217話 カグラの戦い

 ……強いのだ。


 出来れば殺すなと言われたけど……そもそも勝てるかどうか。


 これが、噂に聞く勇者の力。


 力負けなど経験がない拙者と打ち合える膂力。


 それを扱える体力、防御力。


 剣技こそ拙いが……あの女神が渡した聖剣が厄介なのだ。


 伝承通りなら、身体能力の補正がかかる。


 ならばこそ、こやつの相手は剛力を持つ拙者しかいない。


 故に——拙者が相手を致す!




「ガァァァァァァァア!」

「ハァァァァ!」


 剣と剣がぶつかり合い、地面にヒビが入る。

 衝撃によって、体のあちこちから血が流れる。

 それでも互いに一歩も引かず、鍔迫り合いになる。


「ガガガ……」

「くっ……なんという力——だがっ!!」

「カァ!!?」


 腕に魔力集中させ、相手を吹き飛ばす!!


「くらえ!」

「ギャァ!?」


 空いた胴体に剣撃を叩き込み、相手がさらに吹き飛ぶが……。


「……頑丈な身体なのだ。流石は女神の使徒と言われるだけのことはある」

「ガァァァァァ——!!」


 一瞬で傷が癒え、突撃してくる!

 聖剣には自動回復能力をも備えてるらしく、先程からこの繰り返しだ。

 一直線に突っ込んできた勇者を上段の構えにて待ち受け——。


「なめるなァァァ!」

「ガァァ!?」


 剣を振り下ろし、再び吹き飛ばすが……戦闘不能までには至らない。

 あの聖剣さえ破壊できればいいのだが。


「す、すまない……役に立てなくて」


「仕方ないのだ。魔力が残っていまい? 死なないように下がってるのだ」


 救援に来たロレンソには助かったが、流石に戦力不足だ。

 回復が速く、ダメージが追いつかない。

 セレナや結衣にも魔力の上限があるし、まだまだ戦いはこれからだ。

 せめて貯める時間を稼ぐことが出来れば……あの剣を破壊できるかもしれないのに。

 オルガも予想外に苦戦しているし、拙者が早くこやつをどうにかしなくては。






 それからしばらく経ち……助太刀に来た一人が、拙者の方にやってくる。


 その者は槍を投げ、勇者を吹き飛ばす。


「おい! ブリューナグの娘!」


「ライル様! 拙者はカグラなのだ!」


「ふん、イノシシ娘の名前など知らん」


「そ、それより! ご主……アレス様の手助けは!?」


「俺では役に立たないそうだ。そして、貴様が心配なのだろうよ」


「……心配?」


「好きな男に心配されて女冥利につきる……って顔じゃないな」


 何だろ? 嬉しいより……悔しさが増す。


 やっぱり、拙者は守られたいわけじゃない。


 でも、弱いから心配かけちゃうのだ……。


 大好きなアレス様の足を引っ張るなど——あの方の騎士となると誓った拙者がしていいことではない!


「はい、それは拙者の望むところではないので。拙者は、あの方の後ろではなく隣に……いえ、前に立ちたいのですから」


「クク……いい覚悟だ。わかった、ここは俺に任せ」


「いえ、今すぐに終わらせます」


「ほう?」


「少しでいいので、あいつの動きを止めてください」


「……わかった、任されよう」


 すると、瓦礫の山から勇者が飛び出す!


「ガァァ!」


「甘いわっ! 伸びろアスカロン!」


「グァ!?」


 槍が伸び、肩に突き刺さり……そのまま壁に縫い付けられる!


「やれ!」


「感謝いたします! スゥ——」


 身体中に魔力を行き渡らせる……今の私にできる最高の一撃を!


「ハァァァァ——食らうがいい!!」


 渾身の力を込めて、聖剣に叩きつける!


 すると……ピキピキと音を立てて……聖剣が割れる。


「ガァァ?」


「フゥ、これで戦力半減なのだ」


 これで回復機能や身体能力上昇が収まるはず。


 あとは動けなくなる程度痛めつければ……。


「もういい、貴様は行け」


「えっ? し、しかし……」


「役立たずの俺とて、時間くらいは稼げる。こいつを殺さぬようにすればいいのだろう?」


「は、はい」


「ならば行け。騎士とは何だ?」


「……主人を守る者」


「そうだ、貴様の主人はアレスだ。皇帝ではない」


「……感謝するのだ!」


 アレス様が皇帝になれば良いと思っていた。


 でも、今のあの方のなら……任せても良いのかもしれない。


 でも、これもアレス様のお力だ。


 やはり、御主人様を死なせるわけにはいかないのだ!


 その場を離れて、拙者は愛しき人の元に駆け出していく……。

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