るでしょ?」


「おお……!妹よ!貴女が神か!」


「大袈裟だなぁ、お兄は」


「あのー、麻里奈。お父さん、今日休みなんだけど……」


「お父さんは、毎日お仕事で疲れているんだから、午前中しっかり休むこと!お昼過ぎには帰って来るから、ご飯買って来るね!それで、夕飯は3人で食べよ?」


「母さん……!麻里奈はいい子に育っているぞ……!見た目もますます似てきて、嬉しい!しかし、心配でもある……!俺は、どうすれば……!」


「別に、どうもしなくていいんだけど……はい、お兄!準備して!」


「ん?どういうことだ?」


「そんな格好で、出掛けるの!?だめ!お兄、ちゃんとすればカッコイイんだから!髪型はしょうがないけど、格好くらいはちゃんとして欲しいです!妹は、そう思います!」


「えー、面倒くさいな……だが、他ならぬ妹の頼みだ。はぁ、準備するか」


俺は仕方ないので、髪を整える。

そしてスウェットの上下から、ジーパンとシャツにジャケットを着る。

まあ、春ならこれくらいでいいだろ。

俺は、最後に学生証を制服から取り出し、後ろのポケットに入れる。

学割が効くところがあれば、いざという時便利だからな。


「おーい、麻里奈。これでいいか?」


「……うん、及第点かな。よし!妹とのデートを許可します!では、レッツゴー!」


「わかったから、引っ張っるなよ。俺のこれ、一張羅なんだぞ?」


「じゃあ、お兄の服も見てあげる!お金あるんでしょう?」


「兄から金を巻き上げる気か……!麻里奈、なんて恐ろしい子……!」


そうして、2人でお出かけをすることになった。


麻里奈をバイクの後ろに乗せ、2人乗りで駅まで行く。

そして、駅ビルの中にある総合店に入った。

ここなら、大体のことは出来る。


「まずは、お兄の服からだね。一張羅しかないんじゃ駄目だよ!最低でも、もう一着はないと。彼女とデートとかも行けないよ?」


「おいおい、妹よ。俺に、そんな時間があるわけないだろう?そんな暇があったら、ラノベ読んだり、ゲームしたりするし」


「はぁ、勿体ない。絶対にモテるのに……。まあ、いいか。私だけのお兄ってことで」


「ふっ、可愛い妹だ。気分が良い。後で、アイスを買ってあげよう」


「ホント!?やったー!ここのアイス美味しいんだよね!」


そんなことぐらいで喜んじゃって……良い子に育ったな……。

決して、俺がチョロいわけではないことは、明言しておこう。


そして、俺は妹に弄り回される。


「うーん!こっち?いや、こっち?それとも、こっち?」


結局、上下一式を買わされた。

いや、疲れた……。

だが、本当の試練はここからだ……!


「よし!お兄!次は、私の洋服を見るよ!」


「はいはい、我が家のお姫様。畏まりましたよ」


「うむ!苦しゅうない!」


そして女性用のショップに入る。

妹は何着か手に取り、試着室に入る。

そして始まる、麻里奈のモデルショータイム!


「これ、どうかな?」


「うん、いいと思うぞ」


「こっちは、どうかな?」


「ああ、いいんじゃないかな」


「じゃあ、こっちは?」


「そうだな、悪くないと思う」


これぞ、必殺の言い回しだ!

言い方が違うだけで、意味は大体一緒だ。


「うーん……じゃあ、これにする!」


どうやら、決まったようだな。

麻里奈は会計に持っていく。


「スカートと、Tシャツ、カーディガンの三点ですね。合計金額、8560円です」


「うっ!ちょっと高かったかな?どれか減らす?でも、一度とった物を返すのは失礼じゃないかな?」


俺は、黙って1万円札を出す。


「すみません、これでお願いします」


「お兄!?いいの!?」


「いいのって、買ってもらう気だったんじゃないのか?」


「そ、それはあわよくばとは思ったけど……半分冗談だったし……」


「いいさ、お前は普段から頑張っている。これくらいは、兄としてさせてくれ」


「お兄……うん!ありがとう!」


「ふふ、いいお兄さんね?では、お預かりします」


そして、お釣りをもらい、移動する。



そのお釣りで、一階にあるアイス屋でアイスを買う。


「これ、美味しいね!」


「そうだな。読書やゲームには、糖分が必須だからな。これで、帰ってから戦える」


「私が言ったのは、そういうのじゃないんだけど?……はぁ、お兄だし、仕方ないか」


そして食べ終えると、麻里奈が言う。


「じゃあ、私3人分の昼食買って来るね!」


「おう、気をつけるんだぞー?」


「うん、わかった!」


そうして軽快な足取りで、向こうへ行った。


「フゥ、疲れた。女の買い物は長いからなぁ……まあ、これでしばらくはご機嫌だろう」


妹が可愛いのはもちろんだが、俺にも打算がある。

洋服も買ってあげたし、文句も減るだろう。


あー……いかん。

陽気のせいか、眠くなってきたな……。

俺が眠気と戦っていると、声をかけられた。


「あ、あの!寝ているところ、ごめんなさい!」


「ん……?誰だ?」


俺が目を開けると、そこにはとてつもなく可愛い女の子がいた。

……マズイ、マズイぞ!

こいつは、清水綾!!


「あ、あの!昨日助けてもらった者です!良かった……また、会えた」


俺は、鈍感系主人公ではないのでわかる。

この子、俺に好意を持っているな。

だが、あくまでも吊り橋効果だろう。

後で、こんな人とは思わなかったとか言われるに違いない。

ふっ、そんな勘違いで恥をかきたくない!

ならば、俺の取るべき行動は1つ!


「あー、さらば!俺のことは忘れてくれ!アンタなら、もっと良い男がいるさ!」


俺は荷物を持ち、全力で走り去る!


「え!?ま、待ってください!」


俺はそれを聞かずに、走り去った。


フゥ、ここまでくれば平気だろう。


惜しい気持ちはあるが、俺は自分の時間が欲しいのだ……!


妹に電話し、合流する。


「どうしたの?」


「いや、散歩しててな」


「ふーん?まあ、いいや。帰ろう?」


「だな、親父が待っているしな」


そして、帰って3人で昼食を食べる。


俺は部屋にこもり、ゲーム三昧。


フハハ!これだよ!これ!やっぱり楽しいな!


そして、あっという間に時間は過ぎ、夕飯時になる。


「お前、またゲームばかりで………」


「まあまあ、お父さん。いいじゃん、お兄はやることはやってるんだし」


「ん?そうか?……まあ、ほどほどにな」


「ああ、気をつけるよ」


よし!昼間の買い物が効いたな!


だが、この時の俺は知らない。


既に、致命的なミスを犯したことを……。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る