201話 ヒルダ視点

 ……なによなによ!


 みんなして、私を除け者にして!


 表面上は納得したように見せたけど、心は全然納得してない。


「ううん……わかってるもん」


 隣に眠る赤ちゃんを見て……揺らぐ。


 もう、好き勝手なことは出来ないかなぁと。


 みんなも、好きで除け者にしてる時わけじゃないってことも。


「この子のために、生きないと……でも、私だって聖痕持ち。それに、きちんと戦えるもん。どっちにしたって、みんなが負ければ……この子の命もないってこと」


 もちろん、この子のためだけに、私を連れて行かないわけじゃないこともわかってる。


 敵の中には、お爺様……ターレスがいるから。


「あの人を思うと……身体が震えてくる」


 いつも冷たい目をして、自分以外をモノとして見るような……。


 でも、だからこそ……このままでいいのかなって思う。


「一生、呪縛から逃れられない……それで、いいの? この子に胸を張って、堂々と生きなさいって言えるの?」


 スヤスヤと眠っている我が子の手を握り……。


「どうすればいいかわからないわ……」


 すると、ドアの前に気配がする。


「誰かしら?」


「あら、叩いてないのに。ほんと、すごいわねー」


「エリナさん?」


「ヒルダちゃん、入ってもいいかしら?」


「も、もちろんです!」


 ドアを開けて、エリナ様が入ってくる。

 ほんと、何度見ても綺麗な方……姿ではなく、その立ち振る舞いが。

 ほんわかとしてて、いつも笑っている……私の理想の母親像そのもの。


「あらあら、ご機嫌斜めねー?」


「むぅ……そんなことないです」


「仲間はずれにされちゃったもんね?」


「だから……そうです」


 この人には隠し事は通じない。

 散々、愚痴を聞いてもらってきたから。

 ……母親としての愛情を注いでくれたのも、この人だった。


「気持ちはわかるわよ。私もそうだったから」


「エリナさんも?」


「ええ、そうよ。今だって、ラグナの元に駆けつけたいし……でも、皇都にいる時だって、私はなにもできなかったわ。戦いにいくアレスが帰ってくるのを待つことしか……暗殺者をカイゼルが追い払うまで震えて待つことしか……」


 そうか……エリナさんは、ずっとこんな気持ちでいたんだわ。

 確かに戦えないけど、それはそれで凄いことだと思う。


「私も、見習いま」


「だめよ、見習っちゃ」


「へっ?」


「私だって戦えるなら戦ってるもの。アレスやエリカ、ラグナを守るためなら、この命賭けてもいい」


「……はい、私もです」


「行きたいんでしょう? 間に合うかわからないし、生きて帰れるかわからないけど」


「……はい」


「なら、行きなさい。大丈夫、もしバレたら私が説明するから。そして、もし仮に……何かあっても、私に任せてちょうだい」


「で、でも……」


「私は——この子のお婆ちゃんのつもりなんだから」


「……エ、エリナさん……」


 それは、つまり……私のことを娘だと思ってくれてるってこと……。


 そして、その息子であるこの子のことも……。


 相変わらず、素敵な人。


「エリカのお姉さんなら、貴女も私の娘同然でしょ? ほら、涙を拭いて」


「グス……あ、ありがとうございます」


「ふふ……あの小さかった女の子が母親になったのね」


「エリナさんのおかげです。私、子供に愛情注げるか不安だったんです。でも、エリナさんが教えてくれました……母親として愛情を」


「あら、嬉しいこそ言ってくれるわね。さて……どうするの?」


「私——行きます。自分自身と決着をつけに」


「わかったわ。じゃあ、今すぐ出ないとね。明日には、アレス達は飛んでいくだろうから」


「はい! この子をよろしくお願いします!」


「ええ、任せて」


 私は二階の部屋の窓から飛び出して、綺麗に着地をする。


 そして、そのまま馬を拝借しようとしたところ……。


「やあ、ヒルダ」


「……ロンド」


 そこには私の愛する男性がいた。


「止めに来たの? というか、よく気づいたわね」


「まあ、一応旦那さんだしね。それと、止めに来たわけじゃないよ」


「えっ?」


「そりゃ、行って欲しくないけど……君なら……僕が好きになった君ならこうするかなって」


「むぅ……見抜かれてるわ」


「まあね。さて……僕が来た理由は……来たね」


 後ろから、馬が何頭かやってくる。


「これは……?」


「うちにいる良い馬を集めたよ。これを繋げて走って、途中で乗り換えながら行くと良い。疲れちゃった馬は、道中の村にでも預ければ良い。あとで、取りに行かせるから。こうすれば、何とか事が終わる前には間に合うんじゃないかな。最悪、君には聖痕があるし。体力と速度の心配はない」


「ロンド……」


 アレスのことが好きだった私は、この人を愛せるか不安だった。


 でも、この人が優しくて……私のことをわかってくれて……。


 次第に愛するようになった。


「はは……僕は戦えないし、君に相応しくないかもしれないけど……」


「そんなことないわ! 貴方は、私の最高の旦那様よ! 私——貴方を愛してるもの!」


「……そっか……うん、僕も」


 その笑顔に……思わず、彼の頬にそっとキスをする。


「うわっ!?」


「ふふ、ありがとう、ロンド。じゃあ、行ってくるわ」


「全く、君ってやつは……気をつけて」


 もう、怖いものはない。


 お爺……ターレスだろうと何だろうと。


 私は——自分自身に決着をつける!

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