186話 セレナの戦い

 少し戦場から離れた場所では、二人の少女が対峙していた。


「目を覚まして!」


「………ホーリーランス」


 セレナの問いかけも虚しく、光の槍が飛んでくる。


「セレナ! よくやってくれた! 俺と交代しろ!」


 俺が前に出ようとすると……。


「来ないでください!」


 厚い水のバリアを張り、上位互換である光魔法を無理やり防ぐ。

 圧倒的な魔力量を誇る、セレナだから可能な技だ。


「お前では無理だ! 光魔法に対抗できるのは闇だけだ!」


「へ、平気です! わたしだって、サボってたわけじゃないんです!」


 次の瞬間——結衣の両手から光が溢れる。

 その魔力量は凄まじく、威力は考えるまでもない。


「まずい——セレナ! 俺の言うことを聞け!」


「いやです!」


「……へっ?」


 ここまではっきり言われたことのない俺は……思わず固まってしまう。

 何だかんだ言って、セレナは俺に強くモノを言うことはなかったから。


「光の雨よ、全てを飲み込め——シャイニングレイ」


「 風よ! 水よ! 混ざり合い奔流と化せ——アクアトルネイド水の螺旋!!」


 上から降ってくる光の雨と、下から発生した水の竜巻が激突する!


「ま、負けない——きゃっ!?」


「くっ——シャドーワープ!」


 セレナの影から飛び出して、しっかりと受け止める。


「へ、平気か?」


「は、はい……でも、見てましたよね?」


「ああ……見事だ」


 吹き飛びはしたが、きちんと相殺した。

 結衣の方は信じられないのか……呆然としている。


「えへへ……わたしだってやれるんですよ? だから……」


 俺の頬に柔らかいモノが触れる。


「セレナ?」


「わたし達を頼ってください。アレス様は一人じゃないんですから。そのために、わたし達は強くなったんですよ? カグラちゃんも、オルガ君も……まあ、アスナさんもですけど」


「……そうか。俺は独りよがりだったか。結衣のことを笑えないな……周りが見えてないのは俺の方だったか」


「ふふ、アレス様の悪い癖ですよ? 全部、自分で抱え込もうとして」


「……かもしれないな。わかった、結衣はセレナに任せる」


俺が救ってやるなんて傲慢だった。

そうだ……俺には頼りになる仲間たちがいる。

この今世で出会った、大切な人達が。


「はい! 任してください! それに……ムカついてるんですよね」


「ん?」


「アレス様があんなに真剣に考えてあげてるのに、全然話聞かないし……今も、こうして大人しく操られているし……」


「ま、まあ、結衣は結衣なりに……」


「いえ、これは女の戦いです」


 あっ、ブラックセレナモードだ。


「そ、そうか」


「アレス様は、アレをお願いします。なので、ここで力を使ってはダメです」


「……ああ、わかった」


 視線の先には……いつの間にか、女神が立っていた。


 確かに、アレの相手をできるのは俺だけだろう。


 俺は後ろを振り返らず、前へと向かうのだった。

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