235話 近づく別れ

皇城を去った俺たちは、ひとまず家へと戻る。


「お兄ちゃん!」


「師匠! お帰りなさい!」


すると、すっかり仲良くなったエリカとレナが出迎えてくれる。

その横には、見守るようにカイゼルが側にいる。

もちろん、姿は見えないがサスケ殿もいるだろう。

今、俺たちの弱点はこの二人と母上だ。

もうなにも起きないとは思うが、二人には俺が守ってくれるように頼んである。

……だからこそ、俺も安心して旅立てるというものだ。


「ああ、ただいま」


「あの、師匠……私はここにいてもいいの?」


今ではすっかり素直になったレナが不安そうな顔をする。


「もちろんだ。エリカと仲良くしてやってくれ……師匠の頼みだ」


「……うむ! 我に任せるのじゃ!」


「ははっ! ……出会った頃を思い出すな」


まだ大した時間は経っていないというのに……。

どうやら、俺も感情的になっているみたいだ。


「終わったか?」


「……終わったのね?」


家の中から、父上と母上が出てくる。

その後ろからはセレナとアスナが。

ようやく……俺の一つの願いが叶った。

家族で仲良く暮らすことが……たとえ、少しの間であっても。


「ええ、母上に父上」


「結局、お前を犠牲にしてしまった……情けない父を」


「やめましょう、父上。別に今生の別れってわけでもないですし」


「そう……だな」


「そうね……」


やれやれ、暗い顔をさせてしまっているなぁ。


「大丈夫ですよ、ほとぼりが冷める頃に一度帰りますから。その時は孫でも連れてきますから」


「「「ひゃい!?」」」


俺の横にいるカグラと、目の前にいるセレナとアスナが奇声をあげる。


「ははっ! そいつは楽しみだっ!」


「ふふ、そうね」


「お兄ちゃん! 私は弟がいい!」


「師匠! 私もなのじゃ!」


「おいおい、気が早いって」


すると、父上が俺の肩に手を置く。


「アレス、この後はどうするんだ?」


「ひとまず、挨拶回りをして……そのまま旅立とうと思います」


「オルガは良いのか?」


「ええ、大事な後継ですし……カエラが可哀想ですから」


流石に、あの二人を連れて行くのは無理だ。

人数的にも、強さ的にも……オルガとカエラには苦労をかけた。

静かに幸せな家庭を築いて欲しい。


「そうか……まあ、お前達が決めたなら良いさ」


「じゃあ、メンバーは……カグラちゃんとセレナちゃんとアスナちゃんね……まあ! 相変わらず女の子ばっかり!」


「はは……」


「でも、大丈夫よね。私の自慢の息子だもの……全員、幸せにしてあげるのよ?」


「ええ、母上に誓って」


「……ごめんね」


そう言い、母上が俺を優しく抱きしめる。


皆はそれを、静かに見守ってくれる。


お陰で俺は恥ずかしい事もなく……その感触を忘れないようにするのだった。

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