第1話冬馬君の平穏な休日

 ピピピ!ピピピ!と目覚ましの音が聞こえる……。


 俺はそれを止め、身体を起こす。


「ふぁ〜……よく寝られたな。うん、今日は良い日になりそうだ」


 今日は高校2年になり、新しい生活にも慣れてきた、五月中旬の土曜日だ。


 もちろん学校は休みなのだが、俺は朝7時には目覚ましをセットしていた。


 何故なら、今日は待ちに待ったラノベの新刊が、朝10時に開く本屋で発売されるからだ。


 そのためには十分な睡眠をとり、万全の状態で臨むのが礼儀であろう。


 そのために、昨日は夜更かしを我慢した……!


 本当なら、ネトゲしたり、溜まったネット小説を読みたかった……!


 だが、その作家のファンとしては、そんな無礼な真似は出来ない!


 きちんと予定を立てて、万全の状態で読みたいしな。


「よし……時間は有限だ。起きて準備をするか」


 俺は二階にある自分の部屋を出て、一階に向かう。


 そのままリビングに入ると、中学2年生になった妹の麻里奈がいた。


 身長も伸びてきて、150センチは超えたか?

 段々母さんに似てきて、少しは女の子らしくなってきたかな。

 今日もトレードマークである長い髪を、ポニーテールにしている。


「あれ!?お兄!?どうしたの!?いつもなら、夜更かしして起きない時間なのに!」


「朝から元気だな、お前は。まずは、挨拶が先だろう。おはよう、麻里奈」


「あ!そうだった!おはよう、お兄!で、どうしたの?」


「いや、なんてことはない。今日は、新刊の発売日なんだよ」


「……ああ、もうそんな時期かぁ。3ヶ月に一回ぐらいだから、すっかり忘れてた」


「おいおい、俺にとっては大事なことだぞ?ところで、お前は部活か?」


「うん、そうだよ。もう行ってくるけどね。お兄、そこに朝ご飯用意してあるから食べていいよ。じゃあ、行ってきます!」


「あいよ、行ってらっしゃい。朝ご飯ありがとな、有り難く頂くよ。出来た妹を持って、兄は幸せ者だな」


「えへへ、私もお兄がお兄で幸せなのです!じゃあ、3時頃には帰ってくるね!」


 妹は慌ただしく、玄関から飛び出していった。


「全く……もう14歳だというのに、落ち着きがない奴だ。でも、出来た妹だ。母親がいないのに、良い子に育ってくれたな……」


 うちには母親がいない。

 理由は、至って単純だ。

 生まれつき身体が弱く、38歳の若さで亡くなってしまった。

 俺が12歳、妹が9歳の時だった。


 それ以来、妹は家のことをやってくれている。

 もちろん、俺も手伝っている。

 元々、母さんが虚弱なこともあり、幼い頃から当たり前のことだったしな。

 こればかりは、自分の時間大好きっ子の俺でも、時間を割かないわけにはいかない。

 母さんからの言いつけもあるしな……。


 今年45歳になる父親は、サラリーマンとして働いている。

 年収はそこそこ高いが、中間管理職なので激務のようだ。

 上から下からつつかれ、お疲れのご様子だ。

 今日も朝早く起き、休日出勤をしているはずだ。

 それもあり、俺と妹は出来ることは自分でやるようにしている。

 養ってもらっているのだから、これくらいは当然のことだ。


「さて、とりあえず歯磨きをして、ご飯を食べよう」


 俺は歯磨きをしながら、テレビをつける。


 お?今日は天気も良く、運勢も良いな。

 うん、実にいい日になりそうだ。


 俺は歯磨きをし終え、妹が作ってくれた朝ご飯を、有り難く頂戴する。


「ふぅ、ご馳走さまでした。段々と上手になってきたな……はじめは酷かったからな……」


 まあ、仕方あるまい……なにせ9歳だったしな。

 俺も料理をするが、最初は大変だったしな。

 いかに母親という存在が偉大か、わかる一例だな。


 俺はすぐに食器を洗い、片付ける。

 その後、和室の仏壇の前に座る。


「おはよう、母さん。今日も親父は、俺達のために仕事を頑張っているよ。妹も元気に育って、部活動に励んでいるよ。最近では料理も段々上手になってきて、最初とは大違いだよ。俺は……まあ、いつも通りだよ。ゲームして、ラノベ読んでって感じかな。大丈夫、やるべきことはやっているから。母さんの言いつけも、きっちり守って過ごしているよ。だから、安心してください。母さんがいなくて寂しいけれど、俺達家族は幸せに暮らしています」


 俺は毎日の日課である、母さんへの報告を済ませた。

 そして時計を確認したら、八時になっていた。


「よし、まずは洗濯機を回して……その間に歩いてこよう」


 俺は手早く済ませ、日課であるウォーキングに出かけた。


 おや?インドアのオタクなのでは?と思うだろう。

 だが、インドアというのは、思ったよりも身体を酷使するのだ。

 姿勢は悪い状態になって肩は凝るし、目も悪くなる。

 ずっとやっていれば頭が痛くなることもあるし、太ったりしてしまう。

 健全なインドアをするには、健全な肉体が必要!

 これが、俺の持論だ。


 そして40分程ウォーキングをし、家に戻ってきた。

 そして洗濯物を取り出し、干していく。


「よし、これでいいな。時間は……9時20分か。では、汗を流して出かけるか」


 俺は軽くシャワーを浴びて、着替える。

 そして10時15分前に家を出発した。


 俺の行きつけの本屋は、ここから自転車で行って、大体10分くらいの距離にある。

 俺は自転車を軽快に漕ぎ出し、天気の良い日差しを浴びながら、風を感じていた。


 いやーよく寝れたし、天気も良いし、運勢も良い。

 何より今日は、待ちに待った発売日だし、良い日になりそうだ。


 だが、この時の俺は知る由もなかった……まさか、あんなことが起こるとは……。











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