240話 宴

その日の夜は盛大な歓待を受ける。


飲めや歌えや踊れと……ひと時の平和を喜ぶように。


「アレス様、隣よろしいか?」


「ええ、クロイス殿」


「失礼……さて、この後の予定を聞かせていただきたいかと」


「明日の朝には結界の方へ行こうと思います」


「そうですか……もう少しゆっくりしていっても良いのでは?」


「それも考えたんですけどね……居心地が良すぎるので」


「ははっ! これは嬉しいお言葉ですな!」


「それに、早く元の世界に返してあげたいですから」


俺の視線の先では、カグラ達と楽しそうに話している結衣と、若い女の子に質問されてデレデレしてる中村君がいる。

今は帰れるという安心から落ち着いているが、それがいつまで続くかはわからない。

何より、向こうの世界では時間がどれだけ経っているかもわからない。

一刻も早く、元の世界に返してあげなくては。


「そうでしたな……勇者と聖女と魔王……邪神と女神……長きに渡る因縁が終わったのですね。私は、本来の主人である方を封印していたとは……情けない」


「仕方ないですよ。そういう風に作られた世界だったのですから」


「私は詳しいことはわからないのですが……邪神ではなく龍神ということですよね?」


「ええ、そうですね」


「そして、アレス様は龍神の使徒という」


「はい、そういう扱いであってますね」


「ならば……我々のすることは決まりましたな」


「クロイス殿?」


すると、クロイス殿が立ち上がり……。


「皆の者! 歓談のところすまない!」


皆が静まり、クロイス殿に視線が集まる。


「今、ひと時の平和が訪れた! しかし! これからは新たな問題も起きるであろう! 我々は結界から出る魔物から人々を守る使命を持ってきたブリューナグ家! しかし! それも女神と龍神の戦いによって終わりを告げた!」


皆がそれぞれ、真面目な顔をして頷く。

そこで息を吸い……。


「これからは新たな目標を立てなくてはいけない! 無論、この国を良くしていこうという気持ちもある! しかし! 私は……龍神様の城を守っていきたいと思う! アレス様が使徒である龍神様を守る! そして、アレス様が帰ってこれる場所を守り続けると……どうだろうか!?」


「「「おおっー!!」」」


クロイス家の人々が一斉に声を上げる。


「クロイス殿……」


「というわけなので、我が家はいつでも貴方様の帰りをお待ちしておりますから」


……ここにも、俺の帰る場所がある。


ロナードも困ったらグロリア王国へ来いと。


ヒルダ姉さんも、いつでも来なさいと!


オルガも皇都に居づらかったら我が領地にと。


……ありがたいな。


これで、心置きなく旅に出ることができそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る