224話 対話
……ここは?
暗い……何も見えない。
「よく来た、我が器よ」
「……龍神か?」
姿は見えないが、いつもよりはっきりと声が聞こえる。
もしかしたら、龍神の半身であるクロスと融合したからかもしれない。
「如何にも。我が名は
「夜の刀……なるほど、闇ではなく夜を司る神か?」
「うむ、そう思っていい。昼の神、光の神と呼ばれる奴と我は相対する性質を持つ」
どうやら、ようやくまともに話が聞けそうだ。
「この世界は何だ?」
「この世界はアルカディア、人ならざる者の住む世界。本来は魔物や魔族が暮らす世界だ」
「人ならざる者? では、ここにいる彼らは人ではないと?」
「ここにいる者たちは人であり、人ではない。奴がこの世界に来る際に、残りわずかになった信者の一族をこの地に連れてきた。今いるのはその者達と、この地にいた先住民の血を受け継ぐ者達だ。もっとも、我が民はもういないが……悪いことをした」
なるほど、魔族とやらと人の血を受け継ぐってことか。
だから人間離れした能力を持っているのかもしれない。
「……それで、前の世界との関係は?」
「この世界と主がいた世界は表裏一体の世界。裏が滅びれば、表も滅びる。故に、消失してしまう奴を、我は救うことにした。我が力を分け与え、この地にて再起を図らせるために。奴は信仰を募り、ここで回復をして元の世界に戻るつもりだった」
「なるほど。それが、この世界を救うことにもなるってわけか。それが、どうしてこうなった?」
「我が浅はかだった。奴が帰還できるほど回復した時、我が奴を送り返そうとした時……奴が反旗を翻した。世界を超えるというのは、我にとっても難しい。故に、その儀式の最中の隙を狙われた。奴に不覚を取った我は、この地で封印され、この世界を維持するための装置と化した。そして、いずれ力をつけた奴に吸収される運命にあった」
「貴方を弱らせつつ、自分の力をつけるってことか?」
「そうだ。我を邪神とし、その身から漏れた神気を魔物に変え、それに人を襲わせる。そして、それを女神の使徒と名乗る者達が倒す」
……とんだマッチポンプもあったもんだ。
要は自作自演ってことか。
やはり、この世界は女神の都合が良いように作られたってことだ。
「聖女とは何だ? 勇者とは?」
「聖女と勇者はシステムだ。聖女は力をつけた際に、魔王と戦わされる。その後、無理矢理次代の子を産まされ、その血と力を抜かれて、最後には邪神と呼ばれる我の封印の柱に。勇者は欲に溺れさせ、その血で持って女神の使徒を増やしていく」
……人柱か。
勝手に呼ばれた挙句、犯され、殺され、最後には……吐き気がする。
勇者も、最後には家畜のような扱いというわけか。
「大体はわかった。だが、俺は何で選ばれた?」
「……もう時間がないようだ」
少しずつ、龍神の声が聞こえなくなってくる。
「では、最後に——俺はどうすればいい?」
「お主は我が器。そして、我が力のほとんどはクロスにあり。長年の封印で、この世界にも表の世界にも神などいらないことがわかった。我々がいなければ滅びると思っていたが、ただの象徴としてのみいればいいらしい。お主に求めること——奴を倒せ、そして我が世界の民を救ってくれ」
「わかった」
「しかし、今から使う力は神の力。我が器とはいえ、その力は人に耐えられるものではない。お主の体は、まだ成熟しきっていない。時間が経つにつれ、その身は崩壊していくだろう……仮に倒せたとしても、最悪の場合——死ぬ」
「ああ、わかっている。でも、俺のやることは変わらない。前世と今世の大切な人達のために——この命をかける」
「……最後に良き器に出会えた……感謝する……」
龍神の声が遠くなっていき……そこで、俺の意識も途切れた。
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