207話 決戦前

 ターレスに聞いた話をしつつ、カイゼルが目を覚ますのを待っていると……。


「うっ……」

「カイゼル!」

「……アレス様?」

「良かった……本当に」

「これは……夢ですかな? 私は死を覚悟して……」

「そう簡単に死なせてやるものか」


 カイゼルが起き上がろうとするが……。


「……私の手がない?」

「……すまん、斬ったのは俺だ。お前の動きを止めるために、そして正気に戻すために」

「そうですか……アレは夢ではなかったと。いえ、ありがとうございます。私は主君を殺さずにすみました……ですが、主君に剣を向けるとは切腹モノですな」

「そう言うと思ったよ。だから——腕一本で許してやる」


 その可能性は考えていた。

 きっと、カイゼルならそう言うと。


「……ははっ! こいつは1本とられましたな! それでは……自害することはかないませんな。まだ、先帝陛下には会えそうにないと」

「そんなことは許さん。カイゼルには、俺の子供を抱いてもらわないと」

「……この片腕にも、まだ役目があるということですな」

「ああ、大事な役目だ」

「……楽しみです……な」


 そういい、再び眠りにつく。

 これで、ひとまず死ぬことはないだろう。




 すると……それまで見守っていた仲間たちが近づいてくる。


「御主人様、この後はどうしますか〜?」

「無論、ターレスを仕留める」

「でも、アレス様。カイゼル様はどうしますか? わたしが残るとか……」

「むぅ……難しい問題なのだ」

「確かにそうですね……僕が残るのもありかと」


 問題はそこだ。

 この状態のカイゼルを放っておくわけにはいかない。

 傷を癒したとはいえ、体力も落ちている。


「じじゃーん! そんな時は先生にお任せあれ!」

「「「「「コリン先生!?」」」」」

「……誰?」


 突然現れたその人は、俺たちの担任だったコリン先生に間違いない。


「先輩! 今まで何処にいたんです!?」

「ごめんねー! セレナちゃん! 私もさっき起きたばっかりで!」

「とりあえず、端的に説明してもらえますか? こちらもしますので」

「あら、相変わらず冷静ね。じゃあ、わたしから……」


 話を聞いてみると、コリン先生はカイゼル達が父上達を逃がす時間を稼いだと。

 挟み撃ちをされぬように、ターレスの私兵を押しとどめていたと。

 ただ、魔力切れを起こし、潜伏先で気を失っていたということらしい。



 こちらのことも、簡単に説明する。


「なるほど……ターレスが……」


「コリン先生、カイゼルのこと頼めますか?」


「行くのね?」


「ええ、決着をつけに」


「情けないわね……子供に押し付けてしまうなんて」


「大丈夫ですよ、もう皆成長してますから」


「……そうね、みんな大きくなったもんね。じゃあ、先生に任せて行ってらっしゃい!」


 俺たちは顔を見合わせて、力強く頷く。


 これで後顧の憂いはない。


 全戦力でもって、ターレスに挑むだけだ。

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