197話 カイゼル~前編~

 ……この胸騒ぎは?


 仮眠をとっていた私は、ソファーから飛び起きる。


 忘れて久しいこの感覚……。


「この気配……戦か!」


「カ、カイゼル?」


 ライル様が起き上がると同時に……ドアが激しく叩かれる。


「夜分のご無礼を失礼いたします!」


「よい! 許可する!」


 次の瞬間、兵士が飛び込んでくる。

 その顔は悲壮感に染まっており、動揺している。

 そうだ……昔を思い出せ。

 あの、戦場を駆け抜けた頃を。


「落ち着け。状況を説明出来るか?」


「は、はい! ……たった今、情報が入りました。何故か皇都の門が開かれ、兵士達が入ってきたと。その兵士達は、他には目をくれずに……この城になだれ込んてきました」


「わかった。では、お主は他の部屋に伝えに行け。私は、これからライル様を連れていく」


「はつ! 失礼いたします!」


 兵士が慌ただしく出て行った後……。


「カイゼル……ターレスか?」


「おそらくは……まずは、ラグナ達と合流します」


「わ、わかった」


 ……ライル様は戦闘経験が薄い。


 聖痕をお持ちで潜在能力はあるが、嫡男である故に。


 だが、きっとすぐに強くなれる器は持っている。


 ……命を賭して、お守りせねばなるまい。


 それが、我が主君の願いでもある。






 すぐに移動を開始すると……。


 角の向こうから、よく知った足音が聞こえてくる。


「師匠!」


「ゼト! ラグナ!」


「カイゼル……ライル、良かった」


「父上! 動いてはいけません!」


「そういうわけにもいくまい」


「みんなー! 無事〜!?」


 すぐにコリンもやってきて、ひとまず主要な人物が揃う。


「こ、これからどうするのだ?」


「ライル、落ち着け。今は、お前が皇帝なのだから」


「し、しかし……いえ、わかりました」


 ライル様のターレスに対する恐怖心は尋常ではない。

 それを拭い去ることは、容易ではないだろう。

 ……ここは、私が指揮を執るべきか。


「皆の者、僭越ながら私が預かるが……良いか?」


 すると、全員が目線だけで頷く。


「まずはコリン」


「はいっ!」


「お主は城壁の上から味方の援護を。そして頃合いを見て、脱出せよ」


「……行ってきます!」


 危険な任務だが、コリン以外には任せられん。

 繊細な魔法コントロールを持つ、我が国一番の魔法使いなのだから。


「サスケ殿、いるのだろう?」


「うむ」


 気配もなく、いつの間か近くで立っていた。


「お主にはついてきてもらう」


「了解した」


「カ、カイゼル、俺たちは……」


「ラグナ、皇族の方のみが知る脱出路は?」


「使えるが……ターレスが知らないとは思えん」


「それも承知の上だ。どっちにしろ、この城は敵に囲まれている。あの通路なら、少人数しか入ってこれまい。何より、出口がいくつかある。その全部には、対応しきれまい」


 私は亡き先帝陛下より、一度案内されたことがある。

 ……というより、共に入ったことが。


「……それもそうか。むしろ、くると思っていた方が対応出来るか。ターレスとはいえ、ゼトとカイゼルがいれば……よし、ついてこい」


 ……しかし、あのターレスが勝算のない戦いを仕掛けるとは思えん。


 これは……私が責任を持って、命をかけることも考えておかねば。

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