199話 空の上にて

 翌日、疲れを癒し準備を整えた俺たちは……。


 クロスに乗って大空を飛び、皇都へと向かう。


「そういえば、ヒルダ姉さんに会わなかったな」


「なんか、部屋から出てこないって言ってたのだ」


「あれじゃないですかー? 連れてってくれないからいじけてるんですよ」


「はは……そうかもしれませんね」


「ですが、流石に連れて行くのは……僕も反対でしたし」


「そうなんだよなぁ……人数的なものもあるし」


 確かに姉さんの力は、戦力的には助かる。

 聖痕を使いこなしているし、実戦経験もある。

 しかし……心情的には母親になったなら大人しくしてて欲しいかな。


「ごめんなさい、私がいるから」


「結衣、気にしなくて良い。元々、連れて行くつもりもなかったから」


「そうなの?」


「敵の中に姉さんの祖父がいるんだ。できれば……殺すところは見せたくない」


 実は、これが一番大きな理由だ。

 甘いかもしれないが……仕方がない。


「そうなんだ……ふふ、そういうところは和馬さんっぽい」


「そう……かもな」


「そんな顔しないでよ。別に、今の貴方を否定してるわけじゃないから。その、理解はできないけど……」


「いや、良い。お前がそう思うのは無理もないことだ。何なら、おじさんとおばさんに会ったら殴られそうだ」


「あはは……お父さんは殴っちゃうかも」


「だなぁ……よく叱られたもんだ」


 すると……結衣が何やら言いたげな顔をする。

 俺がよく知る……昔から知っている顔だ。

 少し不安そうな顔をして、よく俺の顔を覗き込んでいた。


「その……今のお父さんとか……その、家族のこととか聞いても良い? お母さんと妹さん、お姉さんには会ったけど……」


 エリカやレナ以外には、結衣のことを教えてある。

 母上なんかは、もう一人の娘!?とか……ほんと、母上には救われる。


「うん? そういえば……ライル兄さんには会った?」


「うん、少しだけ。全然似てなかったけど。前皇帝って人には会わなかったかな」


「はは……まあ、タイプが違うわな。その人が長兄で、次兄は……女神に乗っ取られてる」


「……そうなんだ」


「ただ、男兄弟とは仲悪かったからなぁ。あんまり、家族って意識はない」


「あっ、だから周りに女の子ばかりなの?」


「い、いや、そういうわけじゃない……カイゼルって人が家族かな」


「カイゼル……あっ、皇帝さんの横にいた人かも」


 どうやら、俺との約束を守ってるらしい。


「そうだ、その人だ。血の繋がりは無くとも、俺の大事な家族だ。俺に厳しさと温かさをくれた、尊敬に値する人なんだ」


「……和馬さんにとって、私のお父さんみたいな?」


「そう……そうだな」


「じゃあ、私にとっての和馬さんだね。会って話してみたいな」


「ああ、きっと喜ぶよ。ちょっと無愛想だけど」


 会話をしつつ、己の中にある一抹の不安を拭い去る。


 カイゼルは……無事だろうか?


 頼むから、無茶だけはするなよ。


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