198話 カイゼル~後編~

勇敢なる兵士達が敵を押し留めている間に……。


何とか、敵に会わずにとある部屋に到着する。


そして、ラグナが壁の一部に触れると……。


「ここを押せば……よし、開いたぞ」


「こ、こんな場所に……ただの衣装部屋かと」


「確かに、お前に教えた場所とは別の所だな。一応、いくつかある」


「では行くとしよう。私が先頭を走る。ゼト、お二人を我々で挟む形だ」


「はっ! お任せを!」


「サスケ殿には警戒をお願いする」


「任されよう」


すぐに中へと入り、通路を進んでいく。


「カイゼル、一応確認するが、この後はどうする?」


「無論、アレス様の元に行く」


「その理由は?」


「状況から考えるに、アレス様と女神が戦ったのだろう。しかし、女神は帰ってきていない。その状況で、ターレスが動く意味……おそらく、アレス様が女神を撃退したか殺したのかはわからないが……何かしらの形で追い払ったと推測される」


「うむ……もし女神が無事で、アレスを殺しているならターレスか動く理由もないか」


「そういうことだ。おそらく女神に何らかのことが起こり、アレス様に対して我々……ラグナやライル様を人質に取るのかもしれん」


すると……。


「カイゼル殿、止まってくだされ」


「むっ……」


サスケ殿の声に、全員が立ち止まると……。


通路の影から、人が出てくる。


隠形の類……こやつが、噂のターレスの影か。


「おやおや、流石はルーン家の当主殿。私に気づくとは」


「お主……そうか、我が部下達を殺したのは貴様か?」


「ええ、そうですよ。ターレス様の屋敷にゴミが紛れ込んでいたので」


「……殺す」


「サスケ殿」


「わかっている……後ろから奴が来る」


コツ、コツ、コツ、と足音が響く。


「ふむ……どうやら、役者は揃っているようだ」


「お、おじい……」


「ターレス! 今更出てきて何のつもりだ!?」


「吠えるな、屑共が。貴様達など、作られた存在に過ぎん」


ターレスから圧が放たれる!

すると、二人が膝をつく。


「くっ……! 何だ、この圧は……!


「か、身体が……」


「ほう? 流石はカイゼルだ。この威圧に眉ひとつ動かさないとは。それに、ゼトとサスケは動けると……クク、面白い」


この圧……以前のターレスの比ではない。

若き頃より、私が知っているターレスとも違う。

これは……覚悟を決めなくていけない。


「スゥ——ハァァァァ!」


「むっ!」


一気に間合いを詰め、ターレスに斬りかかる!


「う、動くぞ……!」


「お、俺もです……!」


よし、二人が威圧から解けた。


「させませんよ」


「おっと、貴様の相手は私だ——部下の仇、取らせてもらおう」


よし、奴の相手はサスケ殿に任せられる。


「ゼト! ここは俺達に任せろ! お二人を頼んだぞ!」


「……御意!」


ゼトが、すぐに私の意をくみ、二人を連れて走り出す。


「まあ、いい……ハァ!」


「くっ!?」


ば、バカな……力負けしただと?


「フフ、やりますね」


「チッ……部下がやられるわけだ」


あちらも苦戦しているようだ。


「あいつらなど逃しても問題あるまい。仮にあったとしても……それはそれでよい。さて……一度、自分の力を試してみたかったところだよ」


「私もですね。こうして表舞台に立つことはないので」


二人がゆっくりと近づいてくる。


「カイゼル殿」


「サスケ殿、すまんな」


「気にしなくて良い。もとより、すでに捨てた命だ……アレス様との約束は果たせそうにないが」


「ああ、それだけが心残りだ……しかし、未来を守るため——共に行こうぞ」


「……ああ、無論だ」


これで我々の覚悟は決まった。


ここを死地と定めたと。


このターレスから感じる圧力……。


おそらく、私は——ここで死ぬ。


だが、一度は捨てた命。


先帝陛下、アレス様と仕え……幸せな人生だった。


私の命——ここで使いきろうではないか!

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