185話 再び

 急いで天幕から出ると……。


「アレス! 何かあったの!?」


 騒ぎを聞きつけたのか、ヒルダ姉さんが隣の天幕から出てくる。


「いえ、俺にもわかりませんが……きました」


「あら、アスナが向かってくるわね」


「では、一緒に話を聞くとしましょう」


 こっちからも、アスナに近づいていき……。


「御主人様〜!」


「アスナ、状況は?」


「夜襲とみて間違い無いかと〜」


「わかった。相手の規模や、対応はどうしている?」


「敵は……聖女と勇者、そしてハロルドと兵士達ですね。カグラさんが勇者、セレナさんが聖女、オルガ君兵士とそれぞれ対応していますよ」


「なに? ハロルドはともかく、勇者と聖女もか……よく体が保つものだ」


 やはり、加護というやつなのか。

 普通の人間であれば、とっくに疲れているだろうに。


「それが……様子が変なんですよねー。勇者は勇者で、気が荒ぶってるというか……聖女さんは、目が虚で意識がないというか……」


「……なに? 洗脳か?」


 目が虚……催眠や洗脳の類が考えられる。

 その可能性は結衣が聖女とわかる前から考えていた。

 何故ならただの高校生が、すぐに対応できるとは思えないからだ。

 その様子がないことで、そこは安心していたが……。


「何故、このタイミングで?」


「そうですよねー、出来るんなら最初からやれば良いですもんね」


「できない理由か、したくない理由があるか……まあ、いい。どっちしろ、俺のやることは変わらない」


 結衣を元の世界に返す……ただ、それたけだ。





 薄暗くなってきた道の中、音がする方へ向かっていくと……。


「オラァ!」


「くっ! 先ほどとは違う!」


「ははっ! すげぇ! 力が溢れてるぜ!」


 ……カグラが力で押されている?

 これが、本来の勇者と力というわけか。

 だが、カグラとて簡単にはやられん。


「ヒャハ! また貴方ですか!」


「ここは行かせません!」


「いいですよぉ! 貴方には借りがありますからねぇ!」


 ハロルドの相手は、オルガに任せればいい。

 勝てはしないかもしれないが、負けることはないだろう。

 俺は戦況を確認し……。


「アスナ、カグラを手伝ってやってくれ」


「了解でーす。んじゃ、いってきますか」


 牽制役のアスナがいれば、相手が強くなったとはいえカグラなら平気だろう。


「アレス! 雑魚は任せなさい! 兵を指揮してくるわ!」


「ええ、お願いします」


 ハロルド殿親子には、この混乱を抑えてもらわないといけない。

 心配だが、姉さんに任せるのが一番良いだろう。


「問題はこっちか——」


 俺は轟音が響いてくる方向へ、一人で向かっていく。


 その時、何やら胸の痛みを感じる……。


「和馬……?」


 何故か、和馬の意識が叫んだ……そんな気がした。


 安心してくれ。お前に代わって、俺が必ず結衣を救ってみせる。


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