第3話
「アラン、ナオミのところに、お前を仕えさせてあげることは、できないかしら。」
そうエリカが言うと、アランの顔が苦痛にゆがんだ。どんなにムチで打っても、こんな顔はしないだろうと思った。
貴族の女たちが、質の良い従者を殺処分にせずに、秘密裏に使い回すことがあるという
ナオミのような女が、そんな
ナオミには、もうすでに八人の子がいて、六人が女児であった。今も九人目をお腹に宿している。貴族の女を身ごもらせることができた従者は、臨月まで同じ主人に仕えることが許され、出産と同時に処刑される。殺処分ではなく、処刑によって命を
ナオミは、従者を自らの手で殺す性癖があった。主人に殺されることは、処刑に勝る名誉である。そのため、ナオミは貴族の女の中でも、とりわけ慈悲深いと
「エリカ様、わたくしは、そのようなことは望んでおりません。」めずらしく、厳しい口調でアランが言った。よほど気分を害したらしい。
「そうね。ごめんなさい。」とエリカは言った。(高貴なお方が、従者に謝罪などしてはいけません。)アランはそう言いたいに違いないとエリカは思う。貴族の女は、孤独なものだ。誰も思ったことを口にしてくれない。
万が一、ナオミがアランを引き取ったとしても、そんな卑しいまねをする女に、アランは恋をしていない。ナオミは、気高く、賢明なままでいなければならない。
「私が、ナオミのようになればいいのね。それが、お前の望みなのね。」あきらめたように、エリカはアランに言った。
これからエリカがすることを思って、アランはエリカのために涙を流した。
「いいえ。エリカ様にそんなことはさせられません。」とアランは言った。
エリカはアランを抱きしめて背中をさすった。
「いいのよ。アラン、いいの。」エリカの絶望で、アランは胸がいっぱいだった。そのことが、エリカにはうれしかった。
*
もっとも勇気が要ったのは、最初の一回だった。そのあと、無我夢中でエリカはアランを打ちすえた。「平民の気持ちを理解する」という、エリカの特異な気質は「思いやりの心」の
気がつけば、エリカはアランの腕の中で、アランと一緒に横たわっていた。二人とも気を失ってしまったのだった。
アランが目を覚ますと、エリカはアランの額の前髪を、そっと手でかきあげた。
「ねえ。私の気持ちが、わかるかしら。」ほおを
アランは、何も言わずにエリカを見つめた。その目に哀れみの色はなく、代わりに
「アラン。私は今、この星で一番幸せだわ。」エリカは貴族の女らしい笑みを浮かべると、アランに口づけた。(アランも、私と同じ気持ちを味っている。)そのことに、エリカの心は
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