179話 魔王と聖女と勇者

……綺麗になったな。


この年の一年というのは、本人が思っているより大きい。


まさか、成長した姿を見れるとは……こんな形でさえなければ。


「何よ? じっと見てきて……」


「いや、綺麗になったなと思ってな」


「なっ!? こいつ、あんなに可愛い子侍らせといて……!」


「ま、待てっ!」


クソ!? 調子が狂う!

今の俺はアレスだから、セレナやカグラを裏切るつもりはない。

しかし、結衣を前にしたら……和馬の想いが溢れてくる。


「けっ、中ボス風情が。さっさと片付けようぜ」


「……そうね、それには同意するわ」


俺は警戒しつつ、勇者と呼ばれる男を見る。

チャラチャラした、如何にも軽薄そうな男だ。

こんな奴に、結衣はやれん……と、今の俺が言えた義理じゃないか。


「お前は何だ? 結衣の彼氏か?」


「おっ、そうみえる?」


「違うわよ! 私は和馬さん一筋だもん!」


「いや、それはそれで困る」


「何で偽物の貴方が困るのよ!?」


「偽物か……」


その言葉を否定できない自分がいる。

アレスとて生きて、早十五年……和馬としての意識は、大分薄れている。


「おい! 女神様の話を聞いてたろ!?」


「そ、そうだったわね……そういう手口を使うって言ってたわ」


「ほう? 女神がそんなことをねぇ……結衣、騙されるな。思い込むのは、お前の悪い癖だ。女神は、お前を無理矢理この世界に呼び出した存在なんだぞ? そして、自分の都合のために、お前を戦わせているんだぞ? その意味を、自分の頭で考えてみろ。お前は、本来は」


「子供のくせに和馬さんみたいなこと言わないで!」


「ったく……子供はお前だ、結衣。しっかり、俺の目を見ろ——俺が嘘をついてるように見えるか?」


「そ、それは……でも、和馬さんを殺したのは邪神で……」


邪神が俺を殺した?……なるほど、そういうシナリオか。

邪神が俺を殺したことにして、結衣を焚きつけたということか。

この子は本来は馬鹿ではない……。

つまり結衣の俺への想いは、そこまでだったと……利用するとは胸糞悪い。

女神の正体はわからないが、少なくとも良い存在とは思えない。


「もう良い! 行くぜ!」


「ちっ、邪魔な勇者だ」


勇者を名乗る男が、剣を構えて向かってくる。


「俺の名前は中村将吾だっ!」


「速いな……」


力任せに振るった剣を、一歩下がって躱す。

素人くさいが、スピードとパワーを感じる一撃だ。


「おい! こいつを倒さねえと、元の世界に帰れないぜ!」


「そ、そうよね!」


その瞬間——結衣の身体が光りだす。


「ホーリーランス!」


「ダークランス!」


光と闇がぶつかり——相殺される。


どうやら……今は戦うしかないようだ。


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