216話それぞれの戦い

 ~アスナ~


 つ、強い……!


「父上! しっかりなさってください!」


「ガァァァァァァァア!」


「くっ!?」


 ご主人に時間を稼ぐだけで良いって言われてたけど……。

 私だって、ご主人の役に立ちたい。

 それに、できるならこの手で父上を……!


「もっと力があれば……ううん、それに呑まれちゃいけない。私は、私にしかなれないんだから」


「そうよ!」


「ガァ!?」


 誰かが父上を吹き飛ばした!?


「ヒ、ヒルダさん!?」


 いつの間にか、隣にはヒルダさんがいた。

 戦闘中とはいえ、私が気づかないなんて……。

 流石は父上が後継者に欲しいくらいだと言っていたお人ですねー。


「あら、そこは妹弟子でしょ?」


「ええ〜……いや、確かに私のが先に習ってましたけど。でも、ヒルダさんの方が上達早かったので」


 ある日突然きて、喧嘩を売るような形で父上にお願いをしてきましたよねー。

『強くなるために来たわ』その一言の一点張りで……ほんと、破天荒な人ですよねー。

 さすがはご主人様のお姉さんって感じ。


「関係ないわよ。師匠にとっては、貴女こそが後継者だもの。よく自慢していたわ。良き暗殺者になってくれたと。まあ、親としてはどうなのって思ったけどね」


「……いえ、最高の褒め言葉ですね」


 そんなこと、一言も聞いたことない……。


「さて……起き上がってくるわね。アレはどうしたら良いの?」


「ご主人様の話では、大ダメージを与える必要があるみたいですよ」


「そのショックでってことね……じゃあ、姉妹コンビでやるわよ!?」


「………はい?」


「何よ、どうせアレスから離れないんでしょ? 」


「もちのろんですよー」


「じゃあ、弟子同士、義理の姉妹コンビでいいじゃない」


「なるほど……良いですね〜。じゃあ、存分に使わせてもらいますよ?」


「あら、良い度胸ね。いいわ、私を好きに使いなさい」


 剣を構え、父上と対峙する。


「いきます!」


「ガァァァァァァァア!」


「苦無を持っている手を弾いてください!」


「いいわ!」


 迫り来る父上とヒルダさんがつばぜり合いになる!


「ギギギ……!」

「な、舐めんじゃないわよ——!」


 聖痕が光り輝き——父上の苦無を弾き飛ばす!


「ガァ!?」


「覚悟——シッ!!」


 丁度弾かれて動けない右腕を——。


「ギヤァァァァ!?」


 肘から下を切断する!


「おまけよ!」

「カハッ!?」


 ヒルダさんの蹴りが鳩尾にめり込んだ。


「ぁァァァァ……ぁ? わ、私は……」

「父上!」

「……ヒルダ様とお前が戻してくれたのか……流石は私の娘だ……よくやった、そうだ、一人でなど戦うものではない……それでこそだ……」


 そうだ……忘れていた。


 何を一対一にこだわっていたんだ、私は。


 味方を囮にしてでも相手を倒す、それが私の仕事だ。


 その逆もしかり……。


 父上を結衣さんに預けた私は、次の戦場に向かう。


 次は、私が囮になるために。

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