234話 己の役目

 無事に会議が終わり、外に出てみると……。


「がははっ! すっかり女らしくなってんじゃねえか! あのちんちくりんがなぁ……アレスに可愛がってもらったか? おう? どうなんだ?」


「あ、兄上! うるさいのだ! というか変わりすぎなのだ! まずはアレスですよ!あの真面目な兄上はどこに!?」


「あぁ? 仕方ねえだろ、こちとら野盗扱いされたり、剣闘士として酷使されたり……」


「ちょっ!? 拙者達は誉あるブリューナグ家ですよ!? 父上と母上になんと言えば……」


「おい、そこは黙っててくれよ。たださえ、ぶん殴られるんだからよ」


「あぁ……拙者のせいで兄上が……」


「おい、俺は今の自分を気に入ってんだよ。もう、お前に劣等感を抱くことはない……カグラ、色々とできの悪い兄貴ですまなかったな」


「兄上……いえ、拙者にとって兄上は兄上ですから」


「そうか……というわけで、親父達には内緒な?」


「そうはいかないですよ!」


「そこをなんとか!」


 ……ウンウン、仲直りしたみたいで何よりだよ。

 結局、この二人が会うのは数年ぶりということだし。

 それもあって、ロナードを呼んだんだよな。


「二人とも、一応ここに我が国の皇帝いるからね?」


「「あっ——」」


「ブリューナグ家の二人か……おい、それより一応とはなんだ?」


「おっと、すみません」


「ったく、まあ良い。アレス……お前の役目は終わりだ」


「はい、兄上」


「何処にでも消えるが良い」


「ちょっ!? 言い方が……」


「カグラ、良いんだよ。兄上、後のことは頼みます」


「……ああ、任せておけ。お前の大事な者達を守ってみせる」


「ありがとうございます」


「……達者でな」


 それだけ言い、兄上は歩き出す。


「アレス君、私もいるから大丈夫よ」


「私もいますから。師匠の方もお任せください」


「ゼトさん、コルン先生……はい、よろしくお願いします。あと兄上のことも」


「もちろんよー」


「御意」


 そして、二人も兄上の後を追って去っていく。


「主人殿……」


「カグラ、これで良いんだよ」


 俺という存在は、この国にとってよろしくない。

 一度は魔王認定されたことで、民の間で意見が割れた。

 俺を魔王だと認めた民は、俺を見るたびに嫌な思いをするだろう。

 悲しくはあるが、彼らを責めることはない。

 この世界において女神の言葉とは、それだけの意味を持つ。


「けっ、相変わらず嫌な世界だぜ」


「少しずつ変わっていけば良いさ。これからは、女神もいないし……きっと、それはそれで問題はあるだろう。でも、少なくとも……否応にも変わっていくさ」


「……妹よ、後のことは任せとけ。ブリューナグ家は俺が継いでやる」


「兄上……」


「お前はただの女として、騎士として、その男についていけ」


「……はいっ!」


「この後はどうするので?」


「ひとまず、ロナードと共に戻る。そして恩を返したら、ブリューナグ領地に戻るさ」


「そうですか……では、ここでひとまずお別れですね」


「ああ、お前には世話になった。世界の真実を知れたし、牢屋から出してもらったしな……じゃじゃ馬娘だが、よろしく頼む」


「ええ、もちろんです——義兄さん」


「……けっ、あばよ」


 そうして、義兄さんも去っていく。


 最後に残ったのは……。


「アレスよ、俺も行くとしよう」


「ロナード……本当に良いのか?」


「ああ、妹のレナは置いていく。寂しいが、あんなに楽しそうではな……良い友達が出来て良かった」


「こちらこそ、エリカの友達になってくれて良かったよ……俺たちもね」


「そうだな。また、会える日を楽しみにしているぞ」


「ええ、お元気で」


「では……さらばだ」


 これで、ここでの俺の仕事は終わりだ。


 後は、お世話になった方々に挨拶をして……。


 結衣を元の世界に返したら……。


 この大陸から去るだけだ。

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