242話 龍神の本体

 ……これが龍神か?


 確かに見た目の迫力はある。


 大きさは十メートルを超えるし、その翼、その爪、その尻尾……。


 どれもが逞しく、見るものを畏怖させる。


 しかし……生気も感じないし、ただの石像にか見えん。


「ん?」


「主人殿?」


「どうしました?」


「いや……くぅぅ……!」


「アレス様!?」


 む、胸が焼けるように熱い……!


「へ、平気だ……これは……ァァァ!」


 俺の体から何かが飛び出して……龍神の石像の中に入る!


「はぁ……はぁ……クロスが消えた?」


 すると、目の前の石像にヒビが入り……漆黒の皮膚が現れる。


「よくぞ来た、我が器よ」


「……ようやく会えたな……ん?」


 周りを見ると……皆が静止している。

 それこそ、まるで彫刻のように。


「案ずるな。我が神気に耐えられるのはお主だけだ。。故に、時間を止めさせてもらった」


「……さすがは神様ってことか」


「うむ。さて……時間がない、本題に入るとしよう。お主の願いは聖女と勇者を元の世界に返すことか?」


「もちろんだ。ただ……和馬が生き返ることは可能なのか?」


「……ふむ……お主の力が弱まるが……魂は残っている……聖女の方にも……肉体だけなら時を戻して……」


「っ……! 頼む! 死ぬ以外のことなら構わない!」


「 神とて出来ることは限られている。ましてや、我は力が……いや、待て……お主、女神を取り入れた男を倒したな?」


「あ、ああ……」


「つまり、その女神の力ごと我がもらえば……可能かもしれん」


「たのむっ!」


「確約はできんぞ? そして、お主は力の大半を失うことになる。積み上げた剣技や魔法はともかく……もう闇魔法は使うことはできないだろう」


「ああ、構わない。元々、貴方にもらった力だ」


「……善処してみよう」


「あ——ありがとうございます!」


「何、気にするな。元々、こちらの不手際だ。我の油断が招いたことだ……責任は取らねばなるまい」


「まあ、それは少し思ったり……」


「くははっ! 正直な奴よ! いやはや、我を前にしても変わらぬ態度……クロスが気にいるわけよ」


「……あっ」


 そういや、俺……出会ってからずっとタメ口だった。


「け、敬語にした方が……つい、クロスと話してるみたいに……」


「今更だな。それに、神扱いにはうんざりしておる。そもそも、クロスと我は同じ存在だ」


「そ、そっか」


「さて……名残惜しいが、そろそろ始めるとしよう」


「えっ? このまま?」


「ああ、残りの力の全てを使う故に。我が息子、クロスのことを頼んだぞ。我はこれより、世界を支えるだけの存在になる故に」


「わかった……では、お願いします」


「うむ……ぬぅ!!」


「くぅぅ……!」


 再び、俺の体から……何かが抜けていく。


 そして、目の前にぼやけているが人影が見える。


「アレス君」


「貴方は……」


「お別れだね。君のおかげで、俺は結衣を救うことができた。本当にありがとう」


「……そんなことないです。貴方がいなければ、俺は精神の均衡を保つことができなかったでしょう」


 聖痕がないこと、母上たちが狙われること、父上と会えなかったこと、兄弟仲が良くなかったこと。


 それらを曲がりなりにも乗り越えてきたのは、間違いなく前世の俺のおかげだ。


 ターレスとの初めての対話、その他の大人な対応……それらは、この方が培ってきたものだ。


「いや、君なら平気だったよ。そして、俺を生き返させるためにありがとう」


「いえ、貴方は俺でもあるので……結衣のこと、よろしくお願いします」


「ああ、神に……いや、アレス君に誓って……じゃあ、元気で……君との旅は楽しかった……」


 そして、光の玉になり……空に舞い上がる。


「では、聖女達も送るとしよう」


「龍神よ、最後に会話させてくれてありがとう。結衣……達者でな」


 本当は最後に話をしたかったけど……それはアレスの役目じゃない。


 ……後のことは、和馬に任せよう。


 和馬……結衣を幸せにしてやってくれよ?


『ああ、もちろんさ』


 そんな声が聞こえたような気がした。


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