第1話
「ヒガンさん、ヒガンさん、聞こえてます?」
そんな間の抜けた声を出したのは、ヒガンの一般的に部下と呼ばれる存在でした。
「ん?んああ、聞こえてるわ。で、なんの用?」
ヒガンは聞いてなかったこと丸出しの返事をした。声にこそ厳格さが現れていたが、間抜け度で言ったら部下よりヒガンの方が高かった。
「もう、その返事するってことはやっぱり聞いてないじゃないですか〜。ヒガン様、大丈夫ですか?最近ボーッとしてること、多いじゃないですか。」
部下はそんなヒガンを心配するような言動をしたが、実際のところあんまり心配はしてないらしく、言葉の続きを喋った。
「そうです。ヒガン様の御用達の花畑があるじゃないですか。あれ、最近荒れてるらしいんですよ。とはいえ異変に気がついたのはつい最近で、犯人の特定もしにくいんだそうです。ヒガン様、特別部隊の派遣をお願いしてもいいですか。」
そして束の間の沈黙が流れる。実のところヒガンは話の半分も聞いてなかったが、その半分で内容は理解できたらしく、
「いえ、特別部隊の派遣は必要ないわ。もともと誰も行かない場所だしね。」
すると、部下は不満そうに唇を尖らせる。
「えー。でもヒガン様、あの場所気に入ってたじゃないですか。あのままで良いって言うんですか?」
その返事を待っていたかのように、ヒガンは不敵に笑った。
「ええ、流石に荒らされたままというのは看過できないわ。だから。」
「だから?」
ヒガンは一拍おいてこう言った。
「私が行くわ。最近行ってなかったことだし。」
…それが、波乱の幕開けになるとも知らずに。
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