第3話冬馬君は元◯◯◯◯

 俺は意識を切り替える。


 眼鏡を外し、髪を後ろに持っていき、オールバックにして、手持ちのゴムで結ぶ。


 フゥ……このスタイルも久々だな。


 さて、穏便に済めば、それでよし。


 もし済まなかった場合は……言わずもがなだな。


 俺は、声のした方へ辿りつく。


「ほら!こいよ!良いことしようぜ!」


「や、やめて……!」


「フゥ〜!や、やめて!だってさ。こりゃ、たまんねえな」


 はぁ……今時、あんなのがまだいるのか。

 一体、世の中はどうなっているんだが……。


「おい、あんたら。さかるなら、他所よそでやってくれないか?」


「あぁ!?なんだ、テメーは!?」


「おいおい、カッコつけて助けにきたってか。馬鹿なやつだ!」


「あ、あの!逃げてください!」


 ……眼鏡がないからよく見えないが、とりあえず良い子だな。

 この状況で、それが言えるとはな。


「別に、助けにきたわけじゃない。出来ることなら、スルーしたいところだ。だがな、こちらにも事情があってな……そういうわけにもいかないんだよ」


「はぁ!?こいつ何を言ってんだ!?」


「いいから、やっちまおうぜ!俺はもう辛抱たまんねえんだよ!」


 辛抱たまらん野郎が、殴りかかってくる!

 俺はそれを避けずに、顔面で受ける。

 ただし、首と身体をひねり、威力を最小限にしてだ。


「なんだ!?こいつ、避けもしねー!弱いくせにでしゃばるからだよ!」


 そいつは拳で、俺の腹を殴る。


「もう、やめて!わ、私が、ついていくから……!」


「フゥ〜!良い子ちゃんだね!でも、だめだ。あいつは、ああなったらもう止められない」


 よし、これで2発もらったな。

 これで、確実に正当防衛が成立した。

 もし問題になっても、証人もいるしな。


「おらおら!どうした!?最初の威勢はどこいった!!」


「おい、気合い入れとけよ?ムカついたから、手加減できん」


「はぁ?何言って……グベェ!!」


 俺は拳を、相手の腹にめり込ませた!


「ウエッ!!ガハッ!ゴホッ、ゴホッ……」


「チッ、汚ねえな。自分で掃除しとけよ」


「な、なんだ!?どうした!サトシ!」


「おい、お前。こいつ連れて退くなら、見逃してやる」


「……こいつ、強いのか……!だがな、こっちもそうはいかねえんだよ!」


 そいつも、俺に向かってくる。

 はぁ……退けばいいものを。

 

「オラァ!!」


 そいつが拳を、顔面に向けて放ってくる!

 今度は、受ける必要もないか。

 俺は掌で、拳を受け止める。


「なに!?」


 俺は黙って、掌に力を込める!


「イテェ!!アタタタターー!!」


「おい、誰が北斗の◯の真似しろって言ったよ?」


「ちげぇよ!痛いんだよ!?アイタタタターー!!」


「だから真似すんなって。で、どうだ?退く気になったか?」


「ふざけんなよ!!こちとら、舐められたままじゃ、アイタタタターー!!」


「おい、もう飽きたんだが?物真似は2回までにしておけ。中々の根性だが、俺が手加減しているうちに、退いたほうか身のためだと思うぞ?」


「ッ!!わ、わかった!!退く!!退くから!!」


 俺は、手を離してやる。


「クソ!!馬鹿力が!覚えてろよ!ほら!サトシ!行くぞ!」


「痛いよ〜母ちゃん。もう動けないよー」


「クソ!これだからドSは!こいつ、打たれ弱いんだよな。仕方ない、肩を貸してやるか」


 そう言って、2人のヤンキーもどきは去っていった。


 さて、これからどうしたもんかね。

 何事もなく、去りたいところだが……。


「あ、あの!ありがとうございました!危ないところを助けていただいて……」


「いや、気にしないでくれ。俺は、俺のために助けただけだ。アンタのためじゃない。それよりも、女子がこんなところにいるんじゃない。奴らの行いは許されることじゃないが、ナンパされても文句は言えないぞ?」


「それでも、私は助かりました!ありがとうございます!そうですね……気をつけます」


 なんか、調子狂うな……良い子すぎやしないか?

 俺はそこで初めて、その女子をまじまじと見てみた。


 ……ヤバイ……ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバヤバヤバイ……!

 俺は眼鏡を外していたのでよく見えていなかったが、そいつは同じクラスの女子だった。

 しかも、校内1どころか、県内でも有名な女子だ。


 そいつの名は、清水綾。

 容姿端麗、成績はトップクラス、性格も明るく優しく、みんなのマドンナだ。

 ただ、その分やっかみも多いらしいがな……。


 そして、まずいことがある。

 俺は地味に暮らしたい。

 もし喧嘩のことがバレたら、俺の逆高校デビューがおじゃんになる……!


 だが、幸いにも俺はクラスの空気的存在。

 さらには、喧嘩モードなので、髪型も違うし、眼鏡も外している。

 口調も違うし、気づかれることはないはず……!


「あのー、どうかしましたか?」


 気がつくと清水綾が、俺の顔を覗き込んでいた。

 いかん、いかん。つい、考え込んでしまった。

 それにしても、近くで見たらわかるが、綺麗な顔してること……。

 まあ、俺には関係ないな。


「いや、なんでもない。仕方ない、ついてこい」


「え?あ、はい」


 流石に、ここに放置というわけにはいかんしな。

 こんなのがいたら、ハイエナの群れが押し寄せてくるぞ。


 俺はついてくるのを確認しつつ、歩いていく。

 そして、人通りの多い場所に出た。


「よし、ここなら平気だろ。さあ、帰りな」


「え?あ、あの!お名前を教えてくれませんか!?出来れば、電話番号も……!お礼がしたいです!」


「さっきも言っただろう?俺が助けたいから、助けただけと。だから、礼はいらない。それと、アンタみたいな可愛い子が、そんなことを言うもんじゃないぞ?普通の男なら、勘違いするところだ」


 ふっ、俺は勘違いなどしない。

 真性のぼっちとはそういうものだ。


「ふぇ?か、可愛い……!え、じゃなくて!あの、その……」


「名乗るほどの者ではないさ。じゃあ、気をつけてな」


 俺は返事を聞くことなく、歩き出す。

 何が名乗るほどの者だ……!

 別にカッコつけたわけではない!

 こっちは名乗れないんだよーー!!

 色々と、バレちゃうから!!

 俺は、静かに暮らしたいんだよーー!!


 その後、家に帰ると、おかんむりの妹がいた。


「お兄!!もう、こんな時間だよ!お兄はご飯抜き!フン!!」


 確かに時間を見ると、いつもの約束の時刻を過ぎていた。

 我が家は、時間があうときは、7時にご飯なのだ。

 今日は、その時間の合う日だった……。


 その日俺は、カップラーメンをすすりながら思った。


 あれ?今日は良い日ではなかったのか?


 ……もう、占いなど信じないぞ……!








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